楽天モバイル、業界の予想を覆し「黒字化」が見えた一方、別の問題が浮上した

楽天モバイルの公式Xアカウントより

楽天グループ(G)は14日、2024年12月期第1四半期連結決算を発表。赤字の要因となっていた携帯電話事業の楽天モバイルについて黒字化が目前に迫っていると説明した。第4の大手キャリアとして携帯電話事業をスタートしてから4年が経過した今、本当に黒字化が現実しそうなのか。また、同事業の黒字化に懐疑的な見方も多かったなか、なぜ実現が視野に入ってきたのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

楽天Gの同期連結決算は、売上収益(売上高に相当)が前年同期比8%増の5136億2400万円、最終損益が423億円の赤字(前年同期は825億円の赤字)となり、同期としては5年連続の赤字。楽天市場・楽天トラベルなどのEC事業、楽天カード・楽天証券などの金融事業は好調だったが、引き続き楽天モバイルの赤字がグループ全体の業績を押し下げる。

その携帯電話事業も業績改善の傾向が強まっている。22年に1GB以下の0円プランを終了した影響で契約数が減少し、昨年8月まで400万件台で推移していたが、今年4月には650万件にまで伸びている。契約者数が伸びたことで、モバイルセグメントにおける営業損益の赤字額は前年同期の1026億円から719億円に改善。EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)も赤字幅は337億円改善し、297億円となっている。また、楽天モバイル単体のEBITDAは260億円の赤字であるものの、顧客獲得費用を除き、加えてMNO契約者によるグループ利益押し上げ額を勘案すると赤字額は40億円に縮小すると楽天Gは説明している。

楽天Gは24年内に携帯電話事業を単月黒字化するという目標を掲げているが、そのためには契約数で800万〜1000万件、ARPU(1契約あたりの月間平均収入)で2500〜3000円が必要と同社はみている。契約数は今月13日時点で680万回線となっており、年内に関東の5Gエリアが最大1.6倍に拡大する点や、プラチナバンドと呼ばれる700MHz帯の新バンドが6月に商用化される点なども契約者増加の追い風になると期待される。

また、ARPUの伸びも期待される。24年1〜3月期のARPUは前四半期から40円減の1967円。この金額はARPUが低い傾向がある法人ユーザー分が含まれており、一般ユーザーの月間平均データ利用量は前年同期から7.0GB増の24.2GB。月間利用データ量20GB以上の契約回線数は23年5月から10カ月間で41.7%増となっており、これらは将来的にARPUの押し上げ要因となる。

楽天経済圏の拡大

楽天Gは2020年に子会社の楽天モバイルを通じて携帯電話事業のサービスを開始。これまでの道のりは苦しいといっていい。開始当初はどれだけ使っても月額で最大2980円(楽天回線エリアのみ/通話料等別)、さらに月間データ利用量が1GB以下なら基本料無料というプランを掲げ、翌21年には500万回線を突破したものの、22年には1GB以下の0円プランを終了した影響で契約数が減少。起死回生策として昨年6月からは「Rakuten最強プラン」の提供を開始し、従来の料金体系を維持しつつ、auローミングの制限を撤廃。それまではデータ利用量については、KDDIのパートナー回線によるauローミングサービス利用時の高速通信は月間5GBに制限されており、制限を超えると通信速度が1Mbpsに制限されていたが、その制限を撤廃した。これにより昨年8月には500万回線を超え、10月には楽天モバイルにとって念願だったプラチナバンドの割り当てが実現。12月にはMNOサービス(自社回線利用分)の契約数が600万件を突破した。

さらに契約者増の起爆剤として今年2月に打ち出したのが「最強家族プログラム」だ。家族で「Rakuten最強プラン」に加入すると、1回線あたり月額110円の割引が適用されるというもの。現在、契約回線数は右肩上がりのトレンドを描いている。

楽天Gは楽天モバイル契約者に起因するグループ全体に対する利益の押し上げ額が98億円に上るとしており(24年第1四半期)、MNO契約後の楽天市場流通総額が年間53%増加するとして、楽天G全体への波及効果の大きさを強調しているが、大手キャリア関係者はいう。

「楽天Gが無謀ともいわれた携帯電話事業に参入した目的は、楽天経済圏への流入を増やしグループ全体の売上を押し上げること。そのため昨年以降、楽天モバイルの契約者がより得をするかたちで楽天ポイント付与率の改定が重ねられてきた。加えて、基地局ネットワークに活用している仮想化技術を海外キャリアに外販するビジネスも収益の要の一つになるとみている。

もちろん携帯電話事業単体で大きな利益が出るようになるのが理想的だが、同事業が収支トントンくらいでも、楽天Gとしては楽天経済圏の拡大と仮想化技術を使った通信技術の外販ビジネスの拡大という2点が実現できれば、ある程度目的は達成できたことになる。

もっとも、他のキャリア大手にはまだ値下げの体力は残っており、もし楽天モバイルに多くの契約者が流れるという状況になれば『事実上、楽天モバイルより安いですよ』とうたう値下げプランを投下してくるだろうから、黒字化はそう簡単ではない」(大手キャリア関係者)

黒字化が後ろに倒れる可能性

楽天モバイルは黒字化目前といえる状態なのか。百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。

「先に結論から言えば、楽天モバイルが単月黒字化に向かっていること自体は確かです。ただ前回の決算と違い、今回の決算では別の課題が浮上してきました。決算データからは営業利益の黒字化は楽天Gが期待するよりも後ろに倒れる可能性があるように読み取れます」

難しいという見方も強かった楽天モバイルの黒字化だが、達成が現実的になってきた要因は何であると考えられるのか。

「楽天モバイルのMNO回線契約数は3月末で648万回線、直近の5月13日時点では680万回線と公約通りに伸びています。もともと楽天モバイルはギガ数をたくさん利用するヘビーユーザーからは圧倒的な支持を受けています。それに加えて今年の中盤からはプラチナバンドの利用が開始されますから、一般ユーザーの楽天への乗り換えも期待できます。ですからこのペースであれば年末までに850万回線への到達が可能なペースで走っています。

一方で、今回の決算からは新たな課題が浮き彫りになりました。過去1年間を通じて会員一人あたりの月間収入であるARPUが2000円近辺から動かないのです。楽天モバイルの『Rakuten最強プラン』では20GBまでのユーザーが月1880円で、この層が日本のスマホユーザーのボリュームゾーンです。月額2880円の20GB越えユーザーが増えないとARPUは簡単には上がらない構造なのですが、この先、この構造が変わらない可能性が強まってきました。

その場合、楽天モバイルが試算する契約回線数800万件での単月営業黒字化は前提が狂います。単純計算で1200万ユーザーまで黒字化のゴールポストは後ろにずらされることになってしまいます」(同)

では楽天G全体としては、良い方向に向かっているのか、その逆なのか。

「このARPUの問題を考えると一見、楽天Gの経営は苦しくなってきたように見えてしまうのですが、実は同社がそれを乗り越える別の兆候が見えてきました。ひとつはフィンテック部門の営業利益が前年同期比でほぼ1.5倍に増えていることです。利益額では約130億円の上乗せです。この大幅な利益増が単独理由ではなく、楽天ペイの黒字化、楽天カードの利用増加、そして新NISAなどで楽天証券が好調だという複数要因にけん引されています。最近、楽天Gは金融部門の統合を発表していますが、この金融部門の利益だけで逆に、楽天Gの経営危機のタイミングも後ろにずれてきているのです。

もうひとつ重要なのは社債の償還リスクに関して、外債を発行できたことで2025年までの資金繰り問題が概ね解消したことです。この前提変化は大きいです。これまで年内の黒字化が達成できなければ25年には資金繰りがアウトになるのではと危惧されていたのですが、それが来年の黒字化まで期限の猶予が長くなったのです。

加えて楽天モバイルのARPUを上げる施策を考えていると三木谷会長が語っていますが、これがまだ発動されていない。ここでARPUが動けば楽天モバイルの黒字化時期は早まる余地があります。

このように今回の楽天グループの決算は悪いニュースといいニュースが入り混じった決算発表だったのですが、全体的に眺めるとプラスマイナスで結果はプラスだという内容だったと考えています」

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

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