生涯賃金は「1億円」以上の差に!? 就職するなら「大企業」のほうが良いの?「中小企業」のメリットもあわせて解説

生涯賃金は大企業のほうが高くなる可能性が高い

独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表しているユースフル労働統計(図表1)によると、60歳までフルタイムで働き続け、退職金をもらう場合、企業規模が大きいほうが生涯賃金は高くなりやすいという結果が示されました。なお、同統計は厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」などをベースにしています。

学歴別にみると、大企業では高学歴であるほど生涯賃金が高くなりますが、興味深いことに、企業規模が小さいほど、学歴に応じた生涯賃金の差も小さくなっています。例えば、10~99人の規模の場合、中学卒の生涯賃金(237.3)のほうが高校卒の総額(226.6)よりも高くなっていることがわかります。(カッコ内の単位は百万円)

図表1 男性生涯賃金 引退まで、退職金を含む総額(単位:百万円)

ユースフル労働統計2023 21 生涯賃金など生涯に関する指標 を基に筆者作成

さらに、1000人以上の企業における高校卒の生涯賃金(305.6)と100~999人規模の企業での大学卒の生涯賃金(305.1)がほぼ同じであることや、大学卒では1000人以上の企業の生涯賃金(365.2)と10~99人規模の企業の生涯賃金(261.5)の差がおよそ1億円(103.7)であることもわかります。

これらを考慮すると、大学や大学院を卒業した場合、多くの人が大企業へ就職を希望するのは自然の流れといえるかもしれません。

ただし、中小企業のほうがやりがいを感じられる可能性も

昔は「24時間、戦えますか?」というCMが一世を風靡するほど猛烈に働くことも受け入れられていましたが、今は働き方関連の法律が整備され、そのような考え方はブラック企業とみなされます。

しかし、近年ではブラック企業やホワイト企業に加え、「パープル企業」や「ゆるブラック企業」という言葉まで登場しています。これらの中には、ブラック企業ほどの残業やストレスがないなど居心地が悪くないかわりに、スキルが身につかなかったりやりがいが感じられなかったりする企業も含まれています。

先述した通り、賃金では大企業のほうが有利であることが多いですが、中小企業では人数が少ない分、任される仕事の範囲が広く、やりがいを感じられることもあります。さらに、そのような場合にはスキルが身につくことが多いと考えられるので、自分を成長させるためにあえてベンチャー企業などを選ぶ人も増えているようです。

いつまで働くことができるのかも重要

生涯賃金を考えるなら、いつまで働くことができるのかという点も重要です。定年退職は何歳なのか、再雇用はどうなるのかなどは確認しておきましょう。

例えば、働く意欲さえあれば70歳まで継続して雇用してくれる企業であれば、多少年収が低くてもそちらを選ぶ価値が生まれます。年金受給の開始時期を遅らせることで年金受給額を上げることができ、生涯賃金を増やすのと同等の価値になる可能性があるからです。

良い会社の定義は個人の価値観によって異なります。生涯賃金では大企業が有利に見えますが、やりがいや自身の成長など、賃金以外にも見るべきポイントは多いでしょう。

近年、働き方の多様化が急速に進んでいます。今後は大企業志向の就職価値観が変わってくるかもしれません。

出典

独立行政法人 労働政策研究・研修機構 ユースフル労働統計2023 ―労働統計加工指標集―

執筆者:御手洗康之
CFP

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