『ミス・ターゲット』上杉柊平は“ピュア”な役もハマる すみれの美しさを優しく照らす宗春

満月の夜に月に向かって財布を振ると、金運がアップする……という言い伝えを信じているすみれ(松本まりか)は、宗春(上杉柊平)に別れを告げた日も、涙を流しながら財布を振っていた。このとき、すみれは初めて自分の気持ちと向き合ったのではないだろうか。

これまでのすみれは、お金さえあればなんでも手に入れることができると思っていた。でもこの夜、満月に向かってお願いしたかったのは、金運のことなんかじゃない。ただ、宗春の隣にいる未来がほしい。たとえお金がなくたって、彼が作った草餅を食べて幸せを感じられたら、それでいい。すみれは、この世界にはお金では買えないものがあると気づいてしまった。

それにしても、宗春はどこまでお人好しなのだろう。『ミス・ターゲット』(ABCテレビ・テレビ朝日系)第5話、失踪した友人の代わりに2000万円の返済を迫られているのに、怒るどころか「事故とかに巻き込まれてなければいいけど……」とその友人の心配をしていた宗春。すみれに「逃げたんですよ!」と言われても、「あいつはそんな奴じゃないです」と動じないのがすごい。友人とここまでの信頼関係を築くことができるのは、お金では買えない宗春の財産だ。

本作を観ていると、上杉柊平がこんなにも“ピュア”な役柄がハマるなんて……と思う。最近の上杉は、『18/40~ふたりなら夢も恋も~』(TBS系)や、『ワンルームエンジェル』(MBS)、『となりのナースエイド』(日本テレビ系)と、とにかく憂いを秘めているような、“闇”の部分にスポットが当たっているようなキャラを演じることが多かった。

そのため、小さな幸せを大切にする、いわゆる“光”を感じながら生きている和菓子職人を演じると発表されたときは、驚いた人もいるのではないだろうか。筆者も、2019年放送のドラマ『チート~詐欺師の皆さん、ご注意ください~』(読売テレビ・日本テレビ系)の印象があまりにも鮮烈だったため、「どちらかと言えば、すみれの一味っぽい」と思ってしまった。

しかし、本作において上杉は、光を放つどころか、その光をまわりにも与えている。どちらかと言えば、夜が似合うイメージがあったのに、朝日のような爽やかさを纏っている宗春を、見事に演じ切っているのだ。

宗春が、光で在り続けてくれているからこそ、すみれのピュアさもどんどん浮き彫りになっていく。彼に影響されて……というよりは、すみれが元から持っている美しい部分を、宗春が優しく照らしているイメージだ。幼いすみれが持っていた、だけど失わざるを得なかった優しさやピュアさをすくい取ってくれるのは、宗春しかいない。彼がすみれに「すみれさんって、嘘つくの下手ですよね」と言ったとき、そう確信した。

すみれが結婚詐欺師を再開したことで、2000万円は用意することができたのだが、2人の恋は前途多難だ。まず、その2000万をくれた轟(八嶋智人)に、すみれと宗春の会話を盗聴されていた。すみれに金を騙し取られたこと、そして愛の言葉がすべて嘘だったことに気づいてしまった轟は、確実に復讐を企ててくるだろう。

そして、第5話には、宗春の父・竜太郎(沢村一樹)が、ミス・ターゲットの正体がすみれだと気づいていそうな描写が多々あった。人を騙す心なんて持っていないピュアな宗春は、すみれが結婚詐欺師であることを知ったとき、どう思うのだろう。もし、宗春が受け入れたとしても、詐欺を恨んでいる竜太郎は、絶対に許さない。となると、やっぱり2人が結ばれることはないのだろうか……。

すみれは、いくら理由があったとしても、人の善意を利用してお金を奪い取ってきたことはたしかだ。ただ、せっかくピュアな心を取り戻してきたのに、“過去”が幸せになるための道を阻んできてしまうのが、あまりにも苦しい。

(文=菜本かな)

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