職場内の「ストーカー」“殺人”に発展した事件も 社員から被害相談「逆恨み」予防に企業がとるべき対応は?

ストーカー事件は職場の同僚間でも発生する(※写真はイメージです EKAKI / PIXTA)

4月30日、職場の同僚の40歳女性の遺体を山梨県身延町の河川敷に遺棄したとして、甲府市の団体職員であった男性が逮捕された。

遺体には、危害が加えられた跡があった。男性は警察の取り調べに対して「話をしようとして仕事帰りに声をかけたが、拒まれたので殴った。動かなくなり、殺したと思って車に乗せて遺棄した」などと供述しており、容疑を認めているという。

また、事件の前にも男性は被害女性につきまといなどストーカー行為をしており、女性はそのことを職場に相談していた。

「職場に相談した」という事実が男性に伝わっていたかどうかは不明だが、もし伝わっていたら「逆恨み」が犯行の動機となった可能性もある。

社員からストーカーやハラスメントの相談があったとき、社員の安全を守るために、相談を受けた会社側はどのように対応すればいいのか。労働法や企業法務に詳しい伊崎竜也弁護士に、法律で定められている義務や指針を聞いた。

死体が遺棄されていた身延町(sirius / PIXTA)

従業員からのハラスメント相談:法律で定められた義務や指針は?

「労働契約法においては、安全配慮義務の観点に基づいて一定の場合は従業員間のトラブルについて対応するよう、会社側に求めていると考えられています。

とくに職場におけるセクシュアルハラスメントについては、男女雇用機会均等法により、会社側がその対策を講じるように定められています。

ストーカー行為は“恋愛感情や好意的感情がもととなって行われるもの”とストーカー規制法で定められている以上、“性的な言動”としてセクシュアルハラスメントに該当するでしょう」(伊崎弁護士)

具体的には、厚生労働省により、以下のような指針が示されている(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)。

(1)セクシュアルハラスメントの禁止や処分など、事業主の方針を明確化し、周知・啓発すること。

(2)相談窓口の設置や外部への委託など、従業員からの相談に適切に対応するための体制を整えること。

(3)関係者への聴取や配置転換の実施など、迅速かつ正確な事実確認と適正な対処を講じること。

(4)その他、関係者のプライバシーを保護すること。

「逆恨み」を予防するため、企業側がとるべき対応の流れ

厚生労働省の指針でも「迅速かつ正確な事実確認」が求められている以上、企業としては、社員からハラスメント被害の訴えがあった場合には加害者側の社員にも事情聴取する必要がある。

とくに懲戒処分などを行う場合には、労働契約法により、加害者側の言い分を聞くことは不可欠だ。

しかし、事情聴取すると「被害者がストーカーやハラスメントを相談した」という事実が加害者に伝わってしまう。被害者の社員が逆恨みされ、危害を加えられるリスクは否定できない。

「残念ながら、男女雇用機会均等法や厚生労働省の指針は、このような“逆恨み”の場合まで想定して作成されているわけではありません。私個人としては、会社側は以下のような流れで対応すべきだと考えます」(伊崎弁護士)

(1)そもそも、「従業員の身の安全」を第一に考えるべき。

(2)まずは被害者から事情を聴取して、希望も聞く。

(3)被害者が異動を希望しており、「加害者には言わないでほしい」とのことであれば、異動が可能かどうかを検討する。

(4)被害者が「加害者への懲戒処分や配置転換」などを希望する場合には、被害者に対して、「加害者への事情聴取が必須であること」や「逆恨みのリスクがゼロではないこと」を十分に説明する。

(5)加害者へ事情聴取をする前に、可能であれば第三者からも事情を聴取して、より正確な事実関係の把握に努める。

(6)事実である可能性が高い場合には、事前に警察に相談しておく。

(7)加害者へ事情聴取する際は、決めつけることなく加害者の言い分を十分に聞いたうえで、会社側として把握している事実を伝えて「被害者へ危害を加えないように」と、改めて注意しておく。

「各企業が上記のように対応することで、今回の事件のようなトラブルを少しでも減らせるのではないでしょうか。それでも、事件の発生を完全に防ぐことは不可能です。個別の事案に応じて、慎重な対応が求められると言わざるをえません」(伊崎弁護士)

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