「クラフトビールをもっと多くの人々に楽しんでほしい!」業界のインフラ作りを手掛ける企業、Best Beer Japanに話を伺った

レン樽を持つピーター氏とBest Beer Japanの皆さん (写真:BBJ提供)

2024年4月現在、日本におけるクラフトビールの認知度は以前に比べてかなり上がってきたと実感する。しかし、クラフトビール市場は世界中でも拡大している。クラフトビール先進国のアメリカでは全てのビール生産量のうちクラフトビールが占める割合が約13%(※1.Brewers Association)である一方、日本ではわずか1%(※2.国税庁)にとどまっている。日本におけるクラフトビール産業は伸び悩んでいる状況で、さらなる発展のためには多くの課題が残されている。
※1. Brewers Association (BA). 2021 Annual Craft Brewing Industry Production Report.
※2. 国税庁.地ビール等製造業の概況 平成30年度調査分.

「クラフトビールをもっと多くの人々に楽しんでもらいたい」という情熱を持つアメリカ人起業家が、日本のクラフトビール業界が抱える課題にITを活用したサービスを提供することで、業界に変化をもたらし始めている。2018年に創業した日本発のスタートアップ企業「Best Beer Japan」(以下、BBJ)の創業者、ピーター・ローゼンバーグ氏(以下、ピーター)に話を聞いた。

Best Beer Japanの創業者のピーター・ローゼンバーグ氏 (写真:BBJ提供)

筆者:ベストビアジャパンを立ち上げたきっかけを教えてください
ピーター:日本でクラフトビールを飲みに行くと、どのビールも高いですよね?ビール業界にいる人でさえ高いと感じる値段なのですよ。クラフトビールを未だ体験したことがない人に飲んでもらうためには価格をもっと下げないといけないと思います。この価格問題を考えていると、日本のクラフトビール業界に必要なインフラが足りてないことがわかりました。アメリカやヨーロッパのクラフトビール業界が日本より発展してるのは、業界を支えるインフラがしっかりしてるからだと思います。私は「日本のクラフトビール業界にも同じようなインフラを作りたい」、そのような思いでBBJを立ち上げました。

提供するサービスのビールの樽を掲げるピーター (写真:BBJ提供)

筆者:課題をどう解決するインフラをどのように立ち上げていったのですか?
ピーター:クラフトビールの価格が高いのは、主に4つの理由だと思います。

1. 生産量が少ない

2. 酒税が高い
3. 物流コストが高い(ビールの原価の約2割)
4. ビール醸造から消費者の手元に届くまでのプロセスが非効率的

1と2は、すぐに解決できる問題ではない。しかし、3と4はITを駆使してなんとかできると思いました。

最初にビールの樽をレンタルする「レン樽」というサービスを始めました。これは、醸造所が自分で樽を持つのではなく、BBJが樽を貸し出して、みんなで共有するスタイルです。どこの醸造所から届いた樽でもBBJが回収し、近くの醸造所に配送するため樽が移動する距離がぐっと短くできます。その結果、物流コストを削減できます。

次に、取り掛かったのが醸造所のバックオフィス業務をサポートするサービスです。多くのクラフトビール醸造所は、少人数で運営されているためビール醸造を行う人は全ての業務を行わなければなりません。そのため、ビール作りの傍ら、それ以外の細かい作業(酒税の管理や在庫のチェック、請求書の管理など)に多くの時間をとられています。また、紙やExcelで何度も手作業を繰り返してることが多いです。、このエリアにITを導入することは、作業の単純化やミスの防止をすることで効率化が図れます。醸造家にはビール作りにもっと時間をつかって欲しい。そして、この取り組みがクラフトビール業界全体のレベルアップにも影響を与えると思っています。

ピーターと同僚の仕事時の風景 (写真:BBJ提供)

最後に、飲食店がさまざまな醸造所から一括で発注できるサービスを立ち上げました。クラフトビールの醸造所は小規模で運営していることが多く、また、常に新しいビールを作り出しているため商品の種類が多い。これまでは飲食店が各醸造所と個別にやり取りしていました。しかし、BBJが立ち上げたクラフトビールプラットフォームでは、150社以上の醸造所のビールを発注でき、請求書は一回にまとめて取り扱えるようにしました。これにより飲食店にとって、クラフトビールの発注業務がより簡単になります。BBJがこのサービスを実現できた背景には、醸造所向けに既に提供しているバックオフィス業務のサービスがあるからなのです。今後はクラフトビールを含めて他の酒類の管理と販売ができるようにシステムを拡大する予定です。また、酒屋や問屋でもより簡単にクラフトビールを取り扱うように他社と積極的に連携したいです。

筆者:起業に踏み切ったころの動機について少し踏み込んでお聞かせください。なぜビールなのか?
ピーター:まずはビールが好き。元々ビジネスも好きで、BBJは2社目の起業です。1社目は教育系のアプリを開発して起業しましたが、2015年に買収されてました。その後、人力車を引いてみたり、さまざまな仕事を経験してみました。そんな時に、通った大学院経由でコンサルティングをする機会があり、岩手県の遠野市が観光客を増やしたいという相談がありました。

最初に遠野市にどのような資源があるかを調べてみると、キリンのホップの多くが遠野市で作られてるってことがわかりました。この経験とその当時に感じたクラフトビール業界の成長の可能性が「将来的にビールでビジネスができないか?」を考えるきっかけになりました。

そして2018年、法改正により酒税が緩和されると発表されました。私にとって起業する様々な好条件が揃った時でした。ビジネスがすきである、クラフトビール業界の成長の予感、得意のITが活用できる、政府の支援もある(酒税の緩和)。起業するチャンスがあるなら、様々な好条件がそろった「今でしょ」と思いました。

パイントグラスを持つピーター (写真:BBJ提供)

筆者:2018年に創業したあとのコロナ時期はクラフトビール業界にとっても大変な時期でした。この時期をどのように乗り越えましたか?
ピーター:コロナ禍が始まったとき、まん延防止措置の適用によりクラフトビールの店頭での消費が一気に落ち込み、醸造所の売り上げがほぼ無くなってしまいました。弊社のお客様である醸造所が大変な状況にある中で、BBJとして何か新しいことができないかを検討できる機会となりました。そして以前から考えていたバックオフィスの管理サービスを開発にリソースを使うことで、逆に成長することができました。 そのため、BBJの管理システムを導入する醸造所が増えました。一方で、いくつかの醸造所はコロナが原因で閉鎖されることになったことは残念ですが、コロナ後はクラフトビール業界が少しずつ元気を取り戻してきているようです。それでも金融機関から資金を借り入れて作られた醸造所は、コロナ前よりもっと売り上げる必要があるので、今がまさに正念場だと思います。そこで僕たちのサービスを上手く活用してくれると嬉しいです。

BBJの仲間たちと乾杯するピーター (写真:BBJ提供)

筆者:最後に、好きなビール(またはスタイル)を3つ教えてください
ピーター:

富士桜高原麦酒 ラオホ

Hofbräu München バイツェン
ベアード・ブルーイング ブラウンエール

IPAのようなホッピーなビールよりも、ドイツスタイルの伝統的なモルティなのが好きです。
富士桜さんのビールが大好きなのですが、BBJのサービスをなかなか導入していただけなくて正直悲しかったです。しかし、先月(2024年2月)、ついに、利用開始してくれることが決まり本当に嬉しかったです(笑)。


取材した企業:
Best Beer Japan 株式会社
公式サイト:https://www.bestbeerjapan.com/

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