新宿タワマン女性メッタ刺し殺人 犯人はどっちの“つきまとい”だったのか

送検のため警視庁新宿署を出る和久井学容疑者(C)共同通信社

【「表と裏」の法律知識】#234

5月8日、東京・新宿のタワーマンションの敷地内で51歳の男性が果物ナイフで25歳の女性をメッタ刺しにして殺害するという衝撃的な事件が発生しました。連日「ストーカー殺人」と騒がれています。

男性は、ガールズバーの客として被害女性と知り合った後、1000万円以上の金銭を被害女性に渡していました。この金銭について、被害女性は店の料金の前払い金と主張、一方、男性の言い分は結婚資金であり、結婚しないことになったため返還を求めていたということのようです。

こうみてくると、どうも「ストーカー殺人」ではくくれない気がします。というのも、単に金銭の返還を求めるといったつきまとい行為は、ストーカー規制法による「つきまとい等」(ストーカー規制法第2条第1項)の行為には当たりません。ストーカー規制法による「つきまとい等」の行為といえるためには、恋愛感情または恋愛感情が成就しなかった際の怨恨の感情を充足する目的を有していることが必要とされています。

2人の間に具体的に結婚の話があったのかどうか。男性が一方的に主張しているだけなのか。

この男性は2年前に被害女性に対するストーカー行為で逮捕されています。ただ、犯罪は成立するが、さまざまな事情から起訴しないという処分になったようです。

また今回の一連の報道では、接近禁止命令が出ていた1年間、この男性は別の複数の女性に手紙を何度も送るといったストーカー行為をしていたそうです。

殺された女性との恋愛感情のもつれは、この1年間どうなっていたのか。まだ多くのナゾが残る事件であり、単純にストーカー殺人で片づけられない気がします。

ともかく、ガールズバーやキャバクラは「疑似恋愛」を楽しむ場所です。あなたに特別な感情を有しているかのような女性の言動を真に受けて、自身の身の丈に合わないお金の使い方をし始めたら、いよいよ抜け出せなくなって悲劇に向かうかもしれません。キャバクラやガールズバーに通っているそこのあなた、大丈夫でしょうか。

(髙橋裕樹/弁護士)

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