『鬼滅の刃』は『イッテQ』も凌駕の超高視聴率 「良効率と爆発的収益」元テレ朝Pが隆盛のアニメ事業の裏を解説

柱稽古編がフジテレビでスタートした『鬼滅の刃』 ※画像は『鬼滅の刃』の公式X(旧ツイッター)『@kimetsu_off』より

5月19日夜、アニメ『鬼滅の刃 柱稽古編』(フジテレビ系/日曜夜11時15分~)の第2話が放送される。

『鬼滅の刃』は、吾峠呼世晴氏の同名コミック(集英社/全23巻)で、2019年にアニメ化が開始した大人気シリーズ。昨年4月クールには『刀鍛冶の里編』が放送され、原作第15巻までの物語が描かれていた。

今回の『柱稽古編』は「鬼」(本作の悪役)を倒す組織「鬼殺隊」の最高位剣士である柱の面々が、主人公・竈門炭治郎らに稽古をつけ、その過程で柱の内面がさらに深掘りされていく物語。鬼の首領である鬼舞辻無惨との総力戦も迫りつつあり、クライマックスが少しずつ近づいている。

本作の放送に先駆けてフジテレビは、前シーズン『刀鍛冶の里編』を前後編にした特別編集版『敵襲編/繋いだ絆編』を5月4・5日のゴールデンタイムに放送した。

制作会社関係者は話す。

「『鬼滅』は言わずと知れた大ヒットアニメコンテンツですよね。その最新作ということで多くのファン、視聴者が期待していたのでしょうね。現在、テレビ界が最重要視している13~49歳のコア視聴率は非常に高く、ゴールデンタイムに放送された『特別編集版 刀鍛冶の里編』はもちろんのこと、遅い時間の『柱稽古編』の第1話(5月12日)も凄い数字でした」

まず『刀鍛冶の里編』の特別編集版は、『敵襲編』(4日)が4.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)で、『繋いだ絆編』(5日)が5.6%だった。『繋いだ絆編』の裏では常に高いコア視聴率を記録する『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)が放送されていたが、『イッテQ』は4.3%。『鬼滅』が『イッテQ』を凌駕したのだ。

そして、5月12日に放送された『柱稽古編』は夜11時15分開始でありながら、コア4.1%と、並みのGP帯の連ドラ、バラエティ番組を遥かに上回る高数字を叩き出したのである。

「近年は、日本テレビでは『葬送のフリーレン』(原作・山田鐘人氏、作画・アベツカサ氏、小学館)が、TBSでは『呪術廻戦』(芥見下々氏、集英社)がアニメ化されているのを筆頭に、民放キー局がアニメに力を入れていますよね。

『呪術』は既存の深夜枠でしたが、『フリーレン』ではアニメ枠を新設したり、23年9月の『金曜ロードショー』で1~4話を一挙放送するという新たな戦略も取られていました」(前同)

■元民放Pが分析する民放キー局で“大人も見る”アニメが放送されるワケ

TBS系で放送された『呪術廻戦』は、迫り来る呪霊を呪術を使って祓う呪術師の闘いを描いたダークファンタジー作品。第1期(20年10月期)は深夜枠(土曜1時25分~)ながらSNSで大バズりし、『劇場版 呪術廻戦0』(22年11月公開)は興行収入138億円の大ヒットを収めている。

日テレ系で放送された『葬送のフリーレン』は、勇者パーティの仲間で長命のエルフ・フリーレンが人間を学ぶために旅に出るファンタジー作品。『金曜ロードショー』で放送した翌週から日テレの新アニメ枠『FRIDAY ANIME NIGHT』枠(金曜夜11時~)の第1弾としてスタート。23年10月から今年3月まで2クール放送されていた。なお、現在の同枠では『転生したらスライムだった件』が放送中だ。

「以前は、テレビアニメといえば子どもが見るものだと思われていましたが、現在は全く違いますよね。『鬼滅』、『呪術』、『フリーレン』が良い例ですが、原作は少年誌に掲載されていても、普通に大人が見ているし、そういった層に向けてのキャラグッズも充実しています。キー局が、大人も楽しめるアニメを率先して流している感じですよね」(前出の制作会社関係者)

近年、なぜ民放キー局で“大人の視聴者も狙ったアニメ”が放送されるのか――テレビ朝日で情報・報道番組のプロデューサーを長年務めた鎮目博道氏に、テレビ局の“事情”を聞いた。

「まずアニメはそもそも、テレビ局にとって非常に効率の良いビジネスなんです。というのも、自局で制作するバラエティ番組やドラマと違い、アニメは制作をするのも、国に支払う電波料を負担するのも、すべて制作会社サイド。テレビ局サイドの負担が極めて少ないんです」(鎮目氏=以下同)

またアニメの場合は、製作委員会方式(※複数の企業で出資し合い事業リスクを分散するビジネスモデル)で制作され、テレビ局の放送枠を買い取る仕組みとなっている。さらに、

「たとえばバラエティ番組を作るとなったら、制作するのに加え、局の営業がスポンサーを探すために広告代理店や企業を回る必要がありますよね。しかし、製作委員会方式で作られたアニメは、最初からスポンサー企業が製作委員会に参加しているから、放送するテレビ局サイドが営業をする必要もなく、その面でも効率が良いんです」

■コンプライアンスの面でも自由度

加えて、近年急速に厳しくなりつつあるコンプライアンスの面も、アニメにはプラス点があるようだ。

「実写ドラマなど比べると、かなり表現の自由度が高いんです。それこそ『鬼滅』では首が飛んだり、腕を切り落とされて血まみれになったりするシーンが多くありますが、こういうシーンは実写ドラマでは難しいですよね。そういったシーンも、“アニメ”ということで許されるということです」

そして、近年、民放キー局で“大人も見る”アニメが放送される理由の極めつきが「爆発的な収益化の可能性があること」だという。

「アニメが大ヒットすればCMスポンサーからお金が入るだけではなく、劇場版につなげることもできる。そして、映画になるまでのヒット作になっていたら、さまざまなグッズ展開も期待できる。そして、イベントにも期待ができますね」

フジテレビは夏のイベント「お台場冒険王」を開催しているが、そこで人気アニメのブースを展開すればイベント全体の集客増が期待できるし、そこでのキャラクターグッズの売り上げも期待できるだろう。

「ちなみに、現在フジテレビで放送されている『鬼滅の刃』は当初、TOKYO MXで放送されていました。同放送局では、アニメ作品の第1期がスタートすることが多いのですが、これは電波料が安いうえ、他のローカル局と違って“首都圏で放送している実績が作れる”というのが大きな理由の1つだと言われています。

近年は、Netflixなどでの配信も増えていますが、アニメ業界の方たちは地上波放送に重きを置いているというのと、TOKYO MXは基本的に放送内容に意見をしてこない、自由にできることも、同局が人気の理由だとといいますね」

2000年代に本数が激減し、このまま衰退していく雰囲気さえあったテレビアニメ。時代は大きく変わった。

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