町田FW藤尾翔太が示した点取り屋の矜持。狡猾なヘッド&PK弾でパリ五輪行きへ猛アピール

[J1第15節]町田 5-0 東京V/5月19日/町田GIONスタジアム

町田のFW藤尾翔太が、ついに歓喜の瞬間を迎えた。

最後にネットを揺らしたのは、U-23アジアカップを戦う大岩ジャパンに合流する前の7節・川崎戦。今季3点目となるゴールを決めた。ただ、代表で得点はなく、チームに戻ってきてから3試合に出場したなかでも、それは変わらなかった。

もっとも、本人は「ゴールを決めていなくて“やばい”というのはなく、焦りはあまりなかった」という。

迎えた5月19日の東京V戦。FWオ・セフンと最前線でコンビを組むと、序盤から黒田剛監督に鍛えられた強度の高い守備で、ファーストディフェンダーの役割をこなす。攻撃では懐の深いキープを武器に存在感を示す。エリア内の迫力も十分で、相手と駆け引きをしながら常に良いポジションを取り続けた。

29分に生まれたゴールも、まさに得意とする形から。敵陣の右サイドでスローイン。右SB鈴木準弥はロングスローではなく、近くにいたMF柴戸海に預ける。そしてリターンパスを受けた鈴木がアーリークロスをゴール前にインスイングで入れると、藤尾がダイビングヘッドで押し込んだ。

「準弥君からボールが上がってくる前のタイミングで、駆け引きは終わらせたかったので、1回、相手ディフェンダーの後ろに入って、先に入りたいスペースを開けておいた。ボールが来るタイミングで上手く前に入れたと思う」

東京VのCB林尚輝にマークされていたが、ボールが入る前に狡猾な動きで相手を出し抜いた。一度、相手の視界から消えて自分が入るスペースを空けておくと、鈴木からボールが出た瞬間、一気にスピードを上げて振り切る。

「チームで決めた場所に入ってきたというのはあるけど、彼は後ろから前から頭ひとつを出すのが得意。2節目のグランパス戦もそういうゴールだったと思うんですけど、彼の持ち味は泥臭さというか貪欲さ。しっかりとこういうゲームで生きたと思う」とは黒田剛監督の言葉。ダイビングヘッドも見事だったが、その前の動き出しで全てを決していた。

【動画】藤尾の2ゴールなど町田が5発圧勝! 東京V戦ハイライト

60分には2点目をゲット。左MF平河悠がボックス内で倒されると、藤尾は迷わずにボールを掴んでペナルティスポットへ。「VARが入って、(その映像をスタジアムの)スクリーンで見た時に、たぶんPKだなと思ったので、心の準備をしました」(藤尾)。

試合前からキッカーに指名されていたが、誰よりも早くボールを拾い上げて蹴る意思を示したのは、ストライカーとしての矜持だろう。右ポストに当てながらもしっかりと決め切り、今季初のドッピエッタを達成した。

代表活動から戻ってきて無得点が続いていたが、東京V戦の2ゴールで今季の得点数を「5」に伸ばし、パリ五輪に向けてアピールになったのは間違いない。来月にはメンバー発表前最後の活動となるアメリカ遠征を控えており、U-23アジア杯で不在だった海外組も戻ってくる見込みだ。

それだけに、Jリーグで結果を残さなければ、生き残りは難しい。ライバルたちとの競争を前に、チームで結果を出せたことは自信にも繋がる。そして何より、「焦りはない」としつつも、少なからず心に余裕が生まれたことは、プレーに好循環をもたらす。

「チームの順位と、やっぱり個人の結果がすごく結びつくと思うので、今日勝てたことは嬉しい」という言葉からもポジティブな空気が漂っており、次戦以降もゴールを重ねられれば、より良い状態で代表活動に向えるはずだ。

残された期間は、あとわずか。クラブでのポジション争いに勝ち、J1初参戦ながら首位を走るチームで奮闘するストライカーは、謙虚な姿勢を保ちつつ、さらなる飛躍を目ざしてゴールを重ねていく。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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