「未納はないはずなのに…」会社員の夫を持つ専業主婦が“年金減額”を宣告された「まさかすぎる原因」

<前編のあらすじ>

62歳の美咲さん(仮名)は、同い年の夫・和弥さん(仮名)と暮らしています。美咲さんは短大を卒業後、数年間会社で働き、結婚後は専業主婦を続けてきました。

夫の和弥さんは若い頃に何度か転職を重ねましたが、自分にぴったりな会社に出会ってからはその職場で60歳の定年を迎えました。現在も再雇用契約をして働いていており、このまま65歳まで勤務する予定です。

和弥さんより一足先に年金の受給が始まる美咲さんは、62歳になって年金の手続きのため、年金事務所へ出向きます。その際に、「美咲さん自身の年金記録の訂正が必要です。そして、訂正した結果、このままだと65歳からの老齢基礎年金が減ります」と言われてしまいます。

●前編:【「このままだと年金が減ります」60代専業主婦が驚愕…年金事務所で判明した「信じられない展開」】

美咲さんの老齢年金が減ってしまった原因

年金事務所の窓口の人から告げられた衝撃の展開に耳を疑った美咲さん。どういうことか詳しく聞いてみると、「具体的には平成6年5月分の国民年金保険料が未納扱いになることが理由です」と説明を受けました。

結婚して以降、和弥さんは会社員で、美咲さんは専業主婦でした。和弥さんが厚生年金に加入し、同時に国民年金の第2号被保険者となれば、扶養に入っている美咲さんは60歳になるまで第3号被保険者になることができます。

しかし、和弥さんが退職すれば、美咲さんは第3号被保険者にはならず、和弥さんも美咲さんも第1号被保険者になり、それぞれ第1号被保険者への切り替えの手続きが必要になります。

そして、第3号被保険者になっていればそのまま納付扱いとなるところ、第1号被保険者になると国民年金保険料(2024年度:月額16,980円)の納付が必要になり、納付していないと未納期間と扱われます。未納期間があるとその分老齢基礎年金が減ることになります。

和哉さんの転職時に発生した「誤った記録」

しかし、転職があったとはいえ、結婚後の和弥さんはずっと会社員だったはずです。美咲さんはずっと3号ではなかったのでしょうか。年金事務所の窓口で美咲さんは「不整合記録の訂正によって未納期間となるのは平成6年5月です」と言われました。

和弥さんは確かに平成6年5月に退職し、翌6月から次の会社へ転職しています。しかし、実は和弥さんはこの平成6年5月の月末ではなく、15日に退職していました。半月空いたうえで、その次の会社に6月1日に就職していましたが、月の途中で退職している平成6年5月分は夫婦そろって第1号被保険者となり、国民年金保険料を納めなければならない月となります。

それが、どういうわけか、美咲さんの平成6年5月分は第3号被保険者の期間として計算されたままとなっていました。当時、和弥さんの退職の際に第1号被保険者へ切り替わることについて、美咲さんは何も聞いていなかったか、まったく知らなかったかもしれません。かなり昔のことですから、当時の記憶も定かではありませんし、その後も切り替えの手続きをしていないまま今に至っていました。

しかし、年金記録上の事実として、和弥さんが月末まで在籍していなかったことから平成6年5月は第2号被保険者の期間とならないのに、美咲さんは第3号被保険者期間となっていて、結果、3号不整合が発生しています。

当然、これは誤った記録であるため、訂正が必要となり、結果として平成6年5月分は第1号被保険者期間となります。第1号被保険者期間になっても、その平成6年5月当時の国民年金保険料は今から納めることができません。3号だった場合は納付扱いになるところ、この月が1号未納扱いとなるため、その1カ月分の年金が減ることになるのです。

老齢基礎年金の満額は年額816,000円(2024年度の68歳以下の額)のため、1カ月分だと816,000円×1月/480月で年額1700円減る計算になります。

美咲さんの年金は減ったままなのか?

突然、3号から1号未納期間に変わって年金が当初より老齢基礎年金も減ることになりました。

「1カ月分とはいえ老齢基礎年金が減ってしまうなんて、なんか嫌ね」という美咲さん。ただ、このまま打つ手が何もなく年金が減ったままかというと、そうではありません。

美咲さんは現在62歳。65歳までは時間があったのが幸いです。現在、年金に未加入の美咲さんは65歳になるまで国民年金に任意加入することができます。任意加入して国民年金保険料を納付すれば、老齢基礎年金を増やすことが可能です。保険料の負担はありますが、3号不整合で減ったあとの1カ月分について、これから納付すれば埋め合わせられます。

また、美咲さんは短大を卒業するまで国民年金は未加入だったため、20歳から短大卒業までの未加入期間分も任意加入で納めることができます。国民年金保険料と合わせて付加保険料(月額400円)も納付すれば、その分わずかですが、付加年金(付加保険料1カ月納付につき年額200円)も増やすことができるでしょう。

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配偶者の転職の多さがその一因になって、記録不整合が起きました。このようなことを防ぐには、夫婦で年金記録を確認しておき、また、退職のタイミングでの必要な手続きは忘れずに行っておくことが大切です。

井内 義典/ファイナンシャルプランナー

よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員。専門分野は公的年金で、3000件を超える年金相談業務を経験。さらに、年金事務担当者・FP向けの教育研修、ウェブメディアや専門誌への記事執筆も行っている。横浜市を中心に首都圏で活動中。

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