パリ五輪体操男子金メダル奪還へのシナリオ 強敵は中国、最終演技・橋本の鉄棒着地で「栄光の架橋」再現へ

パリ五輪の体操男子団体メンバー5人が決まった【写真:中戸川知世】

最終選考会終えて団体メンバー5人が決定、水鳥強化本部長が描く「栄光の架橋」までのプラン

パリ五輪の体操男子団体メンバー5人が19日、決まった。すでに内定していた橋本大輝(22=セントラルスポーツ)に、この日まで最終選考会として群馬・高崎アリーナで行われたNHK杯で初優勝した岡慎之助(20=徳洲会)と2位の萱和真(27=セントラルスポーツ)。さらに、杉野正尭(25=徳洲会)と谷川航(27=セントラルスポーツ)を「チーム貢献選手」として選出。団体総合で2大会ぶりの金メダル奪還へ、水鳥寿思強化本部長は「栄光の架け橋」までのシナリオを披露した。

代表メンバーがそろって口にしたのは「団体での金メダル」だった。前回の東京大会では金メダルのロシア・オリンピック委員会(ROC)に0.103点及ばず銀。その悔しさを知る橋本、萱、谷川はもちろん、岡も杉野も最大の目標に「団体金メダル」を掲げた。

高校1年の時に社会人クラブの徳洲会入りした岡は、右ひざ前十字じん帯の断裂という大けがを乗り越えての代表入り。腰痛の影響もあってあん馬で落下したが、痛みをおしてパリ五輪キップを獲得。「やるしかないと思っていた。パリではまず団体で金をとり、個人でも狙いたい」と話した。

「失敗しない男」萱も安定した演技で代表入り。「東京の銀メダルだけはテレビの脇に置いてある」と、毎日悔しさを思い返していることを明かした。体操を始めたのは04年アテネ五輪の団体金を見たのがきっかけ。「リベンジというよりも、団体の金は子どものころからの夢。それを実現したい」と力を込めて言った。

あん馬と鉄棒などの高得点で「貢献枠」で代表入りした杉野は、水鳥本部長から「ようこそ、日本代表へ」と声をかけられて涙した。毎年のようにあと一歩で代表を逃し続けてきたが「去年からあん馬と鉄棒に絞って強化してきた。まずは団体優勝に貢献したい」と自身の役割を意識しながら話した。

谷川は跳馬とつり輪で高得点を出した。「跳馬(の着地)で立ったら(代表に)入れる、こけたら出られないと思った。立った時はウルっときた」と2大会連続代表入りを喜んだ。「東京の悔しさはある。また4年、同じ思いはしたくない」と団体戦に照準を合わせて言った。

右手中指の負傷で今大会を欠場した橋本も、ともに戦うことが決まった4人と一緒にステージで記念撮影。「それほどひどくないし、大丈夫だから試合を見に来ている」と負傷の不安を否定し「もう1度、体を作るいいチャンス。できることをやっていきたい」とエースの自覚で話した。

ライバルは中国、予選トップ通過で最終種目最終演技者のエース橋本が鉄棒の着地決めれば…

得意種目も体操のスタイルも、それぞれ異なる5人。萱は「いろいろな色の選手がいるので、楽しみ」と多彩な顔ぶれを喜んだ。水鳥強化本部長も「それぞれが補える、バランスのいいチーム。5人でシミュレーションしても、かなり高い得点がとれる」と満足そうに言った。

東京大会金のROCが不在で、ライバルになるのは中国。「いい勝負になるはず」と話し、金メダル獲得までのプランも明かした。「予選1位で勢いつけるともに、審判に日本の演技を印象付けたい」。予選1位なら決勝の最初は床運動、あん馬、つり輪と続き「中国に離されるだろうが、後半は日本が強い」。跳馬、平行棒。「たとえ2位でも差を詰めていれば、鉄棒で逆転できる」。

前回大会を知る3人に初出場2人を加えて臨むパリ五輪。同本部長は「リオに似ている」と期待した。内村航平ら12年ロンドン大会で銀メダルに終わった4人に初出場の白井健三を加えて獲得した金メダル。「あの時も悔しさを知る選手がチームを引っ張った」と、8年前を振り返って言った。

もっともリオの金メダルは予選が4位だったため床運動が最終種目。萱が「体操をやろうと思ったきっかけ」と話し、岡が「映像を見て五輪で一番印象に残っているシーン」と言った04年アテネ大会の団体金メダルを鉄棒で決めたのとは少し違った。今回、思惑通りに予選をトップで通過し、最終種目最終演技者でエース橋本が鉄棒の着地を決めれば、20年ぶりの「栄光の架け橋」が再現される。

荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima

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