「母のような境遇の女性の力に」“弱者に寄り添う弁護士”寺原真希子さん 幼少期に経験した父親の壮絶DV【令和の寅子たち(2)】

“法律上の性別が同じカップルが結婚できないのは憲法違反だ!”

現在、全国(札幌、東京、名古屋、大阪、福岡)5都市で、「同性婚訴訟」(『結婚の自由をすべての人に』訴訟)の審理が行われている。

これまで地方裁判所の判決は、全6件中5件が違憲と判断。今年3月の札幌高等裁判所でも違憲判断が示されたばかりだ――。

「海外では、ヨーロッパ、南北アメリカ、オセアニア、アジアでは台湾など、37の国と地域で同性婚が可能となっています。G7の中で同性カップルを法的に保障していないのは日本だけなんです」

こう語るのは、東京訴訟弁護団の共同代表を務める、弁護士法人東京表参道法律会計事務所の寺原真希子弁護士(49)。

寺原さんは企業法務や民事事件を手がける一方で、LGBTQ+、性的マイノリティの人権擁護にも力を注ぐ、“弱者に寄り添う弁護士”として、メディアでもよく取り上げられる人物だ。

同性婚や選択的夫婦別姓の訴訟で弁護団活動をするほか、同性婚の法制化に向けたシンポジウムや国会議員、企業への働きかけなど、これらすべてを無償で行っている。

彼女はなぜ、ここまで熱心に人権擁護の問題に取り組むのか。

「私の記憶がある3歳ごろには、既に父は母に暴力をふるっていました。父が暴力をふるうたびに、母と私と弟は家から逃げ出して、近所の家にかくまってもらう、そんな生活が高校卒業まで続きました。当時はDV防止法もなく、警察に行っても民事不介入で対応してくれない。母を助けることができず、自分の無力さを感じました」

彼女は、父親のDVに苦しむ母親の姿を間近に見てきたのだ。

「母は離婚したがっていましたが、私と弟を養う経済力がなかったので離婚ができず、父の暴力に耐えながら生活するしかなかった」

そんな母親から寺原さんは、“精神的自立は経済的自立から”と、幼少のころからずっと言い聞かされていたという。

「私が小学校高学年のときに、弁護士という職業があることを知り、将来、経済的に自立するためには、弁護士か医者になろうと」

中学生になると、法律への興味がより一層高まる出来事が起きる。

「公民の授業で、憲法第25条を習ったんです。“すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する”――。国民には“生存権”がある。国家には生活保障の義務があるということを知りました。私は人間らしく生きる権利があるのだと解釈し、母のように苦しみを強いられる生活はおかしいという気持ちがより強くなりました」

ところが、理系が得意だった彼女は、高校卒業後、東京大学理科二類に進学。医者になることも考えたという。だが……。

「やはり弁護士になって、母のような境遇の女性の力になりたいという思いが強くなり、大学3年から法学部に転部しました」

■自分らしく生きられない人を助けたい

寺原さんが人権擁護の問題に取り組む背景には、母親のように“自分らしく生きたいけど生きられない。そういう人たちを助けたい”という信念が根底にあるのだ。

現在、彼女のライフワークともいえる「選択的夫婦別姓訴訟」と「同性婚訴訟」の取り組みを本格的に始めたのは、2010年に独立してからだ。

「2011年に『選択的夫婦別姓訴訟』が提起され、弁護団に入りました。同年に性的マイノリティの問題に関心を持つようになり、2012年、全国の弁護士会の中で初めてLGBTQ+のためのプロジェクトチームを立ち上げ、シンポジウムを開催するなど活動を始めました」

2019年2月、同性婚訴訟が始まって以降、社会的に大いに注目されるようになってきている。

「裁判所は社会の関心の高さ、国民の意識などを考慮します。同性婚訴訟はあと2年ぐらい。今年3月に提起した第3次選択的夫婦別姓訴訟については4~5年後に、最高裁で判断が出ると思います。弁護団として、最高裁で違憲判決を勝ち取ることに全力を注ぎます」

寺原さんは、自らが立ち上げた、公益社団法人「Marriage For All Japan―結婚の自由をすべての人に」を通じて、世論の関心をさらに高める活動も続けている。

最後に、寺原さんの母親は、2000年に離婚し、現在81歳でお元気だ。

「母いわく、“間違った結婚だったかもしれないけど、あなたたちが生まれてくれたことが救い。だからつらいことだけじゃなかった”と。母の言葉は、常に初心を思い出させてくれます」

【PROFILE】

てらはら・まきこ

東京大学法学部卒業、司法修習52期。2000年、都内の法律事務所に勤務後、アメリカに留学。20’08年、ニューヨーク州弁護士登録、2010年、榎本・寺原法律事務所(現:弁護士法人東京表参道法律会計事務所)共同パートナー、2022年、選択的夫婦別姓訴訟弁護団の団長

© 株式会社光文社