人口950人、小さな村から世界の音を 北海道・西興部のギター工場

「オホーツク楽器工業」でエレキギターのボディーを研磨する職人=北海道西興部村(2024年4月)

 人口わずか950人ほどの北海道西興部(にしおこっぺ)村に、世界的ブランドのギターのボディーを製造する「オホーツク楽器工業」がある。プロを含め国内外に愛用者が多い「フジゲン」(長野県松本市)のエレキギターの一部が、ここで作られたボディーを使う。工場長の向井地紀幸(むかいち・のりゆき)さん(46)は「僕たちが小さな村で作ったギターが、世界中で鳴らされているんです」とうれしそうに話す。(共同通信=阿部倫人)

 オホーツク楽器工業は1990年ごろ、不況で倒産した村の木工所を引き継ぐ形で第三セクターとして設立された。当初は別の会社のギターを扱ったが、現在はフジゲンのエレキギターのボディーだけを職人40人が作っている。

 主な材料は広葉樹のシナノキ。へこみがあれば水を吸わせると元通りになるほど、軟らかく加工しやすい素材だという。3分の1が道内産で、残りは米国などから輸入している。木材から削り出した板を貼り合わせてギターの形を作り、研磨と塗装を経て完成するが、ほとんどの工程が手作業で、細かい傷も見逃さない。

 中でも高度な技術が必要なのが塗装だ。厚く塗るのは簡単だが、見た目のスタイリッシュさが失われてしまう。特に難しい、色のグラデーションを付けるような塗装を任されるのは工場内にたった2人。向井地さんは「ギターを買う時は、やっぱりかっこいいかどうかが一番なので、こだわっている」と語る。

 厳しい現実にも直面している。周辺自治体を含めて人口減少が進む中、従業員の確保や育成が難しく、木材輸入には円安や燃料費の高騰がのしかかる。

 「経営は正直大変」と吐露するが、「作ったギターの行き先を考えると夢がある」。2021年からは自給自足を目指してシナノキの植樹も始めた。向井地さんは「メード・イン・ジャパンの品質への信頼は絶対に裏切らない」と強調した。

「オホーツク楽器工業」でエレキギターのボディーに塗装をする職人=北海道西興部村(2024年4月)

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