バンダイ子会社の社員、ガールズバーで遊興等のため4億円を横領か…中高年に罠

バンダイナムコホールディングスが入居するビル(「Wikipedia」より/Ogiyoshisan)

バンダイナムコホールディングス(HD)子会社の50代の男性社員(すでに懲戒解雇)が、ガールズバーでの飲食代やプレゼントなどの資金を確保するために、同社が所有する携帯電話を約500台、不正に売却して5400万円を着服した業務上横領の容疑で逮捕された。男性は同様の手段で計4億円を得ていた疑いがあるというが、中高年の男性がこうした業態の店舗に通うために借金を重ねてしまうケースは少なくないという。もし自身や家族、知人がそのような“ドツボ”にハマって借金を抱えてしまった場合、どのように対処すればよいのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

「鉄拳」「太鼓の達人」「テイルズ オブ アライズ」などのゲーム、「プリキュア」「それいけ! アンパンマン」「たまごっち」関連の玩具、カプセルトイ「ガシャポン」、「ガンプラ」などのプラモデルなど娯楽関連の商品を幅広く扱う大手メーカー、バンダイナムコHD。グループ連結従業員数は2万人以上、売上高は約1兆円、当期純利益は約1000億円(2024年3月期)を誇る総合エンターテインメント企業だ。

そんな同グループの中核企業であるバンダイナムコエンターテインメントの元社員が14日、業務上横領容疑で逮捕された。男性は備品の調達・管理業務を担当しており、15年から22年までの間にスマートフォンなどのモバイル端末4400台以上を無断で業者に売却し、約4億円を不正に得ていた疑いがあるという。

「男性は業務用端末を含む備品の管理業務に就いていたということなので、自分で外部に売り払った端末を社内の管理データ上はどこかの部署で使用中ということにして登録するということができた。数十台程度であれば『所在がわからなくなった』『紛失した』というかたちで処理してバレなかったかもしれないが、さすがに数千台ともなれば社内で不審だとして気づかれる。基本的に企業というものは「社員は違法な行為はしない」という性善説で成り立っているので、一部の問題ある社員が不正をはたらくというケースは大企業であるほどゼロにはできない」(大手メーカー管理職)

40~50代の男性が陥る罠

あくまで仮定の話として、もし2015年から22年までの7年間、前述のような形態の飲食店で4億円すべてを使っていたとすれば、毎日店に通ったとして1日あたり15~16万円程度を支出していた計算になる。

「高級クラブと比べるとリーズナブルなこうした店で毎日これだけの金額を使うというのは結構難しい。飲み放題付きで一人1時間5000円~1万円ほどの店が多く、一緒に行った複数人の知人や店員のドリンク代などの会計も負担して、数時間利用してやっとこれくらいの金額になる。

店員もどれだけ客から指名を受けるかで報酬が変わってくるので、客にLINEや電話で積極的に営業をかけるわけだが、接客時に架空の苦労話をして同情を引いたり、恋愛感情を匂わせたりとあの手この手で自分の固定客にしようと努力する。なので遊び慣れていない男性客ほどカモになりやすく危険だ」(飲食店経営者)

なぜバンダイナムコの元社員が店舗に足しげく通い、高額な支出を続けたのかは不明だが、40~50代の男性が同様の罠に陥ってしまうケースは少なくないという。

「若手の頃からずっと激務が続き、仕事上の会食以外では飲みに行くようなことは全くといっていいほどなかった人が、40代で課長になった途端に毎日のように女性がいる店に通うようになり、明らかに仕事のパフォーマンスが落ちていた。せっかく大企業の課長になれたのに、もったいないと感じた」(大手メーカー管理職)

「50代でもヒラだった社員が女性店員に入れあげてしまい借金までつくった。消費者金融会社から会社にまで返済催促の電話がかかってくるようになり、部長の温情で借金を返せる程度の退職金をもらって会社を辞めた。あと数年会社に残っていれば、それなりの額の退職金を得てセカンドライフを送れていただろうに」(IT企業管理職)

「破産事件及び個人再生事件記録調査」(日本弁護士連合会)によれば、破産に至った理由のうち「浪費・遊興費」は概ね10%ほどであり、この項目には買い物や飲食、旅行なども含まれており、クラブなどでの遊興が原因というケースは、目立って多いわけではないものの一定数あるというのが現状といえる。

債務整理の方法

では、こうした飲食店の高頻度な利用のために借金が膨らんで返済が困難になってしまった場合、どのような対処をすればよいのだろうか。ベリーベスト法律事務所の菅谷良平弁護士はいう。

「債務整理の手段として比較的軽いのが任意整理で、比較的収入が安定していて負債が大きくない場合に使われます。弁護士が借り入れ先の業者と返済条件について交渉し、利息分の支払いをなくして返済額を元本のみにしたり、支払い期間を長期にして毎月の支払額を低くおさえたりします。もっとも、返済期間が4~5年になるケースも珍しくなく、債務者は長期間にわたり節制と倹約に努めなければならないため、それなりに苦しい生活となります」(同)

負債が大きいなどの理由で元本の支払いも難しい場合は、より重い手続きである自己破産という選択肢を検討することになる。

「元本の支払いも免除されて借金がなくなる一方、原則として保有する資産(多くの裁判所の基準では20万円以上の評価額がつく資産)を手放して返済に充てる必要があります。裁判所に申し立てをして認めてもらう必要があり、免責不許可事由が定められているため、負債の主たる要因の内容によっては免責が許可されないこともあります。

借金がなくなるというメリットがある一方、保有する資産(多くの裁判所の基準では20万円以上の評価額がつく資産)は処分しなければなりません。公平・平等の観点から全ての借入先に対して返済を止めるため、自動車ローンを組んでいる場合は車を引き上げられてしまいますし、奨学金の返済も止まるので保証人である親に返済義務が生じたりします。

ちなみに、免責不許可事由によって自己破産が許可されなくても、裁量免責というものが認められる場合もあります。生活態度や反省状況、家計状況などから債務者の立ち直りが可能と裁判所によって判断された場合のみ、許可されます」(同)

この任意整理と自己破産が使えない場合、個人再生という手段が残されている。

「負債のうち一定の割合を減額し、たとえば500万円の借金のうち400万円が免責されて100万円だけ返済するというものです。裁判所の許可が必要ですが、負債ができた原因、つまり借金の使い道は問われません」(同)

もっとも、これらの債務整理を行うデメリットも大きい。

「多くの金融機関が情報を共有している信用情報機関に事故情報として登録されるため、一度、任意整理や自己破産をすると各種ローンが利用できなくなったり、クレジットカードに加入できなくなったりします」(同)

(文=Business Journal編集部、協力=菅谷良平弁護士/ベリーベスト法律事務所)

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