認知症の親が自傷行為を繰り返す…対処法はあるのか?【介護の不安は解消できる】

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【介護の不安は解消できる】

認知症になると、自分の顔や体を引っかいたり、ベッドの柵に手を打ち付けるといった「自傷行為」が見られるケースがあります。認知症には「こだわりの法則」があり、ひとつの事柄に集中するとそこから抜け出せず、周囲が説明や説得を試みたり否定したりするほど、こだわりが強まるのが特徴です。自傷行為は、こだわりの法則が現れる認知症初期~中期の時期に見られやすい。

ある80代の男性は、3年前に認知症を発症し、自宅で妻と息子の3人で暮らしていました。訪問診療に伺うと、壁やドア、ベッドの柵など、至るところに頭を強く打ち付けています。そのため頭にはいくつものキズができ、枕カバーやシーツには血が付着しています。認知症が進行すると痛みに鈍感になるとされ、「痛いから自傷行為をやめる」といった判断が難しい。ですが、目に見えるキズや出血があれば、家族の心配は増すばかりです。

そういった方に対して大切なのが「先手を打つ」ことです。普段、頭を打ち付けやすい壁やドアに保護マットを張ったり、ベッド柵にはカバーをかけ、頭を打ち付けてもキズができないように工夫しましょう。ベッドの形状によってはカバーが合わないケースもあるので、その際は毛布や座布団で代用してください。自傷行為そのものをやめさせられなくても、行為によって起こる問題を軽くすることはできるのです。

とりわけ注意したいのが、陰部のかきむしりです。こだわりが性器に向くと、ベッドなどでじっとしていると気になっていじるようになります。一度キズができると気になり、さらに触ってキズが悪化するといった悪循環に陥りやすい。傷口から感染を起こすと、性器が腫れたり出血が止まらなくなる恐れがあります。陰部に手が届かないよう、ズボンの腰ひもはしっかりと固く結び、ほどきにくくしましょう。

それでもかきむしる行為が続くのであれば、つなぎのような介護寝間着を着用してもらうのもお勧めです。介護寝間着は介護現場において拘束に値するとされていますが、厚労省が高齢者ケアに携わる人に向けて作成した「身体拘束ゼロへの手引き」には、物理的な予防策を講じても効果が見られない場合、本人の体を守ったり安全を確保するためにやむを得ない場合には一時的に使用することが認められています。

自傷行為で困ったことがあればかかりつけ医に相談し、その人に合った対策を一緒に考えるといいでしょう。

▽杉山孝博(すぎやま・たかひろ)1973年東京大学医学部卒業後、東大医学部付属病院で内科研修。75年に川崎幸病院に内科医として勤務し、87年からは同院で副院長を務める。98年から川崎幸病院の外来部門を独立させた川崎幸クリニックが設立され、現在まで院長を務める。81年から公益社団法人「認知症の人と家族の会」に参加し、現在は神奈川県支部の代表を務める。

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