エムバペとヴィニシウスの比較論争が過熱! スペインメディアは「エムバペにはマドリーで学ぶべきことが2つある」と提言

「ドルトムントとのCL準決勝第2レグにおけるキリアン・エムバペのパフォーマンスは、まったくの期待外れだった。熱量、反骨心、そしてビッグプレーヤー特有の、勝利への異常なまでの執着心にも欠けていた。同じCL準決勝第2レグで、バイエルン相手にリスクを恐れず、何度も何度もヨシュア・キミッヒとの1対1を制し、サンティアゴ・ベルナベウを沸かせたヴィニシウス・ジュニオールとはまるで対照的だった」

これは、スペイン紙『AS』で長く編集長を務めたスペインメディア界の重鎮、アルフレッド・レラーニョ氏の感想だ。

まもなくエムバペのマドリー入団が正式に発表されるとの噂が広まり、現地では歓迎ムードが高まっている。そんな中、CL準決勝でのパフォーマンスがあまりに好対照だったこともあり、かねてからポジションが重なると指摘されているエムバペとヴィニシウスの比較論争が、一段と盛り上がりを増している。
エムバペのパフォーマンスが、大会を通して低調だったというわけでは決してない。実際、スペインメディア『Relevo』によれば、エムバペはシュート数(48本)、相手ペナルティーエリア内でのボールタッチ数(136回)のいずれもが、参加32チームの全選手の中でトップの数値を叩き出しているという。リオネル・メッシとネイマールが退団したパリ・サンジェルマンの攻撃の中心に君臨していたのは、間違いなく彼だった。

しかし決勝トーナメント以降に限定すると、レアル・ソシエダと対戦したラウンド・オブ16の第2レグを除けば、全体的にインパクトが希薄だった。準々決勝のバルセロナ戦も、エムバペは第2レグで2得点を決めてはいるが、相手守備陣に封じ込まれた印象のほうが強い。

一方のヴィニシウスは、バイエルンとの準決勝第1レグで、トニ・クロースのパスに完璧に動きをシンクロさせ、DFラインの裏に抜け出して先制点を挙げると、第2レグでも左サイドを蹂躙し、鮮やかな逆転劇への突破口を開いてマドリーの決勝進出に貢献した。 カルロ・アンチェロッティ監督は、完全にヴィニシウスのドリブル突破に比重を置いたゲームプランを組んでいた。まさにエースの証だ。マドリーに入団した当初はボールロストを頻発し、シュート技術も目を覆いたくなるようなレベルだったが、それでも彼はチャレンジしつづけた。そうしたひたむきな姿勢が、プレーの幅を広げる原動力となったのは衆目の一致するところだ。

レラーニョ氏が、エムバペに求めている姿勢も同じだ。このフランス人はともすればクールな印象が先行しがちだが、マドリディスタ(マドリーのファン)はいくら素晴らしいプレーを見せても、そこにハートがこもっていなければ、なかなか受け入れてくれないことがある。

現地で指摘されているのは、入団確実と報じられていたマドリーを蹴って突如パリSG残留を表明した2年前との、エムバペの立ち位置の違いだ。この2年の間に、マドリーでは世代交代が進み、ヴィニシウスがエース格に成長し、ジュード・ベリンガムという攻守両面で多大な貢献を見せる新たなスターが加わった。

現在のマドリーは、エムバペをVIP待遇で迎えるチームではもはやない。エムバペはその他の選手と同様に、プレーと姿勢で評価を勝ち取らなければならない。ただ、改めて言うまでもなくそのポテンシャルは別格だ。レラーニョ氏はこう語る。

「エムバペが加入すれば、マドリーの前線は大幅に戦力値を増すだろう。しかし彼には、マドリーで学ぶべきことが2つある。それは謙虚さと諦めない心だ」

エムバペが覚悟を持ってマドリーでの戦いに臨めば、フットボール史に残る強力攻撃陣の完成も夢ではないだろう。やり繰り上手のアンチェロッティ監督は新たな“怪物”を得て、どのように前線を再構築するのか。期待は膨らむばかりだ。

文●下村正幸

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