「素敵な人だ」ブンデス初無敗優勝&3冠に邁進のレバークーゼン、X・アロンソ監督の人間性を感じた瞬間。残り3試合、ドイツ代表MFは「メンタルコントロールが重要」【現地発】

果たして無敗記録はいつまで続くのか。ドイツの新王者となったレバークーゼンは、浅野拓磨が所属するボーフムとのブンデスリーガ33節でも最終的に危なげなく5-0で快勝している。15分にボーフムが一人退場者を出した影響も大きいとはいえ、相手の足が止まるまで辛抱強くボールを回し続け、動きが鈍ってきたところを逃さず次々にゴールを決めていく姿はまさに圧倒的だ。

今シーズンは様々な記録がどんどん更新されているが、ボーフム戦後には次の記録が取り上げられていた。

・公式戦50試合連続無敗は5大リーグでの史上最高記録
・アウェー全17試合無敗は過去1986-87、12-13シーズンにバイエルンだけが達成
・16試合目の無失点。14-15シーズンに次ぐクラブ最高記録
・アレハンドロ・グリマルドはブンデスリーガデビュー以来自身が出場した32試合連続無敗で2位。1位は元バイエルンのハビ・マルティネスで39試合連続無敗
・アレハンドロ・グリマルドが10ゴール・13アシスト、フロリアン・ヴィルツが11ゴール・11アシストと1チームで2人が二桁得点&二桁アシストを記録。05-06シーズンにブレーメンでミロスラフ・クローゼとティム・ボロフスキ、12-13、13-14シーズンにフランク・リベリとトーマス・ミュラーが達成して以来4組目

【動画】残り1分で初黒星を阻止! レバークーゼンの劇的同点弾
ボーフムのCBケビン・シュロッターベックは試合後の取材エリアで、「相手はドイツ王者。レバークーゼン相手に大量失点で負けたチームはうちが初めてじゃない。僕らは全力で戦った。今日何とかしようと思ったけどうまくいかなかった。だから切り替えてやっていくだけ」と語り、その強さに脱帽するしかない様子だった。

そのすぐ近くでは、レバークーゼンのドイツ代表MFロベルト・アンドリヒが記者の質問に答えている。囲む報道陣は見出しになりそうな大きなコメントを引き出そうとするが、それをのらりくらりといなす。

開始15分まではボーフムが積極的に前線からマンツーマンで激しいプレスを仕掛けてきたことで、なかなかいい形でボールを運べないでいたことを受けて、「開始15分は問題もありましたが?」と尋ねられる。

「問題ってなに?ボーフムでの試合となれば、開始直後からファンの声援をバックにロングボールからの空中戦、セカンドボールの競り合いはわかっていたこと。だから僕らは慌てることはなかったし、自分たちの時間がくることはわかっていた。レッドカードはもちろんいいタイミングで来たというのはあるけど、いずれにしても僕らは落ち着いてプレーができていたし、最後まで追加点を狙ってサッカーができた」

開始から全力プレーでいけば強豪相手でも持ちこたえたり、局面的に相手を凌駕することはできるかもしれない。だが、サッカーは90分のスポーツだ。90分の中で最適な解決策を見出していくことが求められるスポーツだ。

前からプレスに来るということは同時に後ろにスペースができるリスクを抱えることになる。開始5分の段階でシャビ・アロンソ監督はFWへのロビングパス、逆サイドの深い位置へのサイドチェンジを盛んにコーチングゾーンから指示していた。結果として15分のレッドカードで試合の大勢は決まったといえるが、レッドカードがなくてもレバークーゼンは周到にボーフムを押しこんでいったことだろう。

34節ではホームにアウグスブルクを迎える。優勝を果たしてもモチベーションや緊張感がなくなることもなく、どの試合にも真剣に立ち向かっている。いよいよブンデスリーガクラブ史上初となる無敗でのシーズン制覇が現実味を帯びえてきた。

アンドリヒはチームの雰囲気についてこんな風に話している。

「試合に向けての準備はこれまでと同じように進んでいくと思うよ。ワクワクとか喜びは優勝を決定づけたブレーメン戦と似たような感じかな。僕らにとって大事なのは、何か特別なことをしようとかそういうことじゃなくて、自分たちのサッカーをやり続けること。今シーズンずっとやっているようにね」

手を抜くことなど一切ない。どの練習にも、どの試合にも集中して取り組んでいく。シャビ・アロンソ監督が常日頃から強調していることだ。そしてこれだけの偉業を前にしても指揮官は謙虚な姿勢を崩しはしない。

ホームで行なわれる最終節では、オリジナルのマイスターシャーレ(優勝皿)がついに手渡される。地元記者から「あなたは選手時代にマイスターシャーレを手にしたことがあると思うが、今度の優勝はどんな意味を持つのか?」という質問をされると、ゆっくりとしたトーンでこう答えた。

「選手としてはね。でも(これまで優勝歴がない)レバークーゼンというクラブで、そして指導者としての優勝は特別だと思う。ただ優勝できたのはチームのパフォーマンスがあってのことなんだ。私がなしえたんじゃない。若い選手たちはチャンスを生かしていいプレーをし続けた」

スタッフとのコミュニケーションも友好的に取るし、それはアウェーのスタジアムでも同様だ。取材を終えて会見場を出ようとすると、ボーフムのケイタリングスタッフがざわざわしていた。

「シャビ・アロンソはうちらのカレーソーセージを食べてくれた?」
「おススメはしたんだよ。でもクラブで準備しているのがあるからと丁重に断られた」
「そうか、食べてもらいたかったなぁ」
「でもすごく丁寧だったよ。素敵な人だった」

カリスマがありながら、親しみがある。誰もが彼と話をしたいと思わせる雰囲気がある。嫌味なところが全くない。

そんなシャビ・アロンソともにレバークーゼンはリーグ、DFBカップ、そしてヨーロッパリーグの3冠獲得を狙う。

「チームにとって大きな挑戦になるね。どうやってメンタルコントロールをしていくかが重要になる。リーグ優勝は決めることができたけど、楽しみにしているし、すべてのタイトルにハングリーだ。全部のタイトルを手にしたいよ」

アンドリヒはそう力強く語った。その言葉は信じるに値するだけの確かな響きがある。僕らはいま、歴史的な瞬間に居合わせているのかもしれない。

取材・文●中野吉之伴

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