「選手を休んでも復帰できるんやで!」痛恨ミスも、執念の演技でパリ五輪“補欠”を掴んだ杉原愛子。笑顔で語った現役復帰の原動力「自分は体操が大好き!」【NHK杯】

涙を浮かべるも、一片の悔いはない。

パリ五輪の代表選考会を兼ねた体操のNHK杯が高崎アリーナで行なわれた。4月の全日本選手権の得点を持ち点に争われた女子の個人総合決勝は宮田笙子が合計217.162点で大会3連覇を果たし、初の五輪切符を獲得。また2位の岸里奈、3位の岡村真、4位の中村遥香も代表入りを決めた。残る1枠は、団体総合で得点に貢献できる「チーム貢献度」により、跳馬で高得点を並べた牛奥小羽が選出された。

パリへの切符を懸けた熾烈な選考会が終了し、5人の五輪代表が確定した。全員が初出場で平均年齢は17.6歳のフレッシュなメンバーが揃い、最年長は宮田と牛奥の19歳。団体戦は伸び盛りのメンバー構成となった。
歓喜の笑顔や涙が溢れた一方、3大会連続の五輪出場を目指した杉原愛子は5位に終わり、無念の代表落選となった。21年の東京五輪後に一度は現役を引退するも、昨年6月の全日本種目別選手権で電撃復帰。3度目の大舞台出場に向け、第一線に戻ってきた。

この日は跳馬で13.800点をマークし、いきなり上位につけたが、段違い平行棒で落とし穴が待っていた。上のバーから下のバーに移った際、杉原は倒立でバランスを崩してしまい痛恨の落下。16日の予選と同じミスをしてしまい、11.066点と得点は伸び悩んだ。

だが、2度の五輪を経験した24歳は諦めなかった。4つ目の平均台を13.666点で盛り返すと、最後の種目であるゆかは、洗練された躍動感ある演技で会場を魅了。ラストの着地をピタッと決めると、客席から拍手万雷。万感の想いで演技を終えると、ガッツポーズが飛び出した。得点も全体トップタイとなる13.366点を叩き出し、ベテランの意地を最後に見せた。

会心の演技を披露したが、惜しくも代表切符には手が届かなかった。

杉原は試合後、目に涙を浮かべながらも笑顔で囲み取材に現れた。「(段違い平行棒の)ミスはすごい痛かったんですけど、そっからもういい意味で吹っ切れた」と振り返り、「平均台とゆかでは、自分の中で最高の演技ができた。体操の魅力も伝えることができたし、応援して頂いて感謝の気持ちでいっぱいなのに『素敵な演技をありがとうございました』っていう言葉を(客席から)頂き、本当に嬉しかったです」と、晴れやかな表情で語った。 一度は現役を離れたが、ここまでの原動力とは何なのか。その問いかけには、「やっぱり自分は体操が大好き。だからこそ、体操をメジャースポーツにしたいから、パリオリンピックを目指して頑張ってきた。結果として代表選手に選ばれなかったですけど、もうホンマに感謝の気持ちしかないです」と、最後まで温かい声援を送ってくれたファンに謝辞した。

さらに、「選手を休んでも、こうやって競技復帰ができるんやで!っていうのが皆さんにもお伝えすることもできたし、いろいろ自分から発信できたことはたくさんあったので、この舞台で代表選手たちと一緒に戦えたのは誇りに思います」と、笑顔満点のスマイルで後輩らにメッセージを送った。

自身の今後については、「引退はまだ考えていない」と言い切った。代表入りは叶わなかったとはいえ、今夏のパリ五輪では補欠選手として現地に帯同する。「やっぱり補欠って、ホンマに何があるか分からへんから全種目を安定してできるように準備しとかないといけない。自分の役割を果たしたい」とチームのサポートに徹しながら、万が一のための備えとして準備を進めると誓う。全員が10代で初出場と若いチームだけにリオ、東京とオリンピックを経験している24歳の杉原は精神的な支柱としても大きな期待が懸かる。 最後は、「たくさん体操を伝えられるように頑張りたいと思いますし、ぜひテレビとかで見て頂けると嬉しいです!」と、チャームポイントの笑顔を披露。目に浮かんだ涙の意味を問われた時は少し言葉に詰まり、涙が頬を伝う場面もあったが、演技同様に彼女らしい笑顔を最後まで貫き通した。

取材・文●湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

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