10年後の日本は「事故物件」だらけ!?…日本人を待ち受ける「多死社会」という避けられない未来【司法書士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

超高齢社会の日本はもうすぐ、高齢者の増加によって死亡者数が増え、人口が減少していく「多死社会」に突入します。そのようななか、賃貸業を営む家主や不動産会社が頭を抱えている「深刻な問題」についてみていきましょう。『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)の著者で司法書士の太田垣章子氏が、家主や不動産会社の具体的な声とともに詳しく解説します。

孤独死によって「事故物件化」する賃貸が続出!?

いま賃貸物件に住んでいる中高年も10年、20年と経てば高齢者になり、亡くなる可能性が高くなります。孤独死もあるでしょう。

基本的に、事故物件となるのは自殺や他殺が原因であり、病気等で亡くなった場合は含まれません。ところが病死であったとしても、発見が遅れてしまって特殊清掃が必要になったりすると事故物件になってしまいます。そうなると自殺や他殺のように告知義務も発生し、次の入居者を確保できにくくなるという問題が生じてきます。孤独死が原因で事故物件になった場合の家主や不動産会社の悩みを紹介します。

・孤独死が発生したものの身寄りがなく、ご遺体の対処、滞納された賃料、リフォーム費用などがすべてこちらの負担となった。賃料を下げても風評被害でその後の入居者を見つけることができなかった。不動産の売却依頼を受けたが、やはり売れず、苦労した

・浴室で孤独死が発生。死亡翌日に発見され、病死だったことから本来次の入居者への告知義務はないが、入居後に知ることになる可能性が高いため、告知をしている。浴槽の交換をして家賃も下げたが、入居希望がなく、ずっと空室のまま。このようなことがあると、高齢者への紹介には二の足を踏んでしまう

・木造2階建てアパートで高齢女性が浴室で孤独死。原因は心不全。ご子息が母親と連絡が取れないことを心配して入室確認し、死亡が発覚した。死後2週間ほど経っていた。残置物は処理業者に依頼して処分。しかし腐敗臭は残ったため、賃貸物件として貸すことが不可能に。他の部屋の入居者も徐々に退去。

その後、家主の希望もあって募集はせず、建物は解体して更地に。もともと家主は貸さないと言っていたにもかかわらず、死亡した高齢女性がどうしても借りたいと申し出て貸した経緯があったため、家主は今後中高年の単身者には貸さない方針を明確にした

もうすぐ「多死社会」を迎える日本…求められる「認識の変化」

病死も、新しい入居者から「前もって知っていたら借りなかったのに」というクレームが来ないよう、家主側は告知しています。しかし、告知したらしたで、次の入居者を確保できなかったり、賃料を下げざるを得なかったりして資産価値低下につながっています。

結局のところ、入居者が孤独死すると家主側の負担が非常に大きくなります。そのため、入居者確保が少々困難になったとしても、事故物件化を防ぐために高齢者に貸すのを避けるしか方法がないのです。

しかし、このような現状は家主にとっても、賃貸を借りたい高齢者にとっても不幸な事態です。人は生きている限り、どこかに住まなければなりませんし、生きている人は誰しも必ずいつか死を迎えます。人が亡くなった場所をすべて事故物件化していたら、この日本に高齢者の住む場所はどこにもなくなってしまいます。

高齢者の増加によって死亡者数が増え、人口が減少していく「多死社会」もすぐそこまで来ています。今後は『死』に対する認識を、日本人は変えていく必要があると私は考えています。

太田垣 章子
司法書士

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