30代は「朝、顔も洗わずトイレもいかず、ピアノに……」 北九州市在住のジャズピアニスト・上野香織さん

西日本新聞社北九州本社が制作するラジオ番組「ファンファン北九州」。地元新聞社ならではのディープな情報&北九州の魅力を紹介しています。ラジオを聞き逃した人のために、放送された番組の内容を『北九州ノコト』で振り返ります。今回のゲストは、ジャズピアニスト・上野香織さんです。

「自由に発想して弾いていく、本当に会話のような感じ」

甲木:おはようございます。西日本新聞社 ナビゲーターの甲木正子です。

野口:同じく、西日本新聞社 野口喜久子です。

甲木:野口さんは、大人になってからバイオリンを習い始めたんですよね。

野口:はい、50の手習いでバイオリンを始めました。

甲木:今も練習してます?

野口:いえ、転勤してきてからはしていません。でもジャズは大好きです。

甲木:いきなり今日の答えを言ってしまいましたね(笑) 今日のゲストはジャズの方なんです。さっそくお招きしましょう。北九州市在住のジャズピアニスト・上野香織さんです。この番組では音楽業界の方は初めてだと思います。よろしくお願いします。

野口:よろしくお願いします。

上野:よろしくお願いします。

甲木:昨年末、芳賀文化財団の表彰式の時にばったりお会いして、「日本にいらしたんですね」という話になりました。今は国内で演奏活動なさっていますけど、やはりライブハウスとか北九州芸術劇場などでコンサートをしてるんですよね?

上野:そうですね。呼んで頂ければどこでもという感じなんですけど、年に何回かツアーを組んで東京、名古屋、大阪など全国を縦断する感じで行ってます。

甲木:もともと上野さんは、クラシックピアノをされていらしたんですよね?

上野:はい。母親がピアノの先生をしていて、家に生徒さんがたくさん来ていました。それを盗み聞きして、こんな曲いいなと思いながら、ピアノを弾いていました。

甲木:では、「お稽古しなさい」と言う感じではなかったんですね。

上野:そうですね。家は放任主義で強制はしないんです。

甲木:自分で聴いたり譜面を見て弾いて、それがどうやったら上手になっていくんでしょうか?

上野:言葉と一緒で、聞いて覚えてしゃべって、場慣れしていくしかないんです。そしてやるたびに「これはよくないんじゃない?」と自分で試みます。そして「次はこうしてみよう」とかの連続です。

甲木:クラシックだったら作曲家の意図を考え、「ここはクレッシェンド」など演奏の仕方が決まっていると思いますが、ジャズの場合その辺は自分の気分で演奏してもよろしいんでしょうか?

上野:例えば決められた題材があって、今の状況で例えると「音楽の話はするけど、自分の言葉で音楽を語る」ということなんです。音楽の話題から外れない方がもちろんいいんですけど、一応そういう最低限の決まり事があります。そこから自分で自由に発想して弾いていく、本当に会話のような感じですね。

お客様とミュージシャンがどれだけステージを共有できるか

甲木:会話とおっしゃいましたけど、やはり会話するテクニックを磨いていかないといけないと思いますが、どうやって自分の会話の幅を広げて行くんでしょうか?

上野:私は去年が20周年でしたけども、どれだけ集中してどれだけ良いイメージを持てるかという事を考えてますね。細かいフレーズも考える事もなく、私個人的にはステージの色とかイメージで演奏しています。私は基本的にハッピーなジャズが好きで、「皆さん、楽しんでますか!」みたいな感じなんです。そういうイメージをどれだけ伝えられるか、どれだけお客様とミュージシャンがステージを共有できるかということを一番考えています。

甲木:そうなんですね。話は変わりますが、大学に進学するかしないかの時に、ジャズに出会ってそのままミュージシャンになられていますけども、食べていけるのかなとか考えたことはなかったんでしょうか?

上野:考えてる暇がなかったですね。北九州在住のジャズピアニスト・田村先生のところに習いに行った時に、いろんなミュージシャンが遊びに来られていて、その方々とも知り合いになり一緒にセッションしていました。その中で甲木さんもご存じの井島正雄さんというベーシストの方がいらっしゃいました。私が23歳の頃、井島さんがお仕事は決まったけどピアニストが決まっていないということで、ピアニストを探していました。その時に田村先生が私の名前を挙げて下さって、それから井島さんとご一緒して、その時からいろんなお仕事を振って下さることになりました。

甲木:実は私が上野さんの演奏を初めて聞いたのも、井島さんのステージだったんですよね。福岡市の高砂にあるお蕎麦屋さんで、私の友人が近しい人に自分たちの婚約披露をするために、演奏して頂いたジャズライブの時に、井島さんと一緒にピアニストとしていらっしゃったのが上野さんだったんですよね。「井島さん、こんな素敵なピアニストさんと組んでいるんだなー」と思っていて、それが上野さんだったんです。このお蕎麦屋さんのライブもですが、ファンが来て下さいといってやるライブもありますよね。

上野:そうですね。場所によってはありますね。

北九州市から「市民文化奨励賞」を受賞

甲木:クラシックとかだと、やはりホールでミュージシャンを招聘してという感じですけども、ジャズの場合はものすごく好きなファンがいたら、ライブハウスを押さえたから来て下さいということもあるんですよね。

上野:そういうこともありますし、ライブハウスのオーナーさんが私のCDを聞いて下さって、うちにもぜひ来て下さいといって頂いたりとか、関西に居たらこの間、和歌山にも来て下さいとメールを頂きました。

甲木:そうなんですね。プレイガイドでチケットを買いますということではなく、この敷居の低さがジャズのいいところかなと思います。飲みながら聞けて、適当に声をかけても良いし、客席との一体感やミュージシャンと客席の近さなど、その辺もクラシックと違っていいなと思います。ところで、どんどんお声もかかるようになって、30代で一枚目のCD『ラッキーストライク』を出されて、すごく順調に来られていますね。北九州市から市民文化奨励賞も受賞されていましたが、飛ぶ鳥を落とす勢いでしたね。

上野:そうですね。その時の見えることを一生懸命やっていて、それを楽しんでいました。

甲木:好きで楽しくてやってた30代の時、どれぐらい弾いてたんですか?

上野:その時は、朝、顔も洗わずトイレもいかず、ピアノに座ってましたね。それぐらい練習してました。母親がピアノの先生で、その母がいうには本番でだいたい80%出せれば良し、練習では120%出せたら良し、寝ぼけた状態でもどんな状態でもパッと弾けたら本番で弾けるはず、という感じです。

甲木:30代でCDデビューしてツアーもやって、その後に渡米ということになるんですけれども、今日はお時間の関係で渡米の話は来週伺いたい思っています。上野さん今日はありがとうございました。

野口:ありがとうございました。

上野:ありがとうございました。

〇ゲスト:上野香織さん(ジャズピアニスト)
〇出演:甲木正子、横山智徳(西日本新聞社北九州本社)

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