資産総額9,000万円の父急死→資産総額3,800万円の母も急死…「ダブった相続手続きをどうすれば」「両親の死、悲しむ余裕もない」40代独身長女の大混乱

(※写真はイメージです/PIXTA)

父親が亡くなり、相続が発生。母親と子どもたちが、焦って相続手続きに着手しようとしていたところ、今度は母親も急死…。父親の相続が終わっていないところ、母親の相続まで重なり、3人の子どもたちは大混乱です。一体どうやって手続きを進めればいいのでしょうか? 相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

父親に続き、母親まで…「ダブった相続手続き、どうしよう!」

今回の相談者は、40代の会社員の鈴木さんです。父親が亡くなり、相続手続きに取り組もうとしていたさなかに、今度は母親までも急死してしまい、対応に困り果てているとのことで、筆者のところへ駈け込んでこられました。

「亡くなった父親は不動産を複数所有しているのですが、すべて父に任せきりで、子どもたちは詳細を知りません。部分的に事情を知っている母に話を聞きながら、どうにか手続きを進めようとしていたところ、今度は母が急死してしまいまして…」

鈴木さんがなにより懸念しているのは、母親が亡くなったことで、相続税額が大きく膨らんでしまうのではないかということでした。また、遺言書もなく、遺産をどうやって分ければいいのか、見当もつかないといいます。

「父の相続が終わっていないのに、母まで…」

「相続税、いくらかかってくるのでしょう? いったいどうしたらいいのか。両親の死を悲しむ余裕もありません」

長女の鈴木さんは、中小企業勤務の独身の会社員で、下に既婚の弟が2人います。鈴木さんは貯金が多くなく、弟たちは子育てにお金がかかっていることから、もし多額の費用負担が発生する場合、対応できないかもしれないといって、不安を抱えています。

税理士、資産状況を冷静に計算

筆者は、鈴木さんから面談の依頼があった際、父親が複数の不動産を所有しているということから、固定資産税納付書をはじめとする資料を持参するようお願いしていました。

面談に同席した提携先の税理士は、資料をもとに不動産について見ていきました。戸建ての自宅のほか、アパート、空き地で5,000万円程度、預金と有価証券で4,000万円程度と、合計およそ9,000万円の資産であることがわかりました。

父親が亡くなった時点では母親は健在でした。そのため、父親の相続人は、母親と3人の子どもの合計4人となり、基礎控除は5,400万円です。

母親のほうの財産は、父親と共有名義のアパートと預金で、およそ3,800万円の資産だとわかりました。母親の相続人は、鈴木さんと2人の弟の合計3人で、基礎控除は4,800万円です。

父親の相続、遺産分割協議が必要だが…亡き母親をどうすれば?

父親の相続手続きでは、相続人の遺産分割協議書が必要になりますが、相続人である母親は亡くなっていますので、当然ですが参加できません。

「この場合、亡くなった母親の相続人である子どもたちが、母親の代わりに遺産分割協議をして、母親の相続分を決めてよいことになっています」

「そうなんですね…」

税理士の説明に、鈴木さんはうなずきました。

つまり、母親の相続も見越したうえで相続割合を決めてよく、とくに法定割合である「財産の半分」には拘らなくてもいいのです。

税理士、母親の財産が基礎控除内になるよう冷静に調整

父親の財産に対する相続税は400万円です。母親には配偶者の税額軽減の特例があるため、全部を母親が相続し、400万円の相続税をゼロにすることも可能です。

しかし次の母親の相続では、母親の財産3,800万円プラス、父親から相続した財産9,000万円が加算された1億2,800万円の財産に対して相続税の申告をするため、相続税は700万円になります。これは得策とはいえませんので、相続税が最小限で済む割合を想定し、父親の財産の遺産分割協議をするようにします。

税理士が試算したところ、母親の財産を基礎控除内にするには、父親の預金の4分の1、1,000万円以内に抑えればよいという結果になりました。母親の財産が基礎控除以内になれば、相族税の申告は不要となります。

その割合でいけば、父親の相続税を90%、つまり360万円子どもが負担することで、母親の相続時の相続税の負担がなくなり、結果として、48%節税できることになります。

居住用の小規模宅地等の特例、オトクに活用するには…

居住用の小規模宅地等の特例を適用できるのは、母親と、同居していた鈴木さんの2人です。どちらに適用してもいいのですが、適用するには、自宅の土地を相続する必要があります。母親が自宅を相続することも可能ですが、相続登記をする必要があるうえ、母親の相続で、同居の鈴木さんがさらに相続する必要があります。

母親が相続してメリットがある1,000万円は、不動産でもいいですし、金融資産でもかまいません。しかし、不動産の場合は相続登記が必要で、15万円程度はその費用がかかります。その点を考えても、やはり自宅は鈴木さんが相続するのが得策です。

基本的には、一次相続(父)よりも、二次相続(母)の相続のほうが、法定相続人の数が減って基礎控除も少なくなります。父親の遺産をすべて母親に寄せると、母の遺産が多くなるため、今回のようなケースでは、母親が相続せずに、子どもたちで相続することが一般的だといえます。

しかし、鈴木さんの両親のケースように、母親の財産の基礎控除の枠が余っているなら、その分程度の財産を相続したことして相続税を減らすこともできます。このような采配については、税理士をはじめとする、専門家のアドバイスに従って判断すると安心です。

順を追って整理すれば、取るべき道が見えてくる

以上の説明に鈴木さんは納得され、2人の弟さんとも話し合った結果、税理士の提案通りのプランで手続きを進めることになりました。

父親の相続税は致し方ありませんが、母親の相続分と小規模宅地の特例の適用により、20%程度は減額できる見込みです。母親の相続については、計算して配分した結果、相続税の基礎控除の範囲内に収められるため、相続税も申告費用はかからずにすみます。

相続税の申告必要は1回ですませることができ、母親の分は遺産分割協議書の作成と共有の不動産の相続登記のみで完了します。

父親の相続税の申告期限まで3ヵ月程度ですが、きょうだい間での遺産分割の合意は得られていることから、円満な遺産分割協議となりそうです。また、母親の手続きも一緒に終えられるため、不安を一掃することができます。

「本当に安心しました。父の相続でパニックだったところ、母まで亡くなって、一体どうしたらいいのかと思っていましたが、きちんと交通整理することで、節税まで可能になるのですね」

鈴木さんは安堵の表情を見せてくれました。

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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