弟のETCカードを借りて実刑判決に「重すぎない?」の声 弁護士は「暴力団排除の流れに沿った判決」

写真はイメージ(MITSU / PIXTA)

家族名義のETCカードを不正に利用したとして 、大阪地裁が5月8日、電子計算機使用詐欺の罪で暴力団組長に懲役10カ月の実刑判決を下した。

朝日新聞によると、暴力団組長(67)ら3人が共謀して2022年に、同乗していない弟のETCカードを使って大阪市内の有料道路を2回走り、高速道路会社をだまして計1400円の割引を受けた。

暴力団組長には同種の前科を考慮して懲役10カ月の実刑判決、車を運転した組員(42)ら残る2人には懲役10カ月、執行猶予3年の有罪判決が下されたという。

このニュースを受け、ネット上には「こんなんで実刑か」「刑が重すぎる」などと判決に驚く声が次々と投稿された。

今回の判決をどう受け止めればいいのか。反社会的勢力対策や暴力団からの離脱支援に取り組む齋藤理英弁護士に聞いた。

●暴力団排除の流れを受けた判決

ーーなぜこのような判決になったのか?

判決文を読んでいないので詳しい分析はできませんが、暴力団組長に実刑判決を下した裁判所の判断に違和感はありません。

2007年に犯罪対策閣僚会議が企業取引から反社会的勢力との関係遮断に取り組むための指針を示し、暴力団などの反社会的勢力との取引を行わないことを契約社会に求めました。

それに基づいて、金融庁の監督指針が改定され、金融機関が暴力団組員と取引をしないと決めたり、不動産業界が契約書に暴力団排除条項を盛り込んだりするようになりました。

今回の判決は、暴力のない社会を目指すというこのような取り組みの流れの一環として理解するべきだと思います。

「ETCカードぐらいいいじゃないか」と軽くみる人が多いとするなら、暴力団を社会から排除し、ひいては撲滅するべきだという一般市民の感覚がゆるんでいる可能性があるのかもしれません。

例えば、暴力団員がそれと秘して部屋を借りたり、ゴルフ場でプレイしたりしても詐欺利得罪が成立するのが判例の立場です。

ましてやETCカードの利用は与信取引なので、このような判例と比較しても、暴力団員には使えないことになっていることをそれと知りながら弟のETCカードを借りて常習的に使うことがまかり通るはずはありません。

他人のクレジットカードを使うことと同じと考えれば理解しやすいと思います。

ーー実刑判決は重すぎないか?

今回の起訴事実と同様の不正行為をした場合、確かに初犯であれば実刑は重すぎると思います。

ただ、実際の量刑はその人の事情、例えば執行猶予中の犯行だったのかや、前科前歴の有無などによっても変わり得ます。

本件の暴力団員には同種の前科があったとのことですし、組織内の地位も高位であったようなので、それ以外にも前科前歴があった可能性はあります。

それも考慮すると、懲役10カ月の実刑判決が下されたことが重すぎるとは一概には言えません。

【取材協力弁護士】
齋藤 理英(さいとう・りえい)弁護士
1965年、東京都新宿区出身。東京弁護士会所属。2009年に事務所を開設し、反社会的勢力との関係遮断や被害救済などに取り組んでいる。2019~21年に東京弁護士会の民事介入暴力対策特別委員会委員長、2019年から府中刑務所の篤志面接委員を務める。共著に「暴力団排除と企業対応の実務」(商事法務)など。
事務所名:齋藤綜合法律事務所
事務所URL:https://saito-law.jp/

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