愛する我が子は「自分の子ではなかった」 妻の“托卵”が判明した男性の苦悩 離婚せずに「嫡出否認」はできるのか

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妻が2人目の子どもを「托卵」していた──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

「托卵」とは、カッコウなどが自分の卵を他種の鳥の巣に産みつけて、その鳥に育児を任せる習性をいいます。夫以外の男性との間にできた子どもを夫の子と偽って育てる状況を捉えて、「托卵」と表現しているようです。

相談者が妻に内緒でDNA鑑定をしたところ、自分と血のつながりがないことが判明しました。もっとも、1人目の子は自分の子のため、離婚までは考えていません。

産まれて1年経っておらず、離婚せずに「托卵」された子について嫡出否認をしたいそうです。また、離婚せず嫡出否認ができた場合、否認された子の戸籍がどうなるのかも気になっているようですが、どうなるのでしょうか。山口政貴弁護士に聞きました。

●「夫のみ」「1年以内」の制限が法改正で緩和

──「嫡出否認」とはどのような制度でしょうか。

嫡出否認とは聞きなれない言葉かと思いますが、簡単に言えば、妻が産んだ子が自分の子ではないと夫が認識した時に、夫である父と子どもの親子関係を切断する制度です。

夫婦が結婚中に妻が妊娠した場合、法律上は夫の子どもとして扱われます。そのため、妻と不倫相手の男性との間に生まれた子どもでも、法律上は夫の子として扱われてしまうことになります。

そのような場合に、夫である父と子どもとの親子関係を切断するために用いるのが嫡出否認という裁判制度です。なお、この嫡出否認はいきなり裁判を起こすことはできず、まずは「嫡出否認調停」を申し立てる必要があるという決まりになっています(調停前置主義)。

──利用するための条件はどうなっていますか。

嫡出否認の制度を利用するためには、裁判を起こすことができるのは法律上の父のみ、提訴できるのも子どもの出生を知ってから1年以内と、従前はかなり厳しい条件がありました。

しかし、法改正により、2024年4月1日以降に生まれた子どもに対する嫡出否認の訴えは、父だけでなく、「母、子ども自身、前の夫」も提訴することができるようになりました。また、提訴期間も「1年→3年」と延長され、提訴ができる範囲・期間が拡大されました。

今回のケースでは、子どもが産まれてから1年経過していないとのことですので、法律改正前後を問わず、現時点で嫡出否認調停を申し立てることができるでしょう。

●嫡出否認が認められると「母の戸籍に入る」

──離婚せずに嫡出否認をすることは可能なのでしょうか。

嫡出否認の訴えを起こす際にあるいは訴えを起こした後に、必ずしも妻と離婚しなければならないわけではありません。

嫡出否認が認められるということは、妻が不倫したことになりますので、夫が離婚を望めば離婚することは可能ですが、逆に夫が離婚を希望せずに婚姻関係を継続したいということであれば離婚する必要はありません。

もっとも、離婚しないからといって、不倫相手の男性が夫に対して不倫の慰謝料を支払う義務を免れるということはありません。

──嫡出否認された子の戸籍はどうなるのでしょうか。

仮に嫡出否認が認められ、子どもが父の子ではないと確定した場合で、子が父の戸籍に入っていたときは父の戸籍からは除かれ、母の戸籍に入ることになります。父親の欄は空欄です。その後、実際の父が認知をすれば父の欄に名前が記載されることになります。

──養育費はどうなりますか。

法律上は、実際の父が認知をしない限り、実際の父から養育費をもらうことはできません。実際の父が認知の届出をした後に実際の父に対し養育費を請求することができるようになります。

実際の父が認知をしないようであれば、家庭裁判所に認知調停を申し立てることとなります。

【取材協力弁護士】
山口 政貴(やまぐち・のりたか)弁護士
サラリーマンを経た後、2003年司法試験合格。都内事務所の勤務弁護士を経験し、2013年に神楽坂中央法律事務所を設立。離婚、婚約破棄等を専門に扱っており、男女トラブルのスペシャリストとしても知られる。
事務所名:神楽坂中央法律事務所
事務所URL:http://www.kclaw.jp/index.html

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