励ましのリズム(5月19日)

 造形作家でデザイナーの駒[こま]形[がた]克[かつ]己[み]さんが、3月に亡くなったニュースを見て、家の本棚にあった著書「ごぶごぶ ごぼごぼ」を取り出した。福音館書店「こどものとも0.1.2.」シリーズの1冊である。

 一緒にお風呂に入っていた3歳頃の娘さんが、「お母さんのお腹[なか]の中って、こんなふうだった」と話したのがきっかけでできた本だと、駒形さんは書いている。子育てをしているとき、子どもの言葉にはっとした経験は何度もあるけれど、それを絵本にしてしまったことに驚く。

 様々な大きさと色と形の泡の絵があり、「ぷくぷくぷくん」「ど ど どぉーん」と音があり、ページに開いた小さな丸い穴に指で触れていると、自分が水中にいて、泡たちをつかまえようと手を伸ばして遊んでいるような気持ちになる。

 会津図書館内のこどもとしょかんに行くと、たくさんの手で触れられ読み込まれた様子の「ごぶごぶ ごぼごぼ」が数冊並んでいた。さらに、「0.1.2.」シリーズから、駒形さんの新しい絵本「とっくん」が今年の2月号として出ているのを知った。

 こちらは心臓の音がテーマだった。カラフルなページには、「とくっ」「つとんつとん つとんつとん」と音が並んでいて、それに合わせて楕[だ]円[えん]やハートなどの穴の形がどんどん変化していく。声に出して読み終わってから、わたしは思わず自分の左胸に手を当てて、鼓動に耳を傾けた。

 付録の「作者のことば」には、「お腹の中で聞いていたお母さんの心臓の音、そして生まれてきて、いろいろな人に抱かれ、それぞれの音が、時にやさしく、時にリズミカルに、ある時は激しく聞こえることもあるかもしれません。」とあった。

 胎内で母の心臓の音を聞きながら大きくなった自分も、誕生後は両親や周囲の誰かに絵本を読んでもらい、いつしかひとりで読めるようになり、大人になってからは子どもたちと一緒に楽しみ、今またひとりでページをめくって過ごしている。

 日々の暮らしで耳に飛び込んでくる音は、やさしくて心地よいものだけではなくて、痛みを感じるような、心をかき乱されるような音や言葉を浴びたりもする。

 そんな時に駒形さんの絵本を開くと、記憶の底に眠る音たちが、誰かと共に過ごした懐かしい時間を呼び戻してくれて、少し元気になれる気がしてくる。

 4月5月は、聴覚支援学校幼稚部や幼稚園の子育て支援での、初めましての読み聞かせがあって、さっそく2冊を持参して読んでみた。最初のうち緊張ぎみだった子どもたちは、ちいさな指で絵本に触れながら笑顔になっていた。

 「紙の絵本は私たちと一緒に歳を積み重ねてくれます。」と駒形さんはいう。1997年発行の「ごぶごぶ ごぼごぼ」と世に出たばかりの「とっくん」は、これからもずっと、わたしたちに励ましのリズムを届けてくれるだろう。

(前田智子 児童文学者)

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