「伊勢和紙」後継、20年ぶり採用 手すき職人 山本さん「伝統つなぐ」 大豊和紙工業 三重

【伊勢和紙の手すき職人として約20年ぶりの採用となった山本さん=伊勢市の大豊和紙工業で】

 【伊勢】三重県指定の伝統工芸「伊勢和紙」を唯一製造する伊勢市大世古の大豊和紙工業に、先月、手すき和紙の職人として、広島県出身の山本藍美さん(23)が入社した。同社が手すき職人を採用するのは約20年ぶり。山本さんは「伝統をつなぐ覚悟で来た。伊勢和紙独特の技術を自分のものにし、いい紙をどんどん作りたい」と意欲を見せる。

 山本さんは、幼い頃から家族と博物館へ足を運ぶ中で、伝統工芸に興味を持ったという。将来は伝統工芸に携わりたいと、京都府の京都伝統工芸大学校に進学。和紙工芸科で4年間学び、今春卒業した。

 昨年8月、山本さんが同社を見学したのが入社のきっかけ。職人志望ではなかったが、中北喜亮社長(38)から「うちに来てほしい。君が必要だ」と切望され、熱意に押されて覚悟を決めた。中北社長は「学生時代から紙すきの経験があり、即戦力。向上心もある。伊勢和紙をけん引する職人になってほしい」と期待を寄せる。

 同社は、明治32年創立の老舗。伊勢神宮のお札などに使われる御用紙の製造を100年以上手がけている。伝統を守りながら、工芸用やインクジェットプリンタ用、和紙小物など、手すきや機械すきで多様な和紙を生産しているが、手すき職人が40代のベテラン1人となり、後継者を望んでいた。

 入社から約1カ月半。山本さんは、和紙の原料の仕込みから、紙すき、乾燥、仕上げまで製造工程の一連に携わる。先輩職人に伝統の技を学び、経験を積む毎日。「伊勢和紙ほどきれいな和紙はない。検査基準が厳しく、工程の中で一つでも失敗したらいい紙にならない。少しずつ前進し、早く一人前の職人になりたい」と目を輝かせた。

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