「ヤバT」ライブ1週前にチケット残り1600枚→懸命の告知で完売 なぜ成功?岡崎体育の先例との共通点...専門家が分析

これまではどちらかといえば一方通行だった音楽ライブのチケットの売り方に、変化が生じている。

2024年3月、シンガーソングライターの岡崎体育さんがSNSでライブツアーの告知を懸命に行い、着々と席を埋めたことが話題に。ロックバンド「ヤバイTシャツ屋さん」も同じような手法で、ワンマンライブのチケット完売を成功させた。

このようなSNSを積極的に活用したライブの宣伝とチケット販売は、なぜ成功したのか。マーケティングに詳しい専門家は、宣伝方法と2組のブランドイメージとが合致したことが一番の要因とし、「共創マーケティングの成功例」だと指摘する。

岡崎さんは一般ユーザーに直接リプライも...2組は必死の告知

ロックバンド「ヤバイTシャツ屋さん」のライブチケットの残り枚数が話題になったのは5月3日。ボーカルのこやまたくやさんが、バラエティー番組「ラヴィット!」(TBS系)出演に出演した際、志摩スペイン村(三重県志摩市)でのワンマンライブ「"スペインのひみつ解明 ONE-MAN SHOW" in 志摩スペイン村 ~ザ・リベンジ~」のチケットの残り枚数を明かしたことによる。

その後も、Xでたびたび、「5月12日のチケットが1600枚残っています」のテロップで入った番組出演時のキャプチャ画像を使ってワンマンライブを告知した。

さらに6日には、20年3月にスペイン村でのライブを企画していたものの、新型コロナウイルスのため中止になったと説明し、長文で今回のライブにかける思いをつづった。

また、メンバーのありぼぼさんも8日にXで、ワンマンライブにかける思いをつづり、積極的に告知を行っていた。2人の投稿には、ファンからも応援の声や、ライブのよさを伝える声が寄せられた。

そしてライブ最終日の12日、こやまさんやありぼぼさんは大勢の観客で埋まった会場の写真を投稿、ライブは大成功だった様子だ。

こうしたSNSを通じたライブの呼びかけは、こやまさんと親交のある岡崎体育さんも取り組んだ。それは24年3月から、「みっともない」などの声に晒されながらも懸命に、全国6か所で開催されるツアーライブ「岡崎体育Zepp Tour 2024」についてXで宣伝していたことだ。

岡崎さんは3月17日にXで「全公演2階席売り切れで1階席がチケット余りまくるという珍事が起きています!」と投稿。翌18日からはたびたび、残りチケット枚数を公開し、積極的にチケット購入を呼びかけた。「ライブに行こうか迷っている」という一般Xユーザーに直接リプライもしていた。

こうして着々と残り枚数は減り、横浜、札幌、名古屋、福岡、大阪、東京の6公演のうち、札幌公演を除く5公演で完売を達成したようだ。

とくに福岡公演では、ライブ前日の28日午前時点で236枚残っていたものが完売。岡崎さんの「完売しました!!!!!!」という投稿は、5万超の「いいね」が付き注目を浴びた。

「大量の『誤発注』買ってください」投稿に通じる?

このような2組のアーティストの取り組みについて、マーケティング論の専門家でプロデューサーの濱田俊也・文京学院大学経営学部教授(濱は正しくはまゆはま)は、

「まず岡崎さんがネットを用いて宣伝活動を行い券売に結びつけ、そして、ヤバイTシャツ屋さんは岡崎さんを参考にして宣伝していたと思われますが、両方成功したととらえられるでしょう」

と説明した。

そのうえで、マーケティング・コミュニケーションの観点からいえば、彼らの日頃のアーティストスタイルやコンセプトにより持たれているブランドイメージと、今回の宣伝方法とがマッチしたことが成功の要因になった、と見解を示した。

一方で、フェスの総合プロデュース経験もあるプロデューサーの顔も持つ濱田教授は、

「『チケットが余ってるので買ってください』とは、有名メジャーアーティストともあろう人が一体なにをやっているんだ、という印象も持つ人も少なくなさそうです(笑)」

とも指摘する。

「いうなればチケットが見立て違いで余りまくっていたことを考えれば、この2組だけの宣伝の成功の物語でなく、たとえば『間違って大量発注しちゃったお弁当を買ってください(涙)』という、"SNSでの告知、宣伝による、誤発注のリカバリーの成功の系譜"に位置付けてもよさそうな気がします」

では、「誤発注した大量の商品を買ってください」という投稿が話題になり、リカバリーが成功するポイントはあるのだろうか。

濱田教授は、「たいていの場合、やらかした人が愛される存在であることでしょう」という。今回の岡崎さんやヤバイTシャツ屋さんの「キャラクター」が、成功を導いたと評価した。

観客自身が「楽しいイベントを作り、そこに参加した」

さらに濱田教授は、今回の彼らの宣伝方法について「共創マーケティングの代表的な成功事例と考えていいように思う」と見解を示す。

濱田教授によると、最近のフェスやライブの大部分が、開催週になってやっとチケットが売れていくという。それに対して岡崎さんの場合は、比較的早い段階でSNSでの懸命な告知を開始したとし、「個人アーティストとはいえ、またずいぶん早く白旗を揚げたな(笑)、と思いました」と所感を語った。

もっとも、「このように初期からマーケティング主体と消費者が商品開発にあたっていくのは、一般商品・サービスでは、『共創マーケティング』と呼ばれる手法にあてはまります。エンターテインメントは、オーディションやファン企画のライブなどを行うこともあり、共創とは相性がいいです」と説明する。

「共創マーケティングはうまくいった事例ばかりではなく、そう簡単に顧客を巻き込むことはできません。エンタメの世界は共創マーケティングと相性がいいとはいえ、ここまで巻き込めるというのは(岡崎さんやヤバイTシャツ屋さんの)アーティストスタイルの現れであり、それが成功の一番の要因だと思います」

たしかに、ライブ後、SNSには「楽しかった」「最高だった」などの感想がSNSでは多数書き込まれた。

濱田教授は、岡崎さんやヤバイTシャツ屋さんに「巻き込まれた」観客は、アーティストに楽しませてもらうことはもちろん、観客自身が「楽しいイベントを作り、そこに参加したのだと思います」という。それゆえ、「満足感がとても高かったのではないでしょうか。愛される人が、愛される人だけしかできない方法でライブを成功させた、ということかと思います」と指摘する。

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