断然主役は名伯楽に太鼓判を押された桜の女王・ステレンボッシュも、オークスを意識して使われたアドマイヤベルに警戒

5月19日、3歳牝馬クラシックの二冠目、オークス(GⅠ、東京・芝2400m)が行なわれる。

一冠目の桜花賞(GⅠ、阪神・芝1600m)は1000mの通過が58秒1という急流となり、直線では前方と後方の馬群が入れ替わる劇的な競馬の末、差し・追い込み勢が上位を占めた。そこから800m距離が延びる今回はそこまでのハイペースは見込みづらいが、果たしてどのような展開になるのか。非常に興味深いものとなる。

桜花賞で3/4馬身差(0秒1差)の2着に入ったアスコリピチェーノ(牝3歳/美浦・黒岩陽一厩舎)は2週前のNHKマイルカップ(GⅠ、東京・芝1600m)へ進んで、勝ち馬には離されたものの2着に入り、牝馬のレベルの高さを示した。それを物差しにするならば、これまでの5戦ですべて2着以内に入っている安定感も含めて、桜花賞を制したステレンボッシュ(美浦・国枝栄厩舎)に高い評価を与えるのは自然なことと言えるだろう。

本馬の父は東京の芝2400mのジャパンカップ(GⅠ)を制したエピファネイア、母の父が2000~2500mで好走を続けたルーラーシップと、血統的に距離延長に不安は小さく、折り合いのスムーズさも彼女を後押しする。

追い切り後の共同記者会見で、過去に管理してきた三冠牝馬のアパパネ、アーモンドアイと比べてどうか?と訊ねられた国枝調教師は、「桜花賞を勝って、ここに至るまで順調に来ていると思うし、これからの活躍次第というところはありますが、現時点では同じくらいではないかと思います」と、自信を覗かせる。

今回は桜花賞のジョアン・モレイラ騎手に替わって戸崎圭太騎手に乗り替わるが、ここまでの5戦で4人のジョッキーが手綱をとって好走し続けている馬だけに不安材料とは思えない。そればかりか、リーディング2位につけ(18日現在)、ジャスティンミラノで皐月賞(GⅠ)を制して勢い付くジョッキーだけに「追い風」と感じさせる。

熟練の手腕、特に「牝馬の国枝」と呼ばれるほどの名伯楽に太鼓判を押されたステレンボッシュを信じない手はないだろう。人気でも迷わず、主軸と評価する。
アルテミスステークス(GⅢ、東京・芝1600m)の覇者で、桜花賞は単勝4番人気に推されたチェルヴィニア(美浦・木村哲也厩舎)は、負傷から復帰したクリストフ・ルメール騎手に手綱が戻ることにあって再度注目を集めている。しかし、不利を受けたこともあって桜花賞を13着に大敗しているのは大きなマイナス材料だ。

過去10年のデータをみると、桜花賞で二桁着順だった馬はオークスで3着に入った馬が2頭いるだけで、連対圏まで巻き返すのが難事であることが分かる。ルメール騎手は共同会見で「トップコンディションであれば、またいい結果を出せると思います」とポテンシャルの高さを認めているが、ここはデータを重視して、あくまで押さえまでの評価にとどめたい。

本稿で対抗にピックアップしたいのは、前走のフローラステークス(GⅡ、東京・芝2000m)を快勝したアドマイヤベル(美浦・加藤征弘厩舎)だ。

昨年8月の新馬戦(新潟・芝1800m)を勝ち上がり、11月の百日草特別(1勝クラス、東京・芝2000m)を3着として2歳戦を終え、今年2月のフリージア賞(1勝クラス、東京・芝2000m)の僅差2着を経て、フローラステークスで中団から鋭い脚を繰り出して2勝目を挙げた。

戦歴を見ると1800m、2000mと長めの距離に絞り、しかも東京で3戦と、オークスの舞台を意識しつつ大事に使われてきたのは明らか。父が注目の種牡馬であるスワーヴリチャードという点も魅力的で、手綱を取る横山武史騎手は「競馬に行くと乗りやすく、折り合いが良いので2400mは大丈夫ではないかと思っています」と手応えを語っている。こちらも迷わず2番手評価を進呈したい。 3番手は、桜花賞で単勝7番人気ながら最後方から0秒1差の3着にまで追い込んだライトバック(栗東・茶木太樹厩舎)を推したい。休み明けのエルフィンステークス(L、京都・芝1600m)を制して桜花賞の優先出走権を得ると、本番ではそれまでのマイル戦の持ち時計を一気に1秒9も詰め、あらためて能力の高さをアピールした。

課題と言われていた折り合い面で「進境が見られる」と茶木調教師が言えば、騎乗する坂井瑠星騎手は「同世代なら力は上だと思うので、自信を持って乗りたいと思います」と強気のコメントを残した。4着ではあったが、アルテミスステークスで東京を経験しているのも強みで、当日の競馬場の雰囲気にのまれなければ、自慢の末脚で上位に悔い込んでくるだろう。
以下、「押さえ」にピックアップするのは3頭。桜花賞(8着)は内枠が裏目に出て、終始苦しい競馬を強いられたクイーンズウォーク(栗東・中内田充正厩舎)。武豊騎手が「折り合いさえ付けば」と留保を付けつつも、末脚の切れを高く評価しているスウィープフィート(栗東・庄野靖志厩舎)。そして「特注」としたいのが、重賞初挑戦ながらスイートピーステークス(L、東京・芝1800m)のしぶとい勝ちっぷりが印象の残るコガネノソラ(美浦・菊沢隆徳厩舎)。2戦2勝という東京巧者ぶりに警戒で、要注目の1頭だ。

取材・文●三好達彦

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