50代の夫婦で「貯蓄ナシ」の賃貸暮らしです。老後はいざとなったら「生活保護」は受けられますか? 貯蓄がなく、持ち家もなければ受けられると聞いたことがあります

高齢者でも生活保護は受けられる

生活保護は国民に健康で文化的な最低限度の生活を保障するための国の制度です。要件を満たせば申請でき、年齢による制限はありません。

生活保護を受けている世帯に多いのが高齢者です。厚生労働省の「生活保護制度の現状について」(令和4年6月)によると、65歳以上の人だけの世帯またはこれに18歳未満の人が加わった「高齢者世帯」は生活保護受給世帯の56%を占め、91万3000世帯となっています。生活保護世帯数は平成27年3月をピークに減少していますが、全体に対する高齢者世帯の割合は逆に増えています。

なお、年金を受けながらの生活保護受給も可能です。この場合、認定される最低生活費から年金額が収入として引かれた額が生活保護費となります。

生活保護には「住宅扶助」がある

生活保護にはアパートの家賃などに充てるための「住宅扶助」があります。生活保護費は住まいのある地域が「級地」という分類のうちどれに当てはまるかによって金額が変わりますが、住宅扶助についても級地別の基準額の範囲内で支給されます。

例えば東京23区の場合、1級地に該当するため住宅扶助の基準額は単身世帯で5万3700円、3人世帯で6万9800円となり、この範囲内で実費分が支給されます。

ただし東京23区の家賃相場は、ワンルーム・1K・1DKでも最も高い千代田区で約13万8000円、逆に安い葛飾区でも約7万円(2024年4月19日時点)であり、暮らす地域や物件によっては住宅扶助だけで家賃すべてをまかなうのは難しいようです。

家賃のより安価な物件や地域へ転居する場合、敷金・礼金や火災保険料などは一定の限度額の中で住宅扶助から支給されます。

子どもに黙って生活保護を受けるのは難しい

「扶養義務者の扶養は、生活保護法による保護に優先」するという決まりがあります。

扶養義務者とは民法で定められた直系血族及び兄弟姉妹・配偶者間による相互協力扶助義務のことで、直系血族は曾祖父母・祖父母・父母・子ども・孫・ひ孫が該当します。

生活保護を申請するときは、まずこの扶養義務者からの扶助を受ける必要があります。例えば子どもから仕送りを受けていて、それでも最低生活費に足りないのであれば生活保護を受給できる可能性があります。子どもからの仕送り分は生活保護費から差し引かれることになります。

親としては「子どもに迷惑をかけたくない」「知られたくない」と思うかもしれません。しかし生活保護を申請すると、その扶養義務者に対して「扶養義務をはたしているか」といった履行状況の照会をされるので、黙ったままというのは難しいようです。

ただし扶養義務者に「扶養義務履行が期待できない」と判断された場合は、照会は行われません。借金を重ねている、相続をめぐり対立している、縁を切られているなどの理由です。DVや虐待の経緯がある場合も含まれます。

まとめ

生活保護が必要となる可能性は誰にでもあり、定められた要件を満たす場合は誰でも生活保護を受ける権利があります。
老後に備えた生活設計をしておくことはもちろん大切ですが、大きな病気や事故など想定外のことで経済的に困窮することは起こり得ます。いざというときのために「生活保護という選択肢もある」と覚えておき、必要なときはためらわずに住まいのある自治体に相談するのがよいでしょう。

出典

金融広報中央委員会 家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)令和5年調査結果
厚生労働省 生活保護制度
厚生労働省 扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について

執筆者:根本由佳
FP2級、中小企業診断士

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