『イップス』第6話 司法制度の雑な扱いに感じる作り手の「ミステリー好きじゃない」感

イップスで書けなくなった小説家・黒羽ミコ(篠原涼子)と、イップスで捜査ができなくなった刑事・森野(バカリズム)がコンビを組んで難事件を解決していくドラマ『イップス』も第6話。

ここまで、先に犯人を明かした後にトリックを解いていく、いわゆる「倒叙型ミステリー」と呼ばれるフォーマットで一話完結してきましたが、今回はガラリと様変わり。森野が何者かに誘拐され、その犯人と犯人の目的が謎のままスタートしました。

振り返りましょう。

■犯人は近くにいるとか、犯人は現場に舞い戻るとか

今回は、ミコさんと森野がイップスになったきっかけの事件について。

8年前、ミコさんの過去の小説をモデルにしたと思われる殺人事件が起こりました。逮捕されたのは、異口治(いぐちおさむ)というタクシー運転手。被害者の心臓に十字架を突き立てるという、異常な手口でした。

森野は何者かに誘拐され、カメラの前で「この事件は冤罪だ」といった告発をさせられます。その動画は拡散され、ミコさんは森野の同僚刑事・樋口(矢本悠馬)、お付きの運転手である坂浦(渡辺大知)とともに動画の撮影場所を突き止め、その現場に駆け付けます。

森野をさらって告発させていたのは、坂浦でした。第1話からミコさんへの熱烈な愛情と愛嬌を振りまいていた運転手の坂浦が、実は父である異口治の冤罪を晴らすためにミコさんに近づいていたのでした。

この事件を担当していた森野は、異口の逮捕後に冤罪を疑い、捜査を続けて異口が犯人ではないことを確信しましたが、絶望した異口が自白をしたことで捜査は終了。異口は裁判にかけられ、収監されることになりました。

事件の真相に迫りながら無実の人を刑務所に送ってしまった森野。異口にたたきつけられた「卑怯者」という言葉が胸に刺さり、それ以降イップスに。ミコさんも、自分の書いた小説が実際の殺人事件に使われたことが原因でイップスになったのだそうです。

森野とミコさんは、イップスを克服するためにも、この事件の真犯人を探すことを決意します。というお話。大筋としては、けっこうおもしろい感じです。

■司法制度どうなってんの

わかっててスルーしてるとは思うんですが、森野の動画による告発は以下のようなものでした。

「警察は誤認逮捕を認めて、すぐに異口治を釈放してください、異口治を釈放してください」

異口治は罪を認め、服役しているといいます。言うまでもないんですが、その犯人が有罪か無罪か、刑期は何年何カ月が相当か。それを判断するのは裁判所です。警察は疑いのある者を被疑者として、必要なら身柄を拘束し、事件の捜査を行うだけ。今になって警察が誤認逮捕を認めたとしても、警察に異口を釈放する権限はありません。

犯人がそうした司法制度に無知で逆恨みをしているとしてもいいですし、その無知を根拠に森野にこのセリフを言わせたまではいい。けど、警察側もそのシステムの勘違いに乗っかって物語が進んでいくのは、どうにも受け入れがたいところでした。

ファンタジーなら別にいいんですけど、『イップス』はリアルに即したミステリーです。現実社会において描かれるミステリーというものは、ドラマから与えられた情報と、見る側があらかじめ持っている常識や知識を織り交ぜて物語を追いかけるからこそ楽しめるものです。それが冤罪にまつわる事件であれば、「冤罪」という言葉の周囲にある状況は、できるだけリアルに作り込まないと、ドラマに乗ろうという気になれないのです。「冤罪」というテーマがシリアスでなくなってしまう。テーマがシリアスでない物語の登場人物が、個別にシリアスでいられるわけがありません。

言いたくないけど、作ってる側があんまりミステリー好きじゃないんだろうなと思っちゃうんですよね。ドラマなんだからいろいろ矛盾や手落ちがあることは仕方ないんだけど、ミステリー好きじゃない人が作るミステリーって、「ここだけは、それやっちゃうとイカンのよねえ」という勘所を平気で落としてくるので、大筋としておもしろくてもちょっとアレなんだよなと、そんな感じです。

大筋としては、おもしろくなってきたと思いますけども。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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