信頼関係が生んだ“ターゲット1.5倍の過激なセットアップ”。小池エンジニアが振り返る岩佐歩夢の予選PP劇

 5月18日に大分県のオートポリスで行われた2024年全日本スーパーフォーミュラ選手権第2戦の予選。まさに0.001秒を争う激戦が繰り広げられる公式予選となったが、その中でQ2では岩佐歩夢(TEAM MUGEN)がライバルに0.338秒の大差をつけて初のポールポジションを獲得した。

 なかでも際立ったのが、セクター2(3コーナー手前から第2シケイン手前まで)の速さだ。上位陣の区間タイムを見ると28秒1~2だったのに対して、岩佐のみが27秒853と群を抜くタイムを刻んでいたのだ。

■「何があっても攻め切る」覚悟とセクター2に活きた“秘密のアイテム”

 これについて岩佐の15号車を担当する小池智彦エンジニアに聞くと、「ちょっと、秘密のアイテムを……」と苦笑い。「今回は『予選のセットはこれでいく』と決めておいて、それに加えてテストアイテムとして用意をしていた」ものだという。

 これがセクター2の躍進の要因になったようだが、小池エンジニアは「昨年同様、セクター3を取りにいきたかったです」と言う。昨年、小池エンジニアが担当していたリアム・ローソンは、ここオートポリスで予選2番手、決勝では優勝を飾っている。

「もちろん上にいくためというのもありますし、この前の鈴鹿で結構守りに入ってしまったので、今回はだいぶ攻めていこうと決めていました」と小池エンジニア。3月の開幕戦鈴鹿での敗戦から、ここに至るまで徹底的にミーティングを行い、第2戦に向けた方向性や意見交換を繰り返してきたという。

「ミーティングは、おそらく全ドライバーのなかで一番したと言えるくらいはやったと思います」と小池エンジニア。

「鈴鹿のF1が終わってからは(岩佐は)ずっと日本にいましたが、彼は大阪を拠点にしているので、そこまでしょっちゅう会えるわけではありません。その中でも、4回くらい会ってミーティングしました。(埼玉県朝霞市にあるTEAM MUGENの)ファクトリーにも来てくれましたし、(F1前に)イギリスから帰ってくるタイミングを見計らって羽田空港で会って、その中にある有名カフェチェーン店でいろいろと話をしていました」

 実際に岩佐も「鈴鹿が終わってから『何がダメだったのか、何が改善できるのか』という振り返りから始めて、そこにかなりの時間を費やしていました。特にエンジニアたちと時間を過ごして、いろいろな分析やディスカッションをしました」と記者会見で語っていた。

 スーパーフォーミュラのレーススケジュールがポッカリと空いたこの2カ月間でお互いにコミュニケーションをとっていた岩佐陣営。小池エンジニアも「リアムの時もそうですけど、人ってやっぱり会ってすぐに100%のリレーションシップ(関係性)は築けなくて、徐々に築き上げていくものだと思います」と、積み上げていくことの重要性を改めて実感している様子だった。

 その中で、小池エンジニアと岩佐が今回に向けて決めたのが「何があっても攻める」だった。

「前回は予選に向けての組み立て方でかなり守りに入っちゃうところがあったので、今回は『攻め切る』という覚悟を決めてきましたし、そういうマインドの部分やコミュニケーションの取り方も含めて、ここまで何回も顔を合わせて話をしてきました」と小池エンジニアは続ける。

「エンジニアって、ドライバーを100%信じられているかというとそうではない部分も正直あって『攻めすぎてしまってミスをしてクラッシュしたらどうしよう』と思うところもありましたけど、今回はその考えは一切捨てて、自分が岩佐と『ここまでできる』というフィーリングの1.5倍くらいのところをターゲットにして過激なセットアップをしていきました。結果的に最初から速かったのも、それが関わっていると思います」

 あとは明日の決勝レースでトップチェッカーを受けるだけだが、「昨年もスタートで1台前に行かれて戦略的に苦しくなった部分がありました。たまたまうまくいきしたけど、今年は王道のレースをできればいいなと思います」と小池エンジニア。ポールポジションは獲得したものの「まだこれからです」と、終始冷静な表情をしていたのが印象的だった。

2024スーパーフォーミュラ第2戦オートポリス 岩佐歩夢(TEAM MUGEN)

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