【平安S回顧】機先を制したミトノオーの絶妙なペースチェンジ 戦法にみる父ロゴタイプとのつながり

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勝因は先手争いにあり

ダートは芝ほど展開の紛れという要素は少なく、まして中距離の重賞となると、展開云々より最後まで我慢して粘り強く走れるかどうかという真っ向勝負が目立つ。強じんな心肺機能をぶつけ合い、脱落せずにゴールまで走り切る。砂の猛者たちにはめげない心がある。平安Sを逃げ切ったミトノオーも気力を漲らせる走りが印象的だった。なによりメイショウフンジンとの先手争いを早々に制したことが勝因といっていい。

メイショウフンジンは前走ブリリアントSをはじめ、昨年の仁川Sなど逃げたときの粘り腰は驚異的で、最後に並ばれても、もうひと踏ん張りできる精神力が武器だ。ミトノオーはメイショウフンジンに前に行かれるわけにはいかない。内枠の優位性があれど、必ず主張してくるメイショウフンジンに対し、無策ではハナを奪えない。

スタートを決めたサンデーファンデーを二の脚で制し、メイショウフンジンを待つ構えをみせる。出ムチを入れてダッシュを効かせたメイショウフンジンはミトノオーに待たれると、無理はできない。ハナを奪いに行けば、抵抗され、ハイペースを作りかねない。メイショウフンジンはスローの引きつける形から粘る競馬を得意としており、決してスピードで押し切るタイプではない。だからミトノオーのけん制に乗らなかった。そんなメイショウフンジンの大人の対応がミトノオーの逃げ切りにつながった。松山弘平騎手はここまで読んでいたとみた。

ハイペースだったマーチSの影響

序盤は7.1-10.8-11.3と突っ込んでいたが、残り1400mから12.9-12.8と一気にペースダウン。緩急の効かせ加減が絶妙だった。勝負所までゆったり運べたことで、残り600m勝負に持ち込み、位置取りの優位差を生かせた。父ロゴタイプ、その父ローエングリンから続く逃げ馬の血が戦法を貫き続けたことで開花したといっていい。

父ロゴタイプも皐月賞勝利後、16連敗と長いトンネルに入ってしまったが、6歳春の安田記念で抑制の効いた大人な逃げを打ち、モーリスを完封してみせた。ミトノオーも兵庫CS勝利後、そこまで時間はかからなかったものの、逃げ戦法を磨き、後ろを惑わす絶妙なペースチェンジを手にした。こうしたプロセスの重なりに血のつながりを感じる。祖父ローエングリンは8歳で中山記念を逃げ切っており、ミトノオーもまだまだこれからだろう。

JRA重賞初勝利を達成し、今後、いよいよ後ろのマークは厳しくなるだろうが、どんなペースをつくるのか楽しみだ。2走前のマーチSは前半1000m通過1:00.9のハイペースを演出しており、強気な逃げもある。追いかけたら、ハイペースで潰される。相手にそう思わせるレースをできたことも大きかった。木幡巧也騎手が打った布石がメイショウフンジンを控えさせたのだとしたら、隠れた立役者として評価したい。

逃げにこだわってほしいメイショウフンジン

2着ハピは天皇賞(春)競走中止から鮮やかに巻き返した。やはりダートに変われば、堅実に結果を残す。今回も上がり最速タイ36.4で猛然と追い詰めたが、勝ち馬にマイペースを決められてしまっては敵わない。総じて詰めの甘さがあり、もどかしい状況が続く。とはいえ、今回は鋭さをみせており、ダートでも少し長めの距離がよさそう。1800mは忙しいかもしれない。なんとか好走ゾーンを絞り、勝てる条件を見つけてあげたいところだ。

3着メイショウフンジンはミトノオーを利用した走りで粘っており、健闘といえば健闘だが、並びかけられてからが強いという特徴を考えると、逆の追いかけるレースは必ずしも力を出し切れる形ではなかった。逃げ馬と2番手は記録上、順位ひとつだが、この違いは大きい。やはり逃げ馬は追いかけられ、それを振り払っていかないと勝てない。この競馬をきっかけに控える競馬も考えるかもしれないが、ベストは逃げ。ここはブレずにいってほしいところだ。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。



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