夫婦の立場は昨秋逆転 幡地隆寛を覚醒させた石川遼とブルックス・ケプカ

もう飛距離でねじ伏せるだけのゴルフではない(撮影/奥田泰也)

◇国内男子◇関西オープン 最終日(19日)◇名神八日市カントリー倶楽部(滋賀)◇6869yd(パー70)◇雨時々曇り(観衆2593人)

幡地隆寛の志保夫人は3歳上の姉さん女房だ。結婚3年目、人が良くおっとりとした幡地が志保さんに甘える立場なのか、と思ったが、志保さんいわく「夫は厳しいです」。2020―21年シーズンに初シードを取るまでは「私の方がよく怒って厳しく言ったりしてたんですけど、立場が逆転しちゃいました」と笑う。「特に昨年ぐらいからですね。それまでの“練習行かなきゃ”から“練習行きたい”になりました」――

昨年10月15日、大阪・茨木CC西コース開催の「日本オープン」最終日。国内最高峰のタイトル争いで、幡地は同じ首位と2打差3位にいた石川遼と2サムの同組でプレーした。優勝は岩崎亜久竜に譲ったものの、スコアを2つ伸ばして2位になった石川に対し、1つ落として3位に終わった。

昨年の日本オープンでは石川遼と週末2日間のプレーをともにした(撮影/村上航)

幡地は「“本気の石川遼”を見ました。僕は勝ち切れなくて、悔しくて」と述懐する。

11月18日、宮崎・フェニックスCC開催の「ダンロップフェニックス」3日目。メジャー5勝のブルックス・ケプカと同組になった。スコアはケプカが「67」で幡地は「69」と大差はなかった。身長は自分が188cmで5cm高い。ドライバーショットの飛距離も負けていなかった。なのに「次元が違った」とこぼす。

「もうね、分からないんです。分からないってことは1枚上手とかじゃない。2、3枚は違う。例えるなら、ゴルフを始めたばかりの子どもが初めてプロを見たみたいな」。どうすれば、彼のようになれるのか?「目の前に明確な目標が現れた。“この選手に近づきたい”と思いました」と振り返った。

昨年のダンロップフェニックス3日目をプレーする幡地隆寛(撮影/松本朝子)

今までやってきたことではダメだと感じた。2020―21年シーズンにドライビングディスタンス313.04ydで1位になるなど、圧倒的なスケールで「未完の大器」と呼ばれた。「飛ばして、ねじ伏せるゴルフ」が信条だった。「でも、2、3年前から思ってたんですけど、いつも上にいる選手は飛距離が260~280ydで、刻めば240ydとか。結局、そこに持っていくのが一番セカンドショットを打ちやすいんだと。でも“300yd打てるのに”という葛藤があって…」

自分は170~180ydを8番アイアンで打てるが、他の人は6番を持たないといけない。「それなら、自分が8番の精度を上げた方が有利に立てるじゃないかって。“やりたいこと”と“やるべきこと”の区別をつけるようにしました」。昨年の日本オープンではドライバーを持たず、ユーティリティで敢えて170~180ydを残すマネジメントを実践した。

石川遼とブルックス・ケプカが幡地隆寛を変えた(撮影/奥田泰也)

石川とケプカの姿が、幡地の進化を促した。変化はゴルフにとどまらない。以前は週イチペースで食べていた焼き肉の頻度を減らした。「水曜日(今大会開幕前日)に今年初めて食べたんですけど、やっぱり疲れが残っちゃって」。今季から魚、豚肉などを多く食べるなど食事に気をつけている。

大会3日目の夜、志保さんが電話で「応援に行こうと思うんだけど…」と聞いてきた。志保さんには「私がいない3日間は良かったから、私が行ったら」という遠慮があったのだが、幡地の返答は「来ればいいじゃん」。この日、東京から約4時間かけてコースに駆け付けた志保さんが夫の優勝を見て泣いた。幡地は「絶対、泣くと思いました」と照れるように言った。

今回の優勝で、2026年シーズンまでの国内ツアーシードを手に入れた。もとよりあった海外志向。「いろいろ考えたい。米ツアーのQTに挑戦するのもありかなと思います」。プロ9年目、30歳。幡地はもう昔の幡地ではない。(滋賀県東近江市/加藤裕一)

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