U-17W杯から約6か月。川崎U-18のDF柴田翔太郎は、なぜ何度もスペイン戦を見返すのか「現実を受け止めている。一歩一歩やっていくしかない」

昨年11月のU-17ワールドカップの記憶は、嫌でも脳裏に焼きついている。マンチェスター・シティが今年1月に獲得したMFクラウディオ・エチェベリを擁するアルゼンチンの圧倒的なプレー強度と、勝利に対する飽きなく執念。体力的に相手に分があったとはいえ、スペインの狡猾な試合運びと勝負強さ――世界で戦うために何が必要かを、これでもかと突きつけられたのは確かで、右SB柴田翔太郎(3年/川崎フロンターレU-18)にとって強烈な体験になった。

柴田はことあるごとに映像を見返してきたという。特にラウンド16のスペイン戦(1-2)は、フルタイムで何度も見た。

「忘れてしまうのが一番怖い。ベタかもしれないけど、負けたスペイン戦は僕のサッカー人生で一番悔しかった試合。だからこそ、あの試合を何度も見るようにしている。勝てると思っていたところもあって、それで負けたことが悔しかったし、それを忘れてはいけない。だから、ハイライトじゃなくて90分の映像で見るようにして、大事な試合やモチベーションを上げる時に見返してきた」

川崎U-18で世界に触れる経験をしたのは、自分とCB土屋櫂大(3年)だけ。2人が軸になって、その経験を仲間に伝えていく役割を果たすのだが、現在は土屋が負傷離脱中。できるのは自分しかいないのだが、理想と現実の狭間でもがき続けている。

「世界の基準を肌で感じたという自負もあるので、もっとできると思いながらも、体験しないとチームとしては分からない。そこをどうやって合わせるかはすごく難しい。でも、高い要求に合わせるほうが絶対に良いと思うんですけど...」

5月18日に行なわれたU-18高円宮杯プレミアリーグEASTの第7節・流経大柏戦は、まさにその難しさを味わうゲームとなった。

首位を走る川崎U-18は、アウェーで勝点1差の2位・流経大柏と対戦。序盤から相手のハイプレスに対応できず、前半のうちに2点を先行されてしまう。後半は立ち位置を修正してやや持ち直したが、ゴール前に入り切れない。78分に後半で唯一のシュートをFW恩田裕太郎(2年)が決めたものの、球際の強度で上回る相手の牙城に何度も阻まれた。

87分に流経大柏のDF堀川由幹(3年)が二度目の警告で退場となり、数的優位の状態となってからは押し込む時間が増えたものの、攻め切れずに1-2で敗北。中断前最後の試合を落とし、流経大柏に首位の座を明け渡した。

首位攻防戦の試合後、柴田は反省の弁を述べた。

「前線の選手は前から行きたいと思っていて、後ろの選手からはライン間が厳しいという意見が出ていた。フォワードのラインに合わせるのか、最終ラインに合わせるのか。そこで間延びが起きて、ライン間にボールを入れられる現象が前半を通してあった。ロッカールームに戻って、目を合わせるところが足りなかったという話をしたけど、45分間のその状態で戦っていれば失点はしてしまう。そこはもったいなかった」

特に前半は相手の戦い方に戸惑ったという。「自分たちの予想としては、3トップで自分たちの3枚回しに3人でプレスをかけてくると予想していたけど、ちょっとやり方が違った」と面食らい、2トップで前線からハイプレッシャーをかけられたことで、思うようにボールを保持できなかった。そうした状況で何ができるのか。経験値のある柴田がチームを引っ張る必要があった。

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個人の出来としては「高い位置でボールを持ったら、自分は絶対にアシストできる自信がある」と胸を張ったように、恩田のゴールを得意のクロスで演出したが、リーダーシップを思うように発揮できなかった。

「本人も個を出して、色々チームをもう1回、ここから奮い立たせるような姿勢は見えたんですけど、彼自身がはたして、ボールをもっと自分で要求しながら、やるんだというのがプレーで発信できたかというと、そうではないところも正直あると思うので、そのへんはさらにやってほしいなと思います」と長橋康弘監督も期待を寄せる。柴田本人も「自分を含め、経験や引き出しを持っている選手が、もっとチームに提示してあげないといけなかった」と唇を噛んだ。

今季のチームは開幕から好調を維持し、上位争いに加わり、苦しむようなゲームはほとんどなかった。そのなかで味わった流経大柏戦の敗北はショックも大きいが、この試合に意味を持たせなければならない。

チームを勝たせるために、自分は何ができるのか。個人として攻撃力を活かすために守備の立ち位置を見直すなど様々なことに取り組んできたが、プラスアルファでリーダーシップや仲間に伝えていけるようになれば、選手として次のステージも見えてくる。

U-17ワールドカップでともに戦った選手たちが続々とトップチームデビューを飾っており、焦る気持ちもあるが、今できることをやるしかない。

「今の自分ではいけない。その現実はきちんと受け止めているので、高望みせずに一歩一歩やっていくしかないです」

選手として強く逞しくなるべく、柴田は自分と向き合いながら前に進んでいく。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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