【5月19日付社説】復興祈念公園の整備/追悼と伝承へ一層の周知を

 整備中の県復興祈念公園(浪江町、双葉町)を巡り、4月から中核施設となる福島国営追悼・祈念施設(仮称)の整備が始まった。周辺でも造成工事などが進んでおり、国営施設の完成に合わせた2026年春の開園に向けた動きが本格化している。

 国営施設は高さ約16メートルの「追悼と鎮魂の丘」の内部に造る。丘の北西部の入り口から入り、丘の上にある太平洋や東京電力福島第1原発を望む献花広場に向けて進んでいく。通路や円筒形の広場などを歩む中で、被災から復興までの時間の流れを感じてもらうような構造となるよう設計している。

 公園は21年1月に一部を開放した後、4月の国営施設着工まで工事の進展が積極的に情報発信されておらず、県民の関心が薄れているのが現状だ。整備を担う国と県は、震災15年の節目に重なる開園に向け、改めて「生命(いのち)をいたみ、事実をつたえ、縁(よすが)をつなぎ、息吹よみがえる」という公園整備の理念の周知を徹底してもらいたい。

 約50ヘクタールの公園のうち、国営施設以外の部分は県が整備する。計画では、津波直後の状況を残す中野地区集落の住居跡や多目的広場などを設ける。現在は用地取得を終え、各施設の詳細なデザインや植栽の在り方について、有識者らでつくる「公園整備・管理運営検討会」と協議を重ねている。

 広島の平和記念公園などは、来場者が園内を歩くことで何が起こり、どのように苦難を乗り越えたのかを感じ取れるようになっている。県は公園の敷地にはかつて多くの住民が生活していたことを示しながら、本県が直面した地震、津波、原発事故の複合災害のそれぞれの側面が伝わるよう、遺構保全を含めた空間構成に工夫を凝らしてほしい。

 震災の被災3県では、すでに岩手県に「高田松原津波復興祈念公園」、宮城県に「石巻南浜津波復興祈念公園」が完成している。それぞれの公園には、運営に住民の意見を反映しようと地域団体などでつくる「協働グループ」や「参加型運営協議会」が設立され、教訓の伝承や園内の植樹活動、防災教室などが行われている。

 本県の計画では、さまざまな団体などが関わる運営を目指すとしているが、具体的な議論は進んでいない。公園の周辺は原発事故で人口が減少したが、少しずつ住民活動が再開している。県は浪江、双葉両町や東日本大震災・原子力災害伝承館との連携を軸に、公園を活用して中長期的に震災の記憶や復興の現状を発信する体制をつくることが求められる。

© 福島民友新聞株式会社