任意のはずのマイナカード取得 「一本化」で事実上の強制に 高齢者施設は「利用者のマイナ保険証は預かれない」 医療アクセスの妨げとなる恐れも 専門家解説【後編】

現行の保険証が廃止される12月2日まで半年余り。保険証機能が「マイナ保険証」に一本化される予定だ。しかし、「マイナ保険証」の利用率は4月時点で6パーセント台と低調。一方で、トラブルの報告は多い。

オンライン環境でしか使えない「マイナ保険証」は、当然だが、通信インフラがないと使えない。このことが引き起こす問題について、「前編」で触れた。

果たして、このまま進んで「地域の医療」は大丈夫なのだろうか?国が押し進める「一本化」について、弁護士で地方自治研究の専門家でもある、神奈川大学法学部・幸田雅治教授に聞いた。

■取得は任意のはず 一本化で事実上の「強制」に

幸田雅治教授: 本来、マイナンバーカードの取得は任意であり、義務ではありません。しかし、現行の保険証が廃止になり、マイナ保険証に一本化されると、事実上、強制と同じことになります。これは任意取得の原則に反する行為で、大いに問題があります。

もともと厚生労働省は、マイナ保険証と現行の保険証の選択制を打ち出していました。しかし2023年9月、河野デジタル相は「健康保険証や運転免許証、在留カード、その他カード、資格証など、全部マイナンバーカードにもれなく一本化し、(一本化を)加速をしていきたいと思っている」と発言。さらに翌10月の記者会見で、「2024年秋に現在の保険証の廃止を目指す」と、廃止時期を公言したのです。

ここで問題なのは、この件に関して、自治体にまったく相談がなかったことです。地方自治体の意見を聞かずに国が一方的に発表するというのは異例の事態であり、地方自治の否定と言わざるを得ません。

■法律の根拠なく「原則義務化」

幸田雅治教授:令和4年6月の閣議決定で、保険医療機関と保険薬局に対し「オンラインによる資格確認の導入」が原則義務化され、そのことは、省令の【療養担当規則】に記載されました。

その後、8月に開かれた説明会で、厚生労働省の担当者が「オンライン資格確認の原則義務化に抵抗すれば、【療養担当規則違反】になり、指導の対象となって医療機関指定の取り消し事由ともなりうる」という趣旨の強権的な発言をして、医療現場に混乱をもたらしました。

つまり、国は、医療機関や保険薬局に対して、マイナ保険証制度の導入を強制したと言われても仕方のないやり方をしたのです。ですが、根本的なことが間違っています。「療養担当規則」は、法律でなく省令(規則)です。法律の根拠を欠くもので義務付けているというのは大問題です。

このように、マイナ保険証に関しては、法的にも、地方自治の観点からも、問題だらけの進め方をしていると言えます。

そして何より問題なのは、このままマイナ保険証を強引に進めてしまうと、地域医療や高齢者といった弱い立場の人たちが取り残されてしまう危険性があることです。

■地域医療の担い手 小さな「かかりつけ医」が危機に

幸田雅治教授:マイナ保険証への一本化は、地域の健康を見守る小さなかかりつけ医を、廃業の危機に立たせています。地方には、医師自らが、受付から治療、会計、事務手続きまで1人でこなしている医院もたくさんあり、医師の高齢化も進んでいます。こういった所では、オンラインシステムに対応が出来ず、廃業せざるを得ない状況になっているのです。

全国保険医団体連合会(保団連)によると、マイナ保険導入義務化直前の2023年3月に廃業した医院は、全国で1103件にのぼりました。そして、現行の保険証が廃止される2024年末までに廃業を決めている医院が、約1000件あるといいます。これはすなわち、無医村が増え、地域医療が崩壊する可能性をはらんでいると危惧します。

■高齢者施設が抱える不安 「利用者のマイナ保険証は預かれない」

幸田雅治教授:高齢者や障がい者施設では、マイナ保険証の管理について、不安の声が上がっています。

認知症の方が多く入居する施設などでは、現状、施設が保険証を預かって管理しているケースが殆どです。高齢者は医療機関の受診も多いので、入居者自身の管理が難しかったり、家族が近くにいない場合は、施設が管理せざるを得ないのです。

全国保険医団体連合会が1219ヶ所の特別養護老人ホームや老人保健施設に対して行った調査によると、現在、入居者の保険証を預かって管理している施設は83.6パーセント。しかし、現行の保険証が廃止され、マイナ保険証の管理が必要となった場合、「管理できない」と回答した施設が94%に達しました。理由としては、「カード・暗証番号の紛失時の責任が重い」「カード・暗証番号の管理が困難」といった意見が多くを占めました。

■今の保険証を残せばそれでいいのに

幸田雅治教授:個人情報と結びついたマイナ保険証の管理は、介護施設にとって大きな負担になります。このままだと、高齢者や障害者、地域医療といった弱い所にしわ寄せが起こることになります。現行の保険証を残せばいいだけ、ただ残せばいいだけなのです。

マイナ保険証により、国民は現在よりも大変不便になります。とくに要介護高齢者や在宅介護高齢者にとって、医療アクセスの妨げとなる危険があります。このままでは、地方の自治体が地域医療を守ろうと必死になって取り組んでいることを無にしかねません。

マイナンバーカードと保険証の一体化は、G7で日本だけです。デジタル先進国の北欧のエストニアや台湾でも別々にしています。

健康保険証は、国民にとって身近で重要な問題です。もっと国民の声に耳を傾けて、最善の方法を検討して頂きたいと思います。

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