「白昼堂々バラバラ事件発生!」 渡り鳥の早ワザ料理術に目がテン

餌を物色中のソリハシシギ。嘴の長いシギたちは、餌を探すために海岸沿いの浅瀬に集まってきます。東京都や千葉県の内湾にも、わずかながら干潟が残されています(撮影:相田俊)

春から初夏にかけては、渡り鳥の季節。日本には、ツバメなどの夏鳥が繁殖のために南の国からやってきます。また、渡りの途中に日本で休憩をしたのち通過していく「旅鳥」たちもいます。その代表格がシギ・チドリです。彼らは、海岸沿いの干潟や河口などに立ち寄り、豊富なエサを食べて体力を回復させ、また旅立っていくのです。そんな彼らの驚異の料理術を目撃しました。

■首都圏の貴重な干潟も残る「葛西臨海公園」

23区内にある都立公園のうち、二番目となる広大な面積を誇るのが江戸川区にある葛西臨海公園です。緑と水と人のふれあいをテーマに、水族園、鳥類園、芝生広場、汐風の広場、展望広場の5つのゾーンの分かれている、大変魅力的な公園です。

行楽的なイメージも強いのですが、実は、葛西臨海公園や隣接する都立葛西海浜公園周辺は、東京湾では数少なくなった湿地や干潟が残されています。特に、葛西海浜公園は、都内では初となる“特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約)”の登録湿地にもなり、多くの水鳥で賑わいを見せています。

荒川と旧江戸川の河口の間にある葛西臨海公園には、干潮時には大きな干潟が広がり、潮干狩りを楽しむファミリーも見られます(撮影:小西茂章)

■絶滅危惧種であるチュウシャクシギ

チュウシャクシギ。長くて下に曲がる独特の形状の口ばし

毎年、春・秋には、日本に多くの渡り鳥がやってきます。中でも、シギ・チドリ類は、大きな川の河口や干潟などで途中休憩をした後、再び日本を旅立っていきます。その代表格の一つが、チュウシャクシギです。他のシギ・チドリ類よりも長い湾曲した嘴の持ち主です。東京・千葉・神奈川では、「絶滅の危険が増大している種」としてレッドデータブックにも記載されている希少な野鳥です。

■瞬時にカニをさばく一流料理人の腕

そのチュウシャクシギが、干潟にやって来ているのを見つけました。彼らの好物はカニ。潮が引いて浅くなってきた水際で静かにたたずんでいるかと思いきや、水の中に自慢の嘴を突っ込んだ次の瞬間には、その先に、大きなカニが捕らえられていました。電光石火の早ワザです。カニは、独特な形をしたハサミから、汽水域に生息するヤマトオサガニではないかと思われます。

チュウシャクシギは、すぐにそのハサミを咥えて大きく振り回します。すると、あっけなく片方のハサミがもがれてしまいました。

チュウシャクシギの「カニの解体ショー」は、とにかく手際がよく、もう一方のハサミも簡単にポッキリ折ってしまいます。空中に飛ぶカニやその足を見ていると、カニの絶叫が聞こえてきそうです。サスペンスドラマの「バラバラ○○事件」の発生現場とでも思えそうな状況でした。

それにしても、超一流の干潟の料理人の腕は見事というしかありません。あの長くて湾曲した嘴は、まさにカニ料理のために進化してきたとしか思えないスペシャルな道具です。カニは、手足をもがれてしまうと、もうなす術もありません。

ハサミや足などの硬くて余分な部分を全て落とし、丸々とした甲羅だけになったカニを、チュウシャクシギはおいしそうに口の中に放り込みました。この間、わずか1分足らず。これほど腕利きの板前さんなら、どこの海鮮料理店でも重宝されることでしょう。

春の干潟では、潮干狩りの際にシギやチドリたちの料理ショーを見ることができるかもしれません。日本の干潟では、このようなダイナミックな営みがあちらこちらで行われています。私たち人間と野鳥たちで、貴重な干潟や砂浜をいつまでも大切に共有していきたいものです。

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