70代になっても親の相続税を払い続ける可能性も…遺産分割の際、最も避けるべき「納税方法」とは【相続専門税理士の助言】

遺産分割協議は、親族同士で揉めることなく、なるべく穏便かつ迅速に終わらせたいもの。しかし、短時間で済ませようとすることで、思わぬリスクに繋がることもあるようです。遺産分割協議をする際の注意点を、税理士法人レガシィの天野大輔氏の著書『相続でモメる人、モメない人』(日刊現代)より、詳しく見ていきましょう。

申告を忘れると「無申告加算税」がかかる

遺産分割協議は、相続人が集まって顔を見ながら、じっくり話し合ったほうが後でモメるのを防ぐことにつながります。海外赴任をしている人がいたとしても、いったん帰国して参加するのがいいでしょう。

短時間で終わらせようとすると、相続人それぞれの気持ちの整理がつきませんし、相続財産を見落とす可能性があります。申告後に新たな財産が見つかると、修正申告をして追加の相続税を支払わなくてはいけません。

また、税務調査が行われ、税務署が先に申告漏れに気づくと、過少申告加算税を徴収されます。追加納付した税額の10%です。追加納付の金額が期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超えている場合は、超えた分に対しては15%が課されます。

手間がかかる上に、負担も重くなりますから、申告漏れのないようにじっくり話し合って遺産分割をするのがいいでしょう。相続税の申告にまつわるペナルティーには、無申告加算税、延滞税、重加算税などもあります。

無申告加算税は申告期限までに申告・納税を行わなかった場合に課されます。期限後に自主的に申告した場合には、5%が無申告加算税となります。また、税務署から税務調査の通知があってから自主的に申告した場合には納税額50万円までの部分に10%、50万円を超える部分には15%が課されます。

さらに、税務調査の指摘を受けてから申告をした場合には、納税額50万円までの部分に15%、50万円を超える部分には20%が課されます。

申告期限後に相続税を納付した場合には、延滞税がかかります。相続財産を意図的に隠した場合などには、重加算税がかかります。

慌てずに間違いのない申告をすることが重要です。

納税の方法には3種類ある

ここで納税方法について紹介しておきましょう。相続税を納める方法には3種類あります。①現金、②延納、③物納です。

延納は、分割して納付する方法です。相続税は申告期限までに現金で納付することが原則になっていますので、延納するには利子の支払いが必要になります。一括で納付が困難な場合、延納は便利な方法に思えるかもしれませんが、後で困ったことになる可能性があります。

最近は長寿になり、親が90代、子どもが60代で相続が発生するケースが増えてきました。この場合、延納を利用すると70代になっても親の相続税を払い続けていることになりかねません。

売却できる資産があるのであれば、すみやかに売却して相続税を支払ったほうが安心です。こうした理由もあって、実際に延納を利用している人は多くありません。税理士法人レガシィの独自調査では延納を利用しているのは全体の1%ほどです。

延納は先送りに他なりません。できるだけ避けられないか考えたいところです。

物納は相続した現金ではない財産で納付する方法です。実際には買い手のつかない土地や売れたとしても路線価以下でしか売れない場合、物納することがあります。

物納のメリットは、相続税評価額で国が土地を収納してくれるので、売り急いで買い叩かれるようなことがありません。また、土地を売却して利益がでれば譲渡所得税がかかりますが、物納ではかからないのもメリットです。

遺産分割の話し合いをスムーズに進めるコツ

遺産分割でモメそうになったとき、外に敵をつくって相続人同士が団結する方法もあります。これは世界中の外交戦略でも使われている方法です。

では、誰を敵にするか。あくまで便宜上ですが、税務署がいいでしょう。「税務署(敵に)に支払う税金を減らすためにはどうすればいいか」を相続人が協力して話し合うのです。結果、モメにくくなります。

モメてからでは、損をすることがわかっていても譲れなくなってしまいます。モメる前に、相続人がまとまるきっかけをつくるといいでしょう。

遺産分割の話し合いをスムーズに進めるコツは2つあります。

〈遺産分割の話し合いのコツ〉

1.相続人に「何が欲しいか」を聞く

2.長男が土地を相続する代わりに、次男や長女にお金を渡す

一つ目は「何が欲しいか」を聞くことです。相続人はそれぞれ希望が異なります。お金を欲しい人がいれば、土地が欲しい人もいます。各相続人が何を欲しいのか、それを把握することが遺産分割の話し合いをスムーズに進めるコツとなります。

二つ目は自宅以外に分ける財産がほとんどない場合のコツです。このケースでは長男が土地を相続する代わりに、次男や長女にお金を渡すことで遺産分割がスムーズに進む場合が多くなります。次男や長女もお金のほうが納得しやすいからです。

最近は土地を欲しいと考える人はあまりいません。売却して現金化しようと考えても、どれくらいで売れるか判断が難しいですし、売れたとしても約2割の税金がかかりますので、手元には8割しか残りません。保有している間は、固定資産税もかかります。

長男が自宅の土地を相続してわずらわしさを引き受ける。その代わりに、次男や長女には長男からお金を渡す。この分割方法を「代償分割」と呼びます。代償分割を活用することが遺産分割をスムーズに進めるコツなのです。

代償分割のリスクとは

ただし、代償分割を利用する上では注意が必要なこともあります。代償分割と現物分割を比べると、後で困らないのは現物分割だからです。

たとえば、相続財産のほとんどが自宅の土地で相続人が長男と次男の場合で、土地を2分割して次男に渡せば、その土地をどう利用しようと次男の自由です。長男も自分の相続した土地を自由に利用できます。

しかし、代償分割では長男が土地をすべて相続して、代わりに現金を次男に渡します。土地にかかる税金や運用リスクをすべて長男が引き受けることになります。長男に代償金を支払う余裕があればいいのですが、なければ土地を活用して工面しなければなりません。土地の一部に賃貸マンションを建てて、家賃収入を得るなどの方法もありますが、簡単ではありません。

多くの場合、借金をして賃貸マンションを建てることになりますし、空室が多ければローンの返済さえできなくなってしまう可能性があります。

代償分割にはこうしたリスクを伴いますので、利用する場合には相続後のことも十分に考えて選択する必要があります。

天野 大輔
税理士

税理士法人レガシィ

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