【オークス みどころ】強さ、逞しさを併せ持つ樫の女王はどの馬か

ステレンボッシュ (C)SANKEI

「逞しい馬が多いなぁ」――歴代のオークス勝ち馬を見ると、そんなイメージを持つ。

第85回オークス(優駿牝馬)(GI)枠順

古くはエアグルーヴにメジロドーベル、そして最近でもアーモンドアイにリバティアイランドなど古馬になってもGⅠタイトルを積み重ねたり、牡馬と互角に走ったりする馬が不思議とオークス馬には多い。

牝馬クラシックの中で最も長い距離である2400mを3歳春の時点で走るというのはあまりに酷なこと。だが、それをこなして樫の女王となったうまだからこそどこか逞しくなるのかもしれない。

古馬になっても活躍する持続性、そして牡馬を相手にしても苦にしないタフさ......まだ若き彼女たちの中でそうした能力を見せ、未来の活躍を最も予感させるのはステレンボッシュだろうか。

大牧場・ノーザンファームで生を受けた彼女は世代屈指のポテンシャルの持ち主として評判になった1頭。

スタートからそつなく前に付けて流れに乗って直線早めに差すというレース運びで3戦2勝。牝馬にとっての出世レースである赤松賞を制して阪神JFに臨んだ。

その阪神JFではアスコリピチェーノに届かず2着。上がり3ハロンではメンバー最速となる33秒5という末脚を繰り出したが、エンジンの掛かりが遅いせいで進路選択に手間取り狙っていた外ではなく内を突いたことが仇となり、鞍上のクリストフ・ルメールを悔しがらせた。

あの日と同じ轍を踏まないとばかりに挑んだ桜花賞では出遅れながらもライバルたちよりもいち早くスパートをかけたことが功を奏し、見事に勝利。

その勝ちっぷりは管理する国枝栄調教師も「アパパネ、アーモンドアイの時と遜色ない走り」と手放しで絶賛するほどだった。

2歳時に比べると我慢が利くようになった」と、関係者が評するように成長も見られる桜の女王・ステレンボッシュ。

距離は800m延びるとはいえ、血統的にはむしろ望むところというべき条件なだけに偉大な先輩たちと同様に二冠制覇を果たすかもしれない。

距離が延びるというメリットを考えると、ライトバックに逆転の目があるかもしれない。

名門・メジロ牧場の系譜を引くレイクヴィラファームで一番の期待馬と称されるなど、若駒時代から注目された彼女は出遅れ癖に悩まされながら、エルフィンSを制して暮らし苦戦戦に乗ると、桜花賞では7番人気という低評価だったが、上がり3ハロン最速となる32秒8の脚を使ってステレンボッシュと0.1秒差の3着に食い込んだ。

キズナ産駒ならではの燃えやすい気性は玉に瑕だが、それでも爆発的な末脚は世代最高クラスの破壊力を誇る。

距離が延びることで末脚の価値が増すであろう樫の舞台はこの馬にとってピッタリな条件となるだろう。牧場にとってメジロドーベル以来、27年ぶりとなる牝馬クラシック制覇を成し遂げるかもしれない。

メジロドーベルの1年前にオークスを制したのがエアグルーヴ。後に天皇賞(秋)で牡馬を捻じ伏せて制したことで女帝と称された彼女の背中には天才・武豊がいた。

その武豊がエアグルーヴ以来のオークス制覇を目指してタッグを組むのがスウィープフィートだ。

新ひだか町の小さな牧場で生まれた彼女はデビュー当時、無名の存在。

秋の京都で初勝利を挙げた時は6番人気。白菊賞2着をステップに挑んだ阪神JFも9番人気7着と特に目立つことはなかった。

しかし、明け3歳緒戦で迎えたエルフィンSで3番手から動いて早めに仕掛けてライトバックの2着に入り、その後臨んだチューリップ賞で武豊と初めてタッグを組んだことで彼女は目を覚ました。

スタートで後手を踏んだことで今までよりも最も後ろからのレースとなったが、後半から追い上げて直線一気の脚で外から追い込んで見事に差し切り勝ち。

上がり3ハロンはメンバー最速となる34秒3を記録して、切れる末脚を見せつける形になった。

続く桜花賞も後ろからのレースとなり、直線で豪快に追い込んで4着に。ともに追い込んできたライトバック同様に上位に食い込んでみせた。

経験と末脚の切れであれば今回のメンバーでも上位クラスなだけにあとは名手がその末脚を引き出すかだろう。血統を辿れば豪快な末脚で鳴らした名牝、スウィープトウショウもいる。一族の武器でもある末脚を府中のターフで爆発させることはできるだろうか。

桜花賞組が優勢な傾向があるオークスだが、別路線組でも期待の馬はいる。その中でも注目したいのはアドマイヤベルだ。

新種牡馬スワーヴリチャード産駒としてデビュー戦を飾ると、百日草特別、フリージア賞で3着→2着と惜敗。だが、デビュー以来一貫して中距離戦に挑むなど、当初から桜花賞ではなくオークスを狙ったローテーションだったことは明らか。

そうした陣営の期待通り、フローラSでは中団で脚を溜めると、直線で外目からグングンと伸びてきて勝利。

中距離の経験は桜花賞組よりもはるかにある馬なだけにスタミナ面での不安はなく、ここまで4戦中3戦で東京コースを走ってきたという地の利もある。それだけに桜花賞組を蹴散らして樫の女王になる可能性もある。

近年のオークス馬に求められる強さと逞しさ。その2つを兼ね備え、これからの競馬界を支える存在になるのは果たして、どの馬だろうか。

■文/福嶌弘

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