【社説】能登の災害関連死 教訓生かした備え急ぎたい

 石川県の能登半島地震で、県と市町が災害関連死の合同審査を始めた。まず珠洲市、輪島市、能登町の計30人を認定すると決め、直接死の230人と合わせて犠牲者が260人に上る見通しとなった。

 関連死は長引く避難生活や環境変化のストレスで体調が悪化したことによるものだ。救えたはずの命と言える。元日の発災当初から懸念されていただけに痛恨だ。

 被災地の能登は、過疎高齢化が進む地域である。道路寸断によって物資やマンパワー不足で支援が遅れ、加えて断水や停電が長引いた。体力のないお年寄りが冷え込む中で避難生活を強いられた。

 既に5市町の計100人以上の遺族が認定申請をしている。大きな被害が出た珠洲市の申請数は入っておらず、さらに多いとみられる。過去の災害に比べて想定以上という専門家の指摘もあり、深刻な事態と認識すべきだ。

 これ以上、増やさない努力が欠かせない。現在、避難者は2千人を超え、広域の2次避難も1800人近い。長引く避難生活の過労に加え、復旧作業や暮らしの再建でストレスがかかるのは必至だ。

 時間がたってからの関連死も少なくない。避難所や車内泊の体勢を変えづらい環境で血栓ができ、「エコノミークラス症候群」が発症するケース、避難先を転々とした高齢者が亡くなるケースがある。住み慣れた地域を離れ、なりわいやコミュニティーを失った人が孤独に陥ることもある。公的な支援や、周りの気付きを行き届かせたい。

 関連死は阪神大震災で知られるようになり、東日本大震災など避難者数に応じて増える傾向にある。2016年の熊本地震では、直接死の4倍を超す221人に上った。

 石川県は今回、命にかかわるとして早くから2次避難を強く呼びかけた。だが関連死申請数の多さをみると、教訓が生かされたとは言い難い。

 申請した輪島市の遺族男性は、極寒の中、農業用倉庫で避難生活をしていた70代の妻の体調が急変したと訴えた。県は認定を決めた人について「避難生活で心理的、肉体的な負担がかかり亡くなったケースがある」と説明するが、詳細は明らかにしていない。

 避難先の環境はどうだったのか、支援をどの程度受けられていたか。遺族の意向を確認し、個人情報を守りつつ、できるだけ詳細を公表すべきだ。速やかに社会で共有し、関連死を防ぐ対策を練り直す必要がある。

 現状のままでは、関連死が繰り返される可能性が高い。例えば避難所の劣悪なトイレ環境や雑魚寝はリスクを高めると指摘されてきたのに、改善のスピードが遅過ぎる。今回のように命を優先してほしいと広域避難を呼びかけてもコミュニティーを守る手だてがなければ実効性がない。

 能登半島のみならず、災害で孤立しかねない中山間地域は多く、人口減少で過疎高齢化は進む。能登半島の教訓は人ごとではない。関連死の多発を防げなかったことを重く捉え、自治体や国は本腰を入れて備えを急ぐ必要がある。

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