「今も心が痛む」 K-POPのセックス・スキャンダルを暴き……暴いた記者に強いられた犠牲

ルイス・バルッチョ、カイ・ローレンス BBCワールド・サービス

韓国の女性ジャーナリスト、パク・ヒョシルさんとカン・ギョンユンさんの生活は、K-POPスターのセックス・スキャンダルを報じたことで、ショッキングな形で一変してしまった。自分たちが真実を追及することで、自分自身が個人的に大きな代償を払うことになるなど、2人は予想していなかった(文中敬称略)。

2016年9月ソウルを拠点とする新聞記者のパクは週末を前に仕事を終えたところだった。友人に会いに行こうとしたちょうどその時、電話が鳴った。

電話の向こうはパク記者の上司の編集長で、信頼できる警察筋から情報提供があったとの話だった。

「盗撮セックスビデオに関する大事件が捜査中で、大物の有名人が関わっているという話でした。有名人とは、チョン・ジュニョンでした」

パク記者はショックを受けた。チョンは人気ロックバンド「Drug Restaurant」のシンガーソングライターで、国民的人気のスターだったからだ。しかし情報筋によると、チョンのガールフレンドが性行為を同意なく撮影されたと訴えているという。こうした犯罪は、韓国では「モルカ」と呼ばれている。

パク記者は友人との食事の予定をキャンセルし、編集長と会うためにオフィスに直行した。

「スクープを逃したくなかった」と、パクは言う。「金曜日の午後10時50分に記事を公表しました」。

「それがここまで大ごとになるとは思っていなかった」と、パクは振り返る。

数分後には韓国中でトップニュースとなった。「マスコミ各社、どこも大騒ぎでした」。

チョンの所属事務所はすぐに行動を起こし、声明を発表。警察の捜査を「マスコミが大げさに膨らませた、ささいな出来事」と呼んだ。

チョンのファンは、すぐさまガールフレンドを非難した。そして、記者のパクへの攻撃も始めた。

「メディアが悪者にされた」とパクは言う。「そして私が、その矢面に立たされました」。

パクはインターネット上で、攻撃的なコメントを大量に浴びた。悪意のある電子メールも大量に届いた。パクの顔や体の写真がインターネットに投稿され、大勢がそれを侮辱した。「なんて顔だ。踏んづけてやりたい」というコメントもあった。

パク記者の上司の編集長にも、「彼女をクビにしないなら、オフィスに火をつける」といった脅迫電話がかかってきたという。

「殺害の脅迫が次々と届きました。夫はひどく心配して、あまりに危ないからオフィスに行かないように、家の外に出ないようにと言っていました」と、パクは話す。

嫌がらせは6カ月後、さらにエスカレートした。

「早朝に電話がかかってくるようになって、3~4時間、電話が鳴り続けた。私が電話に出ないと、わいせつ画像を送ってくるようになりました」

パクの元には毎日、何千通ものメッセージが殺到した。

「妊娠中で、とてもショックでした。精神的に打ちのめされ、家の外に出ることさえ大変でした」

「その後、2度流産して、今は子供がいません」

それが唯一の原因ではないかもしれないが、このストレスが自分の妊娠に影響したとパクは考えている。「ストレスが流産に影響したのは確かです」と、パクは打ち明けた。

パクがこの騒ぎに巻き込まれていたのと同時期、韓国最大の放送局SBSの芸能リポーター、カン・ギョンユン記者も、何人かのK-POPスターについて取材を進めていた。

カン記者はこの後、パク記者が始めた仕事を、その結末まで引き継ぐことになる。

チョンは2016年にモルカの件で警察の事情聴取に応じた際、分析のために携帯電話を明け渡すよう求められた。チョンは警察の求めに応じず、代わりに民間の鑑定会社に送った。なぜそうしたのか、理由はいまだに説明していない。

しかしこの時、携帯電話内のデータが複製された。チョンはそれを知らなかったという。3年後、データのコピーを入手した匿名の人物が、このデータを流出させた。データは、最終的にカン記者の元に届いた。

「このデータの内容について考えるたび、今でも心が痛みます」と、カンは話す。

カンは当初、2016年にパクが報じた、チョンとガールフレンドの動画が出てくるものと思っていた。しかしその動画はなく、代わりにあったのはチャットグループのデータだった。意識不明の女性が大勢映る、性的に露骨な内容の動画や画像を、チャットグループはやりとりしていた。チャットグループには、チョンや他の男性KPOPスターたちが参加していた。

中にはロックバンド「FT Island」のギタリスト、チョイ・ジョンフンや、人気男性アイドルグループ「BIGBANG(ビッグバン)」のメンバー、V.I(スンリ)もいた。

データをさらに深堀りしていくと、カン記者は恐ろしいやりとりを目にした。そこでは、意識を失った女性を集団でレイプした際の詳細が語られていた。この女性が倒れて頭を打った時のことも、話題になっていた。

男の一人は、「きのうは本当に怖かった(中略)頭蓋骨が割れるみたいな音がしたから」と話していた。チョンは、「マジで人生で一番面白い夜だった」と投稿していた。

カンは、こうしたやりとりにショックを受けたという。

「女性たちをおもちゃのようにもてあそんでいて、本当にひどかった」

カンはさらに、彼らが警察幹部とのコネクションに守られているという内容が、チャットの中でほのめかされることも発見した。

カンはこの時、自分自身への嫌がらせに耐えてでも、K-POP界のこの闇の部分に光を当てなくてはならないと思っていた。

カンは取材を続け、十分な証拠がそろった時、スンリ、チョイ、そしてチョンが参加するチャットグループの行状を明らかにする記事を発表した。

この時の世間の反応は、パクの時とは違った。カンの記事が出るや否や、当局は素早く対応した。最初に逮捕されたのはチョンだった。

捜査当局の早急な対応に励まされ、被害者が次々と名乗り出て、スターたちを告訴した。

こうした行動には大きな力が必要だ。被害者たちは全員、2016年にチョンのガールフレンドが警察に通報した際、世間がどれほど彼女を攻撃したかを見ていた。しかし、大勢が中傷や屈辱を乗り越え、スターたちに対する刑事裁判を求めた。

だが、法による正義が実現した一方で、カンは「徹底的な個人攻撃」を数多く受けるようになった。

「当時私は妊娠していたので、フェミビッチと呼ばれました。妊娠したフェミビッチとか、左翼フェミビッチとか」

「結婚から5年近くたって、初めて妊娠することができたので、赤ちゃんに何かあったらと思うと、とても怖かった。私は心の中でとてつもなく孤独で、疲れ切っていました」

3年間続いたハラスメントの中では、「口にすることもできない」ような「最もショッキングな」コメントが、カンの子供にさえ向けられた。しかしカンは、報道を「後悔していない」と言う。

豪カーティン大学のジョー・エルフヴィング=ウォン助教授(韓国社会・文化学)は、K-POPスターの行状を暴露した記者のパクとカンは、「(自分の経験を)話すなどできないと思わせられた」被害者たちと「全く同じ暴力」を経験したのだと指摘した。

また、韓国でジェンダー不平等について語ることは「激しい対立を呼ぶ」ことがあり、被害者と記者たちが直面したものの中心には、ミソジニー(女性嫌悪)があると説明した。

「ミソジニーは、男性が女性について何か言うことに限定されない。ミソジニーとは力であり、全てのジェンダーに平等な価値があるという意見を沈黙させようとする動きです」

しかし、個人攻撃に直面したにも関わらず、カン記者もパク記者も、韓国の文化が変わりつつあると語る。

2人の勇気ある行動は、エンターテインメント業界での権力乱用に関する議論につながった。さらに、モルカなどの犯罪から女性を保護するよう求める声もあがった。

娘をもつ母親となったカン記者は、真実の報道にかかわった一人としてオンラインの容赦ない嫌がらせにさらされ、それに耐えた経験を、今も忘れられずにいる。それでも、自分たちの努力が「K-POP界でセックスと権力がいかに人を腐敗させるか」という警鐘として、鳴り続けることを期待していると話す。

「私たちは巨大な池に小石を投げ入れました(中略)水面は今はまた落ち着いているものの、何があったか今も大勢が覚えていると思いたい。覚えていてくれれば、もしまたあのようなことが起きたら、今度はもっと素早く表ざたにできる」

  • チョン・ジュニョンは、集団強姦の罪と、モルカを撮影および流通させた罪で懲役5年の実刑判決を受けた
  • チェ・ジョンフンは、集団強姦にかかわった罪で懲役2年6カ月の実刑判決を受けた
  • スンリは売春あっせん、横領、モルカ、暴力の扇動で有罪となり、二審で懲役1年6カ月の実刑判決を受けた
  • チャットグループとつながりのあった警察幹部は、チャットグループのメンバーに関する全ての罪状で無罪となった

現在、全員が出所している。

(K-POP界を揺るがしたこの事件について、パク・ヒョシル記者とカン・ギョンユン記者が経験を語るBBCドキュメンタリー「Burning Sun: Exposing the secret K-pop chat groups」は、6月にBBCニュースチャンネルで日本語付きで放送予定)

(英語記事 ‘My heart still hurts’: The personal sacrifice of revealing a K-pop scandal

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