でんぱ組.inc古川未鈴「仕事に出れば出るほど夫に子どもを任せっきりに」育児との両立に悩み「正解はない」

古川未鈴 撮影/冨田望

2010年頃より活動を本格始動したでんぱ組.incは、ゲームやアニメなどオタク趣味を持つメンバーが中心となり、既存のアイドルファン以外にも人気を拡大していった。’14年に日本武道館ライブを達成すると’15年にはワールドツアーも敢行するなど、国内外を問わず人気を獲得している。そのでんぱ組.incのメンバーであり、グループの中心的存在である古川未鈴(ふるかわみりん)。普通の少女がアイドルになるまでの転機とは?【第4回/全5回】

2021年1月に妊娠を発表、同年7月に男児を出産した古川未鈴さん。妊娠中もできる範囲で、グループでの活動は続けた。「それは周りの協力があったから」と語る。

「実際に妊娠してみると、ライブや仕事を休むことになった。私、それまで仕事を休んだことがなかったんです。アイドルをやるようになってから、初めて夕方のニュースを見ました(笑)。十何年ぶりに『ちびまる子ちゃん』のアニメを見て、“日曜日の夕方に家にいるなんて久しぶりだな”って感じました。

時間ができると、何をして良いのかわからなかったです。でも暇なのは嫌だったので、育児休暇のぎりぎりまで仕事をさせてもらいました。安全面に気をつけながら、座った状態でライブも出ていました。メンバーの成瀬瑛美ちゃんの卒業ライブ(’21年)は、“そのライブだけは絶対に出たい”と言って、お腹周りの緩い衣装を作ってもらって出演して、周りのみんながすごく気をつかってくれて、本当にみんなありがとうって思いました」

妊娠中は、これまでの休みがない日々から一変した。

「妊娠中は水が気持ち悪くなって飲めなくなり、オレンジジュースばかり飲んでいた時期があって、ライブ中のドリンクとかも私だけ中身がオレンジジュースでした(笑)。妊娠中は体調がしんどかった時もあったけれど、周りの協力があってなんとか乗り切ることができた。

産休に入ってからは家にいることが増えて、心情的には“現世に戻った”感じでした。夕方のニュースで推しのキャスターがいて、私は『Nスタ』の井上貴博アナを応援していました(笑)」

「座ったり寝るのもつらい」復帰のため必死に努力

子どもを産んだらすぐにアイドルとして活動したいと考えていた未鈴さん。しかし、予想だにしていない身体の異変が彼女を襲った。

「産後はすぐに仕事に戻りたいって思っていたんですが、出産時に身体に負荷がかかってしまったんです。座ったり寝るのもつらい状態だった。それが半年くらい続いたので、産後はつらかった。

“早くライブがしたい”って思っていたけど、産後太りもありました。食べづわりが酷くて、妊娠中は一日に8食ほど食べていたら20キロ太ってしまって。だから、産後の最初のハードルは産後太りでしたね。でんぱ組.incの衣装ってすごくミニスカートだし、身体のラインが見える。

私はスレンダーな体型だったので、自分の中でそのギャップに耐えられなかった。本気でつらいって感じました。周りの人は“いいよ”って言うけれど、自分は許せなかった。私も頑張って、体型を戻しました」

必死の思いで育休からでんぱ組.incに復帰するも、戸惑いも多かったという。

「ちょうどでんぱ組.incに新メンバーが加入したのが産休前(’21年)。私が休んでいる間もグループでの活動は続いているので、戻った時は浦島太郎状態。新メンバーには、かなり年齢差がある子もいたので、 “私はここでやっていけるのかな”って不安も抱きました。高咲陽菜さんっていう最年少のメンバーは、でんぱ組.incに憧れて加入してくれた。“自分は先輩としてどういうふうにふるまえば良いんだろう”っていう悩みもありましたね」

アイドル業と育児の両立に苦労した

アイドルという職業に対して、ストイックすぎる性格が災いして、未鈴さんは思うように活動できない自分を追い込んでしまう。

「子どもを産んでからは、育児もやらなければならない。アイドルとしても元の“未鈴ちゃん”にも戻りたい。ライブは体力を消耗するんですが、意外とつらくはなかった。それよりも、想像していた以上に産前と産後のギャップが大きくて、精神的にきつかった。

育児休暇を経てグループに戻った時も、出産前と同じような活動ができるようになるには2年くらいかかってしまった。既に完成形のでんぱ組.incがあったので、“私が戻らなくてもいいんじゃないか”という気持ちになったりしました。そうしたら、周りのみんなが“そんなことはないですよ”って言ってくれた。優しさに甘えながら、頑張って打ち解けていったと思います」

アイドルと育児。そこには、仕事と育児の両立で悩むママの姿があった。

「保育園のお迎えの時間までに仕事やレッスンを終わらせてもらったり、融通をきかせて頂いていますね。夫が漫画家という職業なので、毎日会社に行くことがない。だからこそ、私が仕事に出れば出るほど夫に子どもを任せっきりになってしまう……。私がアイドル活動をすればするほど、夫が働けなくなってしまう。

私は夫の漫画のファンなので、漫画も描いてほしい。夫はでんぱ組.incのファンだから、ライブが観たいっていう思いもある。どうやってバランスをとって行けばいいんだろうっていう難しさもありますね。でもこれはアイドルだけではなくて、働いている家庭みんなが抱えている問題だと思う」

「子育てには正解がない」と思っている

未鈴さんの息子は現在2歳で、7月には3歳になる。「魔の3歳児」という言葉もあるほど、子ども自身の我が芽生え始め、「いやだ」という行動が増えるイヤイヤ期を迎える。

古川未鈴 撮影/冨田望

「もうずっとイヤイヤ期ですね(笑)。私のことを殴ってくるし、ご飯も飛ばしてくる。悪気がないので仕方ないですが……。でも不思議と、育児でストレスを抱えたりはしていないです。仕事に関して時間の制約があるのはつらいですが。

育児の大変さに対しては、“そんなものだよね”って受け止めています。いろんなことをのびのび育っている証拠だなっていう気持ちで受け止められるのは、自分のいいところかなって思います」

未鈴さんはかつてブログで「炊飯器を持っていない」(’21年)と発言し、炎上を経験している。なんでも包み隠さないのが未鈴さんの魅力であるが、文面だけが切り取られてしまい誤解を受けた。

「料理ができないので炊飯器を持っていないって書いたら、“子どもが生まれるのに、炊飯器を持っていないなんて親としてありえない”って炎上してしまいました。子育てって、その人がやってきたやり方を正義として振りかざしたくなるのかもしれないというか……。でも正解はないって思うんです。

私は今もあまり料理は作っていないんですが、それは、以前料理を作ったら野菜に火がきちんと通っていなくて息子が泣いてしまったことがあったから。料理が上手ではないんで、そんな失敗のリスクがあるんだったら、手ごろな値段の総菜を買ったほうが時間もかからずに美味しいのでいいかなって、私は思っています。また、怒られてしまいそうですが……(苦笑)」

苦手だと公言していた料理にも、最近は挑戦をしている。

「実は時短家電も取り入れて、色々やってみています。ホットクック(ヘルシオホットクック・電子圧力鍋)で、カレーを作ったりお米も炊いています。作ったカレーは冷凍しています。本当にそれくらいなんですが、成長していますよね(笑)。育児も自分のライフスタイルに合ったやり方で良いって思います。時短できるものがあれば、そこにお金をかけたい」

飾らない言葉で、自身の育児について語る未鈴さん。働く女性が増え、社会でも活躍するようになってきている現代。未鈴さんのアイドルと育児の両立に、勇気づけられる人もいるはずだ。

(取材・文)池守りぜね

ふるかわ・みりん
香川県高松市出身。でんぱ組.incのメンバー。キャッチフレーズは「歌って踊れるゲーマーアイドル」。でんぱ組.incの活動以外にも、ゲーム関連の雑誌での執筆やゲームの動画配信なども行っている。2019年、漫画家の麻生周一と結婚を発表。2021年第一子となる男児を出産。

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