上下階セット賃貸好評 UR、敬遠の上層階活用 茨城・取手の井野団地

SF付住宅に入居する平井亨季さん。5階部分はアトリエやギャラリーとして活用している=取手市井野団地

■アトリエやスタジオも

都市再生機構(UR)が提供する茨城県取手市の取手井野団地で、上階の4、5階をセットで貸し出す賃貸住戸が好評だ。今年から始まった取り組みで、当初3戸の募集を6戸に増やしたが全て満室。高度経済成長期に全国で建設された中層団地はエレベーターがなく、上層階が敬遠される傾向にあった。団地の新たな活用策として広まるか注目される。

同団地は、当時の日本住宅公団が県内で初めて建設。昭和40年代の高度経済成長期に首都圏のベッドタウンとして人口が増加した同市の住宅開発を象徴する存在。1969年に入居が始まり、4~5階の棟で計2160戸ある。

URと市によると、取手駅から徒歩20分圏内の好立地で、ピーク時の76年には都内通勤の子育て世帯を中心に2145世帯が暮らした。しかし、子どもが独立して高齢の親世代が残るようになり、団地内の高齢化率は今年4月現在で約51%。階段の上り下りが負担となる4~5階の空室が目立っていた。

このため、URは4、5階をセットにした賃貸制度「サービスフィールド(SF)付住宅」を開始。4階は住居部分、共有階段を上った5階はSFと銘打ち、仕切りを取って広々とした部屋に改修した。2室を別々に借りると家賃は月8万円台だが、SF付住宅は5万円台。下の階は自室のため、騒音トラブルも起きにくい。担当者は取り組みの狙いについて「敬遠されやすい4、5階に入ってもらうために付加価値が必要だった」と話した。

SF付住宅に先行入居した美術家の平井亨季(こうき)さん(27)は5階部分をアトリエやスタジオとして使用。映像を見たり、知人作品を展示したりして活用しているという。

東京芸術大取手キャンパスで学んだ平井さんは「SFはまだまだ可能性がある」と満足そうな表情。団地内の交流拠点でスタッフとしても働いており、住民との交流も意欲的。「アートを通してイベントもできれば」と話す。

SF付住宅は、今年1月から募集した3戸がすぐに埋まり、追加した3戸も満室に(4月末現在)。URは本年度内にさらに数戸増やしたい考えだ。こうした動きを同市も歓迎。「高齢化が進む中、若い世代の定住促進につながる」と期待を寄せる。

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