【虎に翼】“契約結婚”に近い結婚生活のスタートは、朝ドラの描いてきた結婚観を大きく変えるものだろう

「虎に翼」第35回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

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伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の第7週「女の心は猫の目?」が放送された。

試験に合格し、雲野(塚地武雅)の事務所に入り実務を学ぶ寅子。その後、念願の弁護士資格を取得し、いよいよ法廷へ……と思いきや、ここでやはり性差の壁が大きく立ちはだかる。

「女? 勘弁してくれ」「すみません……男性の方に弁護をお願いしたいのですが」依頼人に次々断られる寅子。実際、依頼人のほとんどは、自身の悩みやトラブルの解決のためにやってくるわけで、できれば優秀なベテランにお願いしたいと思うのはある程度仕方のないこと。そこに加えて「女性だから」という価値観が当たり前のものとして存在する時代(加えて未婚であることもマイナス基準とされるという)……雲野ですら「まあ、結婚前のご婦人に頼みたいのは、弁護よりお酌だろうな」と茶化して逃げる始末である。

以前、穂高教授(小林薫)に助け船を出した件からもわかるように、寅子の能力は非常に高い。しかし、価値観、先入観がその能力を大きく邪魔する。現代も決して男女平等と言えない中での門前払いの連続には苛立ちをついおぼえてしまう。

恋愛・結婚も大きな軸として描かれた週でもあった。

学生時代のハイキングの一件以降、花岡(岩田剛典)から「誰といても何をしていても、猪爪くんのことが頭に浮かぶ」「君のことばかり考えてしまう」と言われ、その後も何度も公園で昼食を一緒にとったり、司法修習後の試験に合格し裁判官となったお祝いを「できれば二人で」と電話で誘われたり。いわゆる恋愛感情とは違っていても、寅子にも花岡への何らかの好意はうっすらあるようには見えた。

しかし、佐賀に赴任する花岡は、寅子との関係を深めることはなかった。

ある日、婚約者を連れて寅子たちの前に現れた花岡。もともと優秀な弁護士である父と兄の存在がプレッシャーとなっていた花岡は、「家」に縛られる存在として結婚を選択した。婚約をある意味一方的につきつけた花岡を、轟(戸塚純貴)とよね(土居志央梨)が呼びつけ責め立てる。花岡は、ようやく弁護士になるという夢を叶えた寅子を、結婚して赴任先に連れていけないと言う。それは、恋愛感情以上に学生時代から寅子に抱くリスペクトのもと悩んだ末に出した花岡なりの誠意だっただろう。しかし、そこに迷いが今も見え隠れするところがつらい。

「虎に翼」第32回より(C)NHK

花岡の婚約の件で、いよいよ現状にとどめをさされた感のある寅子は、「私にお見合い相手を探していただけないでしょうか」と、両親に頭を下げてお願いする。結婚しているかどうかが信頼度に関わるからだと理由を述べる。両親は、弁護士をやめて結婚するのだと勘違いし、寅子はそれに対して「はて?」。時代的に「結婚=仕事を諦める」と当たり前に思われていたのだろう。

しかし、寅子は両親に「心底くだらない」と前置きしながら結婚を考えた理由を語る。結婚しているかどうか、それが信頼度に関わる社会なのだということを痛感した。寅子に先んじて女性弁護士として初めて法廷に立った先輩の久保田(小林涼子)が結婚し妊娠していたことも、その思いを強める理由のひとつだ。

「立派な弁護士になるために、社会的信頼度、地位をあげる手段として、私は結婚がしたいのです」
“手段”と言い切った。これがこの時点での寅子の結婚観である。

とはいえ、25歳を過ぎた寅子のお見合い相手はなかなか見つからないうえ、貴重なお相手にも断られ続ける。
「これがお母さんが言っていた地獄か……」

「虎に翼」第34回より(C)NHK

法廷に立てない、“手段”としての結婚もできない。寅子もさすがに折れそうになる。そこに現れたのが、夢あきらめ猪爪家を出て行った優三(仲野太賀)である。
「僕じゃダメかな」

こう切り出す優三。プロポーズである。優三からすれば、渾身の思いだったろう。しかし寅子は、「この手があったか」と、目から鱗が落ちたかのような受け取り方をする。昔から家族同然によく知る優三ならこれ以上いい「パートナー」はないということだ。花岡との関係もそうだが、少なくとも寅子は現時点では、そもそも異性への恋愛感情というものがあるのかどうかわからない。優三は寅子にとって恋愛対象というよりも、「家族」に近いのだろう。“手段”のためのうってつけの存在なのだ。両親に結婚を報告したとき、母のはる(石田ゆり子)も思わず「その手があったか」とつぶやいてしまう。

「社会的地位を得るための、結婚」

そうきっぱり言い、優三との結婚の意思を報告する。朝ドラ受けでも「逃げ恥」とたとえられていたように、寅子と雄三の結婚、少なくともこの時点での寅子にとっては完全に手段、まさにその「逃げるは恥だが役に立つ」や「王様に捧ぐ薬指」など近年のドラマでよく見られる「契約結婚」に近い結婚生活がスタートした。

朝ドラの世界で、多くの作品で結婚はストーリー上でのビッグイベント、そこにいたるまでのヒロインと相手役とのロマンスも、重要な要素として描かれることが多かった。しかし、親の勧めに従ったわけでもなく、家のしがらみでもなく、本人の明確な意思ながら恋愛感情を伴わない結婚は、朝ドラの描いてきた結婚観を大きく変えるものだろう。

こうして、優三の淡い思いはあるものの、“手段”としての結婚生活はスタートし、そのおかげで信頼を本当に勝ち取ったかどうかはともかく、寅子は初の弁護士仕事を獲得した。

本格的な法曹界デビュー、そして優三との結婚。並行してじわじわと日本を包んでいく様子が放送や新聞記事などで少しずつ描かれてきた戦局の悪化、太平洋戦争の開戦。つかんだ幸せは、どう展開していくのかますます目が離せない次週である。

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