『花咲舞が黙ってない』第6話 菊地凛子の酔っ払い芝居と「人物の配置を動かす」という作業

18日放送の『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)は第6話。今回も安定しておもしろかったです。

前回、劇団ひとりが半沢直樹役で加わったことで、本格経済ドラマをやりつつライトコメディ感に拍車がかかり、そういえば要潤とか菊地凛子もコメディ上手いよねという話をしましたが、今回はさっそく菊地凛子のよい感じの酔っ払い芝居が見られました。

コメディエンヌは酔わしてなんぼ。振り返りましょう。

■大きな物語にヒラ社員・花咲を導き入れる

今回のドラマは、小説版『花咲舞が黙ってない』(講談社文庫)を下敷きに、足りない話数ではオリジナルストーリーを加えつつ、基本的には原作の順番のまま話が進んでいるようです。

第4話までは、あからさまに悪いことをしている人間がいて、花咲(今田美桜)と相馬(山本耕史)の臨店班コンビがやっつけるというシンプルな1話完結の勧善懲悪ドラマでした。第5話で花咲たちが勤める東京第一銀行と、半沢直樹がいる産業中央銀行の合併話が出て以降、メガバンク同士の合併という大きなテーマに向き合うことになります。

いわば、それまで銀行の外外に向けられていた花咲たちの目線が、銀行の中枢に向けられることになる。お話の規模が大きくなる。

そういうタイミングで、今回のような小さなエピソードを持ってくるあたりが、さすがに手馴れているなぁという印象なんです。

今回は、合併劇において重要な役割を果たすであろう東京第一銀行の本部経営企画部・昇仙峡玲子(菊地)と花咲を出会わせるための回でした。もとより顔見知りではありましたが、合併の話に本格的に入っていく前に、昇仙峡と花咲の関係を近づけておく。そうすることで、ヒラ社員である花咲が大銀行同士の合併という本来与り知らないはずのドラマに参加できるようにしておく。そういう準備の回だったわけです。

そこで、昇仙峡を酔わせて花咲の自宅の近所を歩かせておいて、花咲に連れて帰らせて介抱をさせる。弱みを見せてしまった昇仙峡は、花咲に心を開かざるを得なくなる。

昇仙峡は、花咲と話しながら「ちょっと、似てるのよね」と言います。かつての恋人に似ていると。その恋人・川野(平原テツ)は、昇仙峡いわく「優しくて、不器用で、でも仕事が大好きで、このままじゃこの銀行はダメだ、銀行を変えなきゃってすぐ熱くなって、正義感が強いっていうか、青臭いっていうか」といった人物でした。そして、川野は自ら命を絶ってしまった人物でした。

この日、酔って橋の上で出会うまで昇仙峡は、花咲にとって冷酷な上司でした。しかしその態度の裏で、花咲に危うさを感じていたことも明かされるのでした。

そんなふうに物語の大筋に主人公である花咲を導き入れながら、『花咲舞は黙ってない』はクライマックスに向けて人物の配置を整えていきます。

■配置を動かすということ

連続ドラマを作るというのは、どういうことかと考えるんです。

まず、背景を持った人物たちをそれぞれのポジションに配置していきます。それから、人物それぞれの背景を順序立てて明かしていく。それと、人物同士を邂逅あるいは衝突させて、展開を作りながら配置や関係性を移動させていく。

その作業は、しばしばビリヤードに例えられます。その舞台はポケットのないキャロム台もあれば、6つのポケットを持つポケット台もある。それぞれの台でさまざまなルールと目的を持ったゲームが行われますが、どんなゲームでもプレイヤーは自球を別の球に当てて意図通りに動かすことが目的となります。

自球以外の色や番号はゲームの途中で変化することはありません。それは、ドラマにおける登場人物の背景が変化することがないのと同じです。変化することはないけれど、配置によっては同じ球が味方になったり、邪魔になったりする。

いかに自球と他球を意図通りに動かして、目的にたどり着くか。そのお手前こそが連続ドラマというジャンルの真価だと思うんです。その中でルールに違反したり、しょうもないファウルがあったりすると、見ている側が興ざめしてしまう。

とはいえ、「ルールを守ろう」という意識がなかったり、そもそもルールがなかったりするドラマも世の中には少なくありません。赤だった球が急に白になっていたり、「9」を落とすために「4」が邪魔だったら、台の外から手を伸ばして払い除けてしまったり、そういうことを平気でやるドラマも数多くあるし、それでもおもしろい作品だってある。

『花咲』をはじめとする池井戸潤を原作とした作品は、この「ゲームの目的を決めて、そのルールを守る」という点において、すごくいつも信頼感があるんだよなという話です。

そのうえで、今回でいえば「お言葉を返すようですが」の使い方とか、キノコ好きの女の子の彼氏がキノコヘアーだったりという、本来の目的とは関係のない“魅せるプレイ”にも手抜かりがない。

おもしろいと思うんですけどね、『花咲』。どうなんでしょうね。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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