<生き物ヒトとなり>(109)エゴノネコアシアブラムシ 快適さ求めて”移住“

エゴネコアシアブラムシによる虫こぶ 撮影・筆者

 アブラムシの中には、季節によって異なる植物を利用し、とても複雑な生活をする種が知られている。エゴノネコアシアブラムシもその一つである。

 この昆虫は、春にふ化した幹母(かんぼ)と呼ばれる世代がエゴノキの芽を刺激して、虫こぶを作り始める。刺激された芽からはいくつもの緑色の棒状の構造が出現する。そして、幹母の次の世代の幼虫がその内部へと入り込む。幼虫が入り込んだ棒状の構造は、長さ2センチほどのバナナのような形状へと成長する。この虫こぶは、“バナナ”が短い時には猫の足のようにも見えることから、「エゴノネコアシ」と呼ばれる。

 アブラムシは“バナナ”の内部で増殖し、初夏になると翅(はね)が生えた有翅虫(ゆうしちゅう)と呼ばれる世代が虫こぶから出てくる。

 有翅虫はイネ科のアシボソという植物に移動して、そこで世代を繰り返す。秋になると、アシボソ上で翅が生えた産性虫と呼ばれる世代が出現し、エゴノキへと戻ってくる。この世代が産んだ雌雄が交尾して、エゴノキの幹に卵を産み付ける。そして、この卵が越冬して、翌春、幹母として生まれてくる。

 このように、季節によって異なる植物を利用する性質は「寄主転換」と呼ばれる。この性質が進化した理由に関しては、一方の植物の栄養状態が悪くなる時期に、もう一方の栄養状態が良い植物へと移住している、という説をはじめ、いくつかの仮説が提唱されている。

 私たちヒトも、夏は涼しい場所へ、冬は暖かい場所へと、快適さを求めて移住できると理想的かもしれないが、そんなぜいたくは忘れて、この爽やかな新緑の、そして虫こぶの季節を楽しみたい。(佐賀大農学部教授)

     =毎週日曜掲載

エゴノネコアシアブラムシの有翅虫 撮影・加藤俊英

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