妊娠・出産について実話を基に制作した群像劇映画『渇愛の果て、』初日舞台挨拶

映画『渇愛の果て、』は、「家族・人間愛」をテーマにし、あて書きベースの脚本で舞台の公演を行なってきた「野生児童」主宰の有田あんが、友人の出生前診断の経験をきっかけに、助産師、産婦人科医、出生前診断を受けた方・受けなかった方、障がい児を持つ家族に取材をし、実話を基に制作した、群像劇。助産師・看護師・障がい児の母との出会い、家族・友人の支えにより、山元家が少しずつ我が子と向き合う様子を繊細に描きつつ、子供に対する様々な立場の人の考えを描く。

5月18日の初日舞台挨拶には、監督・脚本・主演の有田あん、妻・眞希の妊娠・出産に向き合う夫・山元良樹役の山岡竜弘、母親としての先輩・竹中里美役の小原徳子、未婚の女優・白井桜役の瑞生桜子、仕事を理由に妊娠を先延ばししているキャリアウーマン・東堂美紀役の小林春世、「役者だけに集中したい」と言う桜の彼氏・中西隆役の二條正士が登壇した。

冒頭、有田監督が、「満席になって有難い気持ちで一杯です」と感極まる表情で満席のお客さんに挨拶をして初日舞台挨拶がスタート。

本作の制作経緯について聞かれた監督は、「2019年に地元の友達が妊娠している時から悩みを打ち明けてくれていました。本作の物語も沿っているところがあるんですけれど、彼女は体調不良で切迫早産になって、入院しました。その時に羊水検査をして、体に異常はあるかもしれないけれど、健康に生まれてくるとのことだったんですけれど、生まれてみたら3万人に1人の難病でした。もう少し出産や妊娠に関しての予備知識があるだけで、未来の可能性が広まったり、隣にいる友人がどんなことを考えているのか想像ができるんだったら、少しだけ優しい世界になるんじゃないかと想いを込めて作りました。」と説明。

本作は、妊娠・出産を経験する夫婦だけでなく、医療従事者側や男性も描いている。有田は、「自分の子供の話なのに、法律(民法834条)をお医者さんから突きつけられたりすることもあり、友人もショックを受けたことがあったんですけれど、彼女も、『お医者さんも悪気があったわけではなく、お医者さんはお医者さんで命を守るという使命があって、法律の話が出てきたんやろうな』と言っていました。また、彼女に作品にする同意をいただく時に、『どっちかが悪いという話にしないでほしい』と言われていました。私も勧善懲悪みたいな作品は好きではないので、どちら側も描きたいと思い、監修医の産婦人科医の洞下(由記)先生や、取材協力の助産師の高杉(絵理)さんにお話を伺って、医療従事者側の話もみなさんに知ってもらえたらと思いました。」とのこと。男性側も描いていることに関しては、「男性キャストに台本の感想を聞いた時に、『こういう時男性ってなんって言ったらいいんでしょうね?』と一言をいただいて、それってリアルだなと思って、男性側の目線も入れて、多角的な視点を取り込みました」と話した。

山岡は、有田演じる妻・眞希の妊娠・出産に向き合う夫・山元良樹役。ポスターに使われている写真にも写っている良樹と眞希の家は、妻役の有田が当時実際に住んでいた家を撮影で使ったそう。山岡は、「機材を置きやすい廊下もある、撮影しやすいところを探して、撮影のために引っ越したんですよね?有田さんは全てをかけて撮影に臨んでいました。」と感銘を受けていた。

このポスターにも使われている子供の延命治療について話し合うシーンは、障がいを持つお子さんの親御さんからお話をお伺いした直後に撮影したそう。「ある一つの決断を妻に伝えるシーンだったのですが、(撮影直前に)実際に障がいのあるお子様をお持ちの方からお話を聞けました。僕らがこのシーンで演じたような場面をご自身が迎えたという方の生の言葉を聞けて、当事者の方が見た時にどう感じるのかということを今まさに聞いた状態で撮影を始められました。お芝居が終わった後にその方と目を合わせて、この作品のテーマでもありますけれど、“感じ合いながら”目配せをして、確認しながらできました。」と話した。

母親としての先輩・竹中里美役の小原は、コロナで舞台の上演が中止となった際に、有田に長編映画の監督をすることを勧めたそう。本作の撮影前に、プロデュース作で短編映画の監督を有田にお願いしたとのことで、「ありちゃんの作・演出の舞台を観た時にありちゃんが描く家族の絆がすごく純粋であったかくてストレートで素敵だなと思ったので、短編の監督をお願いしました。今回も、ありちゃんがこのテーマで家族のことを描いたら、あまりくどくなくストレートにぶつけ続けてくれるだろうなと思って電話しました。ありちゃんだったら自分の心のうちを曝け出すのがすごく上手だと思うので、それが素直にみなさんの心に届くのではないかと思いました」と有田の手腕を絶賛。

小原演じる里美が妊娠した時のカウンセラーとのシーンは、出生前診断の重みも感じられて印象的。小原は、「台本を読んだ時は『自分の決断ということで自分自身のことを考えるんじゃないかな』と思ったんですけれど、撮影の際にありちゃんが私の旦那役の大山(大)君に、『もっと慌てて』というようなもっと混乱しているような演出をつけていて、『私がしっかりしなきゃ、私が支えなきゃ』という気持ちが本番中に芽生えて、これが、『お腹の子を私が守らなきゃとか、旦那さんを自分が支えなきゃ』という母の始まりなのかなというのを撮影中に感じました。沸々と湧き上がる母性を感じたシーンでした」と疑似体験をした裏話を披露した。

瑞生が演じた未婚の女優・白井桜は、眞希の親友グループの一人。「親友の空気感ってその人たちにしかない、外から入れない空気感があるものだと思うんですが、初めてに近い人たちでどれだけ短期間で出せるかというのは心配もしていたんですけれど、撮影現場に行ったら、心配は吹っ飛びました。みんな明るくて楽しくて、本当に大好きになりました!その空気感が映画にもそのまま映っているなと思いました。」とのこと。

瑞生は、眞希を平手打ちするシーンが印象的。撮影の裏話を聞かれると、「誤解をなく言うと、気持ちよかったです」と大笑い。「なかなか人を平手打ちすることは日常でないと思うんですけれど、今観ていただいた方には、なんでああなるのかはお分かりになると思うんですけれど、桜自分自身の中にある後ろ暗さは作品を撮っている間ずっとあったので、人を責めながらも、自分自身がずっと刺されている感覚がありました。人に暴力を振るうと、自分に一番痛みが来るなと感じました。」と実感を込めて話した。

小林は、仕事を理由に妊娠を先延ばししているキャリアウーマン・東堂美紀役。有田監督ご自身は美紀タイプだったとのこと。小林は、「私自身も私の仲の良い友人の9割以上が、仕事のキャリアを積んでから、いわゆる高齢出産の年齢になってから産む、またはまだ産んでいないんです。この役の設定を聞いた時に、私には、一番リアルだなと感じられました。」と話した。

国際結婚をしている美紀を演じるにあたって工夫したことを聞かれた小林は、「逆に、工夫をしなかったというか、この作品の中では唯一の国際結婚のカップルかもしれないんですけれど、相手が外国の方だからその人を選んだというわけではなく、『二人がただフィーリングがあって、(相手が)たまたま外国人だった』というだけだと思ったので、こちら側が『私の夫は外国人なんだ』と意識しすぎて演じることがないように、あえて意識をしないことを意識しました。」と話した。

有田監督は各俳優さんのあて書きをしているそう。隆役の二條は、隆役が稽古を含めてどう変わっていったか聞かれ、「近いものは見えにくくて、自分はこういう感じかというのを感じながらも、『ここがあて書かれている』というのはわからないです。皆さんとお芝居をしていく中で、自分が『こう変えよう』みたいなことはなくて、自然と変わっていったのだと思います。」とのこと。

有田監督は男性側も描くことの重要性に気づき、加えている。初日の上映で観客と一緒に観たばかりの二條は、「何を欲しているか察するのって難しいなと最近思っています。相手を傷つけず、自分の気持ちを言うことをアサーションって言うそうです。(本作を観て、)“具体的にこうすればいい”という答えを欲しいとは思うんですが、そんなものはないけど、皆次に進もうとしている希望みたいなものが見えて、自分もちょっと力をもらえたなと思いました。より考えていきたいなとすごく感じました。」と感想を述べた。

最後に有田監督が、観客に、「観てもらってどう考えているかは人によって全く違うと思うんですけれど、感じたままに、友人や大切な人と話して欲しいなというのが1番の願いです。」とメッセージを送った。

■STORY
山元眞希は、里美・桜・美紀の4人から成る高校以来の親友グループに、「将来は絶対に子供が欲しい!」と言い続け、“普通の幸せ”を夢見ていた。妊娠が発覚し、夫・良樹と共に順風満帆な妊婦生活を過ごしていた眞希だが、出産予定日が近づいていたある日、体調不良によって緊急入院をする。子供の安否を確認するために出生前診断を受けるが、結果は陰性。胸をなでおろした眞希であったが、いざ出産を迎えると、赤ちゃんは難病を患っていた。

我が子を受け入れる間もなく、次々へと医師から選択を求められ、疲弊していく眞希。唯一、妹の渚にだけ本音を語っていたが、親友には打ち明けられず、良樹と子供のことで悩む日々。

そんな中、親友たちは眞希の出産パーティーを計画するが、それぞれの子供や出産に対する考えがぶつかり…

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