【5/25(土)開催】落水洋介&三代達也講演会「挑戦を諦めない~5年越しの夢とこれから~」~ 美観地区で車いす街歩きイベントを始めた女性のチャレンジ

WheeLog! は、車いすで実際に通った道や、ユーザー自身が訪問して利用した施設など、ユーザー体験に基づいたバリアフリー情報を共有しているデジタル版バリアフリーマップです。

岡山県倉敷市でも毎年春と秋に、バリアフリーマップ更新を兼ねた車いす街歩きイベントが開催されています。

2024年春は、車いす街歩きイベントの前夜祭として車いすユーザーの落水洋介(おちみず ようすけ)さんと、三代達也(みよ たつや)さんを招いて講演会が開催されることになりました。

講演会の発起人は、岡山県で初めて車いす街あるきイベントを主催した森上美穂(もりうえ みほ)さん。

この講演会は、森上さんの5年越しの夢なのだとか。
講演会にかける想いを取材してきました。

美観地区車いす街歩き主催者 森上美穂さん

岡山で初めて車いす街歩きイベントを開催した森上美穂さんは、幼少期に車いすユーザーの祖母と暮らしていました。森上さんの祖母は、足が不自由なことが原因で後ろ向きな気持ちになることが多くあり、車いすでの生活に苦しむ姿を見てきたといいます。

社会人になり、寝たきりや車いすのかたの身体のメンテナンスを担当する理学療法士となった森上さん。

仕事を通じて車いす利用者と関わる機会も増え、バリアフリーのあり方について考えるようになりました。

当事者の目線に立ってみようと、京都や福山で開催されたWheeLog!主催の車いす街歩きイベントや車いす当事者の講演を聴きに行くようになり、岡山県でも車いす街歩きイベントを定期開催したり、車いすユーザーの講演会を主催したりしています。

現在は、「段差を迂回するためのスロープがある」「車いすが通れる幅の通路がある」というような環境のバリアフリーだけでなく、車いすユーザーにとって不便な環境であったとしても、お店のスタッフらの手助けが得られる心のバリアフリーにも着目しながら、年に2回、春と秋に美観地区で車いす街歩きイベントを開催しています。

森上美穂さん

主催者の森上美穂さんが、講演会を開催するに至るまでの経緯

そんな森上さんが主催する今回の講演会「挑戦を諦めない~5年越しの夢とこれから~」は、どのような経緯で開催されることになったのでしょうか。

講演会を開催してみたい

──講演会を企画するきっかけを教えてください。

森上(敬称略)──

今回の講演会は、私自身の5年越しの夢なんです。

私は現在、老人保健施設で理学療法士として働いています。寝たきりや車いすのかたの身体のメンテナンスを担当しているのですが、当事者の目線に立つことって実はなかなかないんです。

そんな私が、車いすユーザーの三代達也さん講演会に参加しました。

そのときの衝撃は、今でも忘れられません。彼の講演内容は、車いすで世界一周をした際の数々のエピソード。障がいがあっても自分のやりたいことをやろうと行動するエピソードの数々に、勇気をもらいました。

何よりも印象的だったのは、講演会を主催する実行委員の姿です。どの実行委員も楽しそうに講演会を運営していて、とても素敵だなと思いました。

と同時に、私は障がいがあるわけでもないのに、今までの人生で大きな挑戦もしたこともなければ、実行委員のような仲間もいないことに気付きました。

なので、「いつか私の住む岡山県に三代さんを呼んで講演会をする」という目標を立てたんです。

岡山県で初めての車いす街歩きイベントを開催

──「講演会をする」目標に向けて、どんな行動をしましたか。

森上──

2019年に京都で開催された車いすユーザーと一緒に街歩きをするイベントWheeLog! in 京都に参加しました。

三代さんの考えを知るにはまず、当事者の視点に立つ経験が必要だと思ったからです。

写真提供:森上美穂

当日は、1年で京都にもっとも人が集まる祇園祭の日。マップに掲載しているバリアフリー対応可能なお店はどこも入れず、空いていたのは目の前に段差が2段ほどあるカレー屋さんだけでした。

参加者同士で「絶対ここは無理だよね」と話をしていたら、店員さんが出てきて「僕たちが手伝えば入れるよ」と車いすを持ち上げて店へと案内してくれたんです。

すごくワクワクしました。そして、この高揚感を私の地元岡山の人にも体験してほしいと思うようになりました。

──岡山で初めて車いす街歩きイベントが開催されたのは、いつですか。

森上──

最初は、2020年9月に私が住んでいる高梁市で開催しました。

WheeLog! in 京都での体験を通して、私たちにとって必要なのは環境のバリアフリーだけでなく、同じ場を共有しあえる仲間ではないかと気付いたんです。

だから、私一人だけでなく仲間と一緒にあるきたいと思ってWheeLog! アプリを使って仲間を募ることにしました。

写真提供:森上美穂

といっても、当時は新型コロナウイルス感染症の影響で大人数の募集はできません。結果、私と学生時代の後輩、そしてWheeLog! アプリで知り合った車いすユーザーの3人で開催しました。

当日のようすをオンラインイベントなどで発信していくうちに、どんどん仲間が増えていきました。

2022年から倉敷美観地区にて車いす街歩きイベントを定期開催

──倉敷美観地区の車いす街歩きイベントは、どのような経緯で始まったのですか。

森上──

オンラインで集った仲間に「次はどこで車いすイベントをしたいですか?」と尋ねたら、倉敷美観地区が候補にあがりました。それからずっと、春と秋の1年に2回車いす街歩きイベントを定期開催しています。

2024年春は、5月26日(日)に車いす街歩きを開催します。

画像提供:チームぶら旅

──いろいろな地域をまわらずに、倉敷美観地区のみで開催している理由を教えてください。

森上──

町って常に変化し続けますよね。工事されて道が変わったり、お店が変わったり。

だから、同じ地域で車いす街歩きイベントを続けることでよりリアルな情報が更新されていきますよね。バリアフリーマップを必要とする人には確実な情報を届けたいと感じているので、同じ地域で定期開催しています。

仲間ができた今、落水洋介&三代達也の講演会を倉敷で開催したい

──最初は森上さん一人が京都に足を延ばして始まった岡山の車いす街歩き。仲間が増えて、心境に変化はありましたか。

森上──

車いす街歩きイベントの回数を重ねるにつれて、私の専門職である理学療法士や最初に参加してくれた車いすユーザーだけでなく、旅行関係者や交通関係者など、多職種の仲間が集まってきました。多職種が集うことで、バリアフリーマップを更新する際の視点も広がりました。

そして、どの仲間もみんな自分の得意分野で「挑戦したい」と前向きな気持ちを持っている人たちばかりなんです。

彼らを見ていて「三代さんを招いて講演会をするなら倉敷美観地区で、今このタイミングにやりたい」と思うようになりました。

最初は、私の仲間に三代さんの話を聞いて元気になってもらえればそれで良いと思っていました。実際、私は今までの人生の中でたくさんの人が周りにいてくれる経験が少なかったんです。

だから、今でもこうやって誰かに支えられているこの状況が夢のような感覚で。

──今回の講演会は三代さんだけでなく、落水洋介さんもいらっしゃるんですね。

森上──

はい。私が講演会をしたいと思ったきっかけは三代さんで、その後も何度か三代さんの講演会に足を運んでいます。

そのなかで、2019年広島県福山市鞆の浦で開催された、三代達也さん・落水洋介さん二人が登壇した講演会が忘れられなくて。

落水さんも、三代さんと同じ車いすユーザーの当事者です。複数の当事者の話を一度に聞ける機会は少ないので、とても貴重な機会でした。

せっかく自分が講演会を主催するなら、事故・病気と異なる背景で車いす生活をしているそれぞれの話を仲間に届けたいと思って二人にお声がけをしました。

落水洋介&三代達也講演会「挑戦を諦めない~5年越しの夢とこれから~」は、オンラインでの参加受付中

──だから「5年越しの夢」は森上さんの夢という意味なんですね。講演会の詳細を教えてください。

森上──

そうなんです。私の夢(笑)

画像提供:森上美穂

講演会は、2024年5月25日(土)午後7時~9時まで倉敷公民館の第2会議室で開催します。

定員は50名で参加費は5,000円なんですけど、仲間たちが宣伝を頑張ってくれたおかげでもう満員になってしまいまして。

現在は、オンラインでの参加者申し込みを受け付けているところです。オンラインも定員は50名ですが参加費は現地よりお手頃な3,000円となっています。

当日は、スマートフォン・パソコンを使用したZoom配信となっておりまして、原則チャット機能によるご質問・ご意見などはお受けしませんが、アーカイブを残す予定でいます。

詳しくは、公式Peatixページを確認してください。

──参加者にどのようなことを感じてもらいたいですか。

森上──

まずは、WheeLog!のバリアフリーマップや車いす街歩きイベントを知ってもらいたいです。環境のバリアフリーには時間やお金がかかりますが、助け合おうとする心のバリアフリーは誰でもすぐに実践できますから。

倉敷をはじめとした岡山が心のバリアフリーであふれてほしいと思います。

これからも「挑戦を作る場」を増やしたい

──講演会を主催するという夢が目前に控えた今、今後の展望を教えてください。

森上──

今一番関心があるのは、eスポーツです。

「eスポーツ(esports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称。

障がいのある人がeスポーツを通して自分らしく・やりがいを持って社会参加する支援「ePARA」に携わりたいです。岡山は自然豊かな観光スポットが多いので、連携できたら良いなという野望を抱いています。

このように、これからも、誰かの挑戦を作るお手伝いをしたいと思っています。

5年前初めて三代さんの講演会に参加したときは、何にも挑戦したことがない一人ぼっちな私でした。

しかし、WheeLog!のバリアフリーマップや車いす街歩きイベント、そして今回の講演会の企画運営を通して私自身もどんどん挑戦したい人になりましたね。

ワクワクすることはたくさんありますが、まずは目の前の講演が成功するよう頑張ります。

おわりに

取材前、森上さんから私に一通のメッセージが届きました。そこには

「正直会話が苦手です。うまく言葉が出ないときはパソコンに文字を打ってもいいですか?」

と書かれていました。

どんな人なんだろうと思い、私も森上さんの活動や今回登壇される落水さんや三代さんの情報を検索して下準備をしつつも、少し不安を抱えながら取材に臨みました。

しかし、実際にお話をしてみると「うまく言葉が出ない」というのは機能的な問題ではなく、彼女自身が自分の発する言葉をとても真剣に選んでいる証拠なのだと伝わってきます。

活動当初の話をしているときはこわばった表情でしたが、参加した車いす街歩きイベントの話題や仲間のことになると、とても愛おし気な表情に変化していくのが印象的でした。

自分の周りの仲間を大切にし、倉敷での車いす街歩きイベントの企画運営を楽しんでいることが心から伝わってくる森上さんの活動。

一人の女性の5年越しの夢を、ぜひみなさんも一緒に聴きに行きませんか。

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