織田信長×タイムリープ! 漫画『何度、時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが!?』の革新性

ぶっ飛んだコメディ、あるいは一風変わった歴史モノが読みたいなら、これ以上ない作品を今回は紹介!

年間数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事に沿った漫画を新作・旧作問わず取り上げる本連載「漫画百景」。

第三十五景目は『何度、時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが!?』。

ご存知、乱世の寵児・織田信長が、非業の死を遂げた“本能寺の変”を乗り越えるためタイムリープし、過去を何度もやり直し続けるコメディです。

今まさに最終章爆進中の本作を、信長が台頭するきっかけであり、天下統一への爆進をはじめる桶狭間の戦いが起こった日、5月19日に合わせて紹介します。

天下人と書きワシと読む! 傲岸不遜な織田信長が主人公

『何度、時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが!?』(以下『なんじゃが!?』)は、講談社の漫画誌『ヤングマガジン』にて連載中の漫画です。原作を井出圭亮さん、作画を藤本ケンシさんが担当されています。

主人公はもちろん織田信長。天下人と書きワシと読むタイプ。傲岸不遜を絵に描いたような人物です。

物語のはじまりは、天正10年(1582年)。天下統一に手が届きかけていた信長が、謀反を起こした明智光秀に襲撃を受け、非業の死を遂げた……。

と思ったら、不思議な空間で謎のクマに邂逅。死の運命を変えるため、本能寺の変が発生する7年前から人生をやり直すことになります。

敵は明智光秀のみにあらず 豊臣秀吉も謀反を起こす!?

『なんじゃが!?』が上手いのが、諸々の設定をテンポよく説明する導入です。

信長は当初、過去をやり直す度に光秀を含む部下たちに傍若無人に振る舞い、燃え盛る本能寺へ飛ばされます。選択を間違えると、即死亡ルートになるわけです。そして、また最初からやり直す。

しかも、謀反を起こすのが光秀だけでなく、柴田勝家だったり、羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)だったり、連合軍だったりと、バリエーションが豊か。

死に様も豊かで、信長が登場する数ある漫画の中で最もカッコ悪い信長が描かれています。漫画史に残るレベル。

序盤から死にまくる信長が、「何度時をくりかえしても本能寺が燃えるんじゃが!!!!」と叫ぶシーンは爆笑ものです。

そうして体当たりでタイムリープのルールを理解していく信長を追っているだけで、読者も自然と作中の世界観を理解できるようになっています。

ちなみに、タイムリープにも様々な制約があるため、状況によっては気軽に死に戻りができない設定になっているのが肝です。

ドラマチックな本能寺の変の顛末を覆す、物語としての革新性

そもそも、信長が死の運命を変えるために奔走するという設定が特異です。

4万の大軍(数については諸説あり)で侵攻してきた今川義元を、精鋭2000人による急襲で打ち破り大勝利を収めた(桶狭間の戦い)信長が、勢いそのままに躍進。

天下統一までもう少しのところで、よもやの謀反で無念のうちに逝く。戦国時代の事件でも、この本能寺の変ほど悲劇的でドラマチックなものはないでしょう。物語としても非常に魅力的です。

そのため、信長が登場する漫画でもラストは本能寺の変になるのが定番でした。しかし『なんじゃが!?』は、あえて王道を行きません。それどころか、本能寺の変を覆して、IFの歴史を創作しようとしている。この革新性は、本作の核です

では、以下から最終章までの内容に触れつつ、本作の見どころをより細かく見ていきます。未読の方はご留意ください。

光秀が西日本を統一!? 大胆なIF展開が熱い

信長に関係する戦国大名が、敵味方コロコロと立場を変える先の読め無さが、『なんじゃが!?』の大きな見どころです。

本来であれば本能寺の変までに滅亡している武田氏が生存していたり、信長が誇る鉄甲船団が生まれていなかったり、信長が飛ぶルートによって歴史の流れがかなり異なります。

正史では関わりの薄かった梵天丸こと後の伊達政宗が信長と共闘したり、正史ではすでに死んでいるはずの軍神・上杉謙信が敵側で生き生きしていたり。ならではの展開が楽しめます。

歴史のIFを描く上で正史を土台にしているため、歴史好きであればより楽しめますが、たびたび解説が入るため、当時の出来事や人物をよく知らなくても問題がないよう配慮されています。

また、様々なルートが入り乱れて読者が混乱しないように、7話の段階で光秀が西日本を統一し、信長へ襲撃をかける最悪のルートが明示されます。

さらに、本能寺の変が起こる原因が信長の妻・帰蝶(濃姫)にあることが判明。帰蝶にまつわる謎を解き、光秀の謀反を回避するために試行錯誤するという、物語としての大きな道筋が生まれます。

最終的に西日本を統一する光秀に対抗するため、東日本統一及び新生織田軍を結成し、天下分け目の大戦に挑む。これが信長の目指す理想のルートです。

また、戦国大名たちの愉快なキャラクターも見どころの一つ。いまいち情緒が安定せず、ハゲ呼ばわりされると問答無用でたたっ斬る魔王・光秀。どのルートでも上手く生き延び信長を殺りに来る究極の人誑し秀吉

頭の中にあるのは常に戦いだけの戦闘狂・上杉謙信妖怪首よこせモンスター・島津義弘。有名な逸話「三矢の訓え」をイジって「ヤ」としか喋れない毛利輝元

通った後には血の川が流れる暴走怪僧・本願寺顕如。仁義が第一! 田舎のヤンキー・長宗我部元親……とにかく個性的。

信長が常識人に見えるほど味付けが濃いです。

信長の相棒になるオリジナルキャラ・お遥の存在感

歴史上の傑物だけでなく、オリジナルキャラクターの侍女・お遥が良い味を出しているのも『なんじゃが!?』の良さです。

前述したように信長は何度も死にます。どのルートでも誰かに謀反を起こされる。信頼できる味方がいない。この四面楚歌の中、相棒になるのが侍女のお遥です。

当初はただのモブだと思われていた彼女は、ひょんなことから信長に多大な恩義を感じて忠誠を誓います。そして、どのルートでも、どんな死地でも助けに現れます。

信長を襲う凶刃を前に、躊躇なく身体を投げ出し命を散らせる姿は読者の心を熱くさせ、信長の心を救いました。傲慢な信長を少しずつ変え、良き未来へと導いていくことになるのです。

現代人? クマと資料に乏しい帰蝶の謎

謎のクマと帰蝶も『なんじゃが!?』の鍵を握る存在です。

信長にループのルールを教え、ボケとツッコミもこなすマスコットキャラのクマですが、カップ麺をすすり、タバコを嗜む様子から、明らかに現代文明に通じていることが分かります。

一方で、信長に協力する理由は利害の一致と言うだけで、何者なのか明らかになっていない。最終章が進む今もなお判然としない正体がいつ明かされ、何が起こるのか……?

そして、本能寺の変を超えるためのキーパーソンが帰蝶です。信長の日本統一の大きな壁になる光秀が、なぜか彼女に執着しており、謀反を起こす最大の要因となっています。

もともと帰蝶に関する資料が非常に少ないため、動向の予測できない。最終章では、まさかまさかの展開が用意されており、終盤に来て一気に物語が駆動しはじめました。

そんな『なんじゃが!?』は現在、最終章を爆進中。ますます盛り上がっている本作をお見逃しなく!

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