娘に重度の障害が出る病気がわかり絶望。でも、今はそのときの自分に「あなたの人生は絶対大丈夫!」と言ってあげたい【福山型筋ジストロフィー体験談】

真心さん1歳、ゆとりさん3歳。真心さんはお姉ちゃんのことが大好きです。

加藤真心(まこ)さん(14歳)は、生後9カ月のとき福山型先天性筋ジストロフィー(福山型)と診断されました。母親のさくらさんは、福山型の子どもを育てる親として、本人もきょうだいも親も笑顔でいられるための活動を、さまざまな方面から行っています。さくらさんがめざすこと、多くの人に伝えたいことなどについて聞きました。
全3回のインタビューの3回目です。

「立つことも歩くこともできない」と宣告された二女。進行性の病気で、できなくなることが増えるも・・・「大人な対応」に成長を感じる日々【福山型筋ジストロフィー体験談】

悩んだきょうだい児問題。“いい子じゃない”長女を歓迎することに

真心さんが1歳のときに撮った家族写真。「娘2人の笑顔が私たち夫婦のエネルギーです」とさくらさん。

二女の真心さんが福山型とわかり、生活が激変した加藤さん家族。そのとき長女のゆとりさんは3歳でした。どうしても真心さん中心の生活になってしまうことが気がかりだったと、さくらさんは言います。

「病気がわかってすぐのころ、私の心のほぼ100パーセントを占めていたのは真心の病気のこと。長女ゆとりのことを考える余裕は、正直ありませんでした。そして毎日寝る前になると『今日もゆとりのことをないがしろにしてしまった』と、自己嫌悪に陥る日々でした」(さくらさん)

きょうだいに障害児がいる子どもについて、本やネットで調べ始めたさくらさん。「きょうだい児」という言葉があることを知りました。

「きょうだい児は、自分は両親に心配をかけられないと考えて“いい子”になってしまう、我慢することに慣れてしまう、ということがわかりました。ゆとりはまさにそれでした。
当時の真心は急に入院することもよくあり、そのたび実家でゆとりを見てもらっていたのですが、いつも聞き分けがよく、ばあば・じいじを困らせるような行動は一つもなかったんです。
ゆとりの精神状態がとても気になるけれど、私と一緒にいるときのゆとりは、いつもニコニコご機嫌。心配は取り越し苦労なのかしら、とも思っていたんです」(さくらさん)

ところが、それは間違いだったと、さくらさんが理解する出来事がありました。

「パパと3人でファミリーレストランに行ったときのこと。それまですごく楽しそうにしていたゆとりが、トイレに行きたいというので連れて行ったら、突然『ママがいいーーーーっ!!』って大泣き。ずっと我慢していた気持ちが、せきを切ってあふれたようでした。これがゆとりの本当の気持ちだ・・・と、ゆとりを抱きしめながら私も号泣しました。

真心の入院中などはどうしても寂しい思いをさせてしまうけれど、そんなときはゆとりの心に寄り添って話をしっかり聞こうと決心。“いい子じゃないゆとり”を歓迎することにしたんです。

『一人っ子がよかった』『マコちゃんがいなければよかった』などの“トゲトゲワード”が飛び出すこともありましたが、すべてウエルカム。「そうだよね、寂しかったよね~」と受け入れました。そして、私とゆとりだけ、パパとゆとりだけ、たまには3人でデートというように、ゆとりを主役にした時間を作るようにしたんです。

気持ちが満たされると妹思いのゆとりに戻り、「マコちゃんかわいい!」と、真心にとっても優しく接してくれます。そんな姿を見るたび、『ゆとりと真心が仲よくしている姿を見るのがママの幸せ。2人のママになれて本当によかった』と伝えていました」(さくらさん)

ゆとりさんは現在16歳。今もデートは続いているそうです。

「最近は私のよき相談相手でもあるので、2人の時間を作りたいのはむしろ私のほうかも。思春期まっただ中なので、昔のようにパパにべったりっていうわけにはいきませんが、『おいしものを食べよう』という誘いには弱いから、たまにパパとも2人で出かけていますよ。

病気の子どもを持つ親にとって、きょうだい児との関係はとても重要で、とても繊細なものだと、自分の経験から学びました。きょうだい児と両親の関係をサポートしたいと考え、活動を始めたところです」(さくらさん)

ふくやまっこや、えん下障害のある子どもの家族がホッとできる場所を作る

真心さんが11歳のときの写真。「人と比べず、『マコはマコ』と思って育ててきました」とさくらさん。

さくらさんを含む、ふくやまっこ(福山型の子どもの愛称)の親たちは、2012年に日本筋ジストロフィー協会の分科会として、「ふくやまっこ家族の会」のホームぺージ「ふくやまっこ広場」を立ち上げました。

「子どもが福山型と診断された親が最初にたどり着いて、ホッとできるような場所を作りたかったんです。真心が福山型だとわかった当時、家族会のホームページはなく、ネット検索をすると怖いことが書かれた記事や、怖い写真しか出てきませんでした。最初にネガティブなものに触れると、病気に対してネガティブになってしまいます。

でも、実際のふくやまっこはみんな、笑ったり泣いたり普通に幸せに生きているんです。そのことを一番に知ってほしくて、『ふくやまっこ広場』を作りました。サイトデザインやビジュアルは、親しみやすさとかわいらしさこだわっています。
ホームページにたどり着いたふくやまっこの家族からは、『仲間や先輩と気軽に支え合える場所があることは本当にありがたいです』などの感想をいただいています」(さくらさん)

えん下機能が低下しても、家族と一緒においしい食事を食べてほしい

12歳の真心さん。親子で外食を楽しんでいるところ。

さくらさんは、食事支援(えん下調製食)が必要な子どもがいる親のコミュニティー「スナック都ろ美(とろみ)」の“ママ”としても活動しています。

「2019年8月、東京都府中の特別支援学校で行われた『特別支援学校の特別おもしろ祭』で、えん下機能が低下、未発達な人も家族と一緒においしく食べられる「おもしろい食」を発信する場として作られた『スナック都ろ美』。そこからネットでの交流の場へと発展していきました。

なぜ『スナック』なのかというと、スナックってなんでも気軽に話せるママがいて、帰るときには気持がスッキリしている、そんな場所ですよね。『ふらっと立ち寄って悩み事などを吐き出せる場』になってほしくて、『スナック』としました。コミュニティーを立ち上げたお母さんたちはみんなノリノリで、『ママやりま~す』って。

家族みんなで「おいしい!」って言える食事シーンを応援したいから、企業とのコラボ商品にも取り組んでいます」(さくらさん)

障害がある子どもが自立でき、親離れ・子離れが当たり前になることをめざす

11歳のとき。「側弯症(そくわんしょう) を注意されるようになり、気をつけていこうという自戒の意を込めて『側弯Tシャツ』を作りました」とさくらさん。

いま、さくらさんには大きな目標があると言います。それは「重度の障害がある子の親がHappyな子離れをする文化を当たり前にする」ことです。

「2017年にデンマークへ旅行したとき、24時間ヘルパーをつけて一人暮らしをしている筋ジストロフィー患者の男性の家にうかがいました。その男性のお母さんは、『18歳を過ぎたら子どもが親元を離れて暮らすのは当然のことでしょ?』って言うんです。

それは衝撃的な言葉でした。真心が一人暮らしをするなんて、ほんのちょっとも想像もしたことがなかったから。日本では「重度の障害がある子どもは、成人しても親や家族が面倒を見るのが当たり前」という考えが根強く、私もそういうものだと思っていました。でもデンマークでの経験から、子どもが一生親元で暮らすのは『当たり前』ではないのでは?と、考えるようになりました。

そして、重度の障害がある子どもの親を対象にしたオンラインサロン『LIVE MY LIFE』を2022年に作りました。
サロンメンバー限定のLINEグループで、情報や思いを共有し、月1回オンライン会議も開催。さらに、外部講師を招いてセミナーを開いたり、飲み会で愚痴を言い合ったりと、硬軟取り混ぜて、子離れと自分の人生を生きることを考えています」(さくらさん)

クラウドファンディングで応援を募り、映画づくりも始める

10歳のとき。胃ろう(おなかに小さな穴を作り、栄養を補給する医療ケア)で朝食をとっているところ。

さらに、さくらさんは映画作りにも取り組んでいます。

「『障害がある子が生まれてもだれも絶望しない世の中を実現させる女性のドキュメントドラマを作りたい』と、クラウドファンディングを行ったところ、ありがたいことに目標額を達成できました。
私がスマホで撮った映像をプロに編集してもらい、2026年11月ごろから配信の予定です。

2013年に、真心の病気と共に生きる家族のドキュメンタリー映画を撮りたいというご提案をいただき、『笑顔のローソク』ができました。前回の映画と違うのは、主役が親ということ。障害のある子どもとともに生きながらも、自分らしく生きる姿を描くことで、障害がある子どもが自立し、親離れ・子離れするのが当たり前なのだと、多くの方に知ってもらいたい。そのための映画なんです」(さくらさん)

病気がわかったときの自分に「大丈夫だから!」と言ってあげたい

小浜島でマリンスポーツを楽しんだ9歳のときの写真。

現在さくらさんは、書籍の執筆も行っているそうです。

「真心の病気がわかったころの私は絶望の中にいて、14歳の真心と普通に笑い合っている自分がいるなんて、1ミリも考えられませんでした。そんな私に『あなたの人生は絶対大丈夫!』と言ってあげたい。それが現在進めている本の執筆を始めた理由でした。

でも、障害に関係なく子育ては常に手探りで、1年先、2年先、10年先のことはだれにもわかりません。どの親もみんな不安で、日々をひたすら一生懸命生きていると思うんです。
ゆとりは16歳、真心は14歳。あと数年で成人になります。子育てが最終コーナーに来ているからこそ見えたこと、わかったことなどを、子育て真っ最中の人に伝えたい。ママ・パパへのエールになるような本にできたらいいなと考えています」(さくらさん)

お話・写真提供/加藤さくらさん 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

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福山型先天性筋ジストロフィーという重度の難病とともに生きる真心さんを支えながらも、自分の人生も大切にしているさくらさん。障害のある子もその親も、自分らしく生きていくための活動を続けています。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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