ほとんどの化石は岩だらけ。コツコツ地道な「クリーニング」を経て、アンモナイトは姿を現す

クリーニング中のアンモナイトの化石(約1億年前)。手前がエアチゼル

■サラリーマン化石ハンター・宇都宮聡さん

 みなさんは博物館に展示されている恐竜やアンモナイトの化石を見たことがありますか。特徴ある模様などに興味を引かれると思いますが、初めから展示されているような形で見つかるわけではありません。日本で発見される化石の多くは、周りを硬い岩に覆われた状態で産出します。発掘された化石は研究室に持ち帰った後、クリーニングという、岩からの抽出作業を地道に行うことで、初めてその姿を現すのです。

 その際、活躍するのが小さなハンマーと、タガネという先端に鋭い刃を持った工具です。タガネをハンマーでたたき、コツコツと余分な岩を削り取る作業を延々と繰り返します。その際、岩と化石本体の境界を見極め、本体を傷付けないよう細心の注意を払うことが重要なポイントです。

 私はクリーニングの基本を、小ハンマーとタガネで習得しましたが、最近はエアチゼルという機械を使ってクリーニング作業することも多くなりました。エアチゼルは硬い針が先端に付いたペン状の機器。空気圧により先端の針を高速振動させることで、化石本体にあまり負担をかけずに、微細な部分までクリーニングできる優れものです。

 私が発掘したクビナガリュウ「サツマウツノミヤリュウ」のクリーニング作業は、エアチゼルを使って、自ら行いました。研究者によっては、クリーニング作業を専門の技官に任せる人も多いと聞きます。私はクリーニング作業中に、クビナガリュウのペリット(のみ込んだ餌で、消化できない骨などの塊)など多くの発見と気づきを得たので、手間はかかりますが、自分の手で行うようにしています。

 鹿児島県立博物館の地下倉庫には、サツマウツノミヤリュウの残りの骨が埋まった母岩が眠っています。いつか条件がそろえば、クリーニング作業を再開し、クビナガリュウの全体像を復元して、謎の生態に迫りたいと考えています。

【プロフィル】うつのみや・さとし 1969年愛媛県生まれ。大阪府在住。会社勤めをしながら転勤先で恐竜や大型爬虫類の化石を次々発掘、“伝説のサラリーマン化石ハンター”の異名を取る。長島町獅子島ではクビナガリュウ(サツマウツノミヤリュウ)や翼竜(薩摩翼竜)、草食恐竜の化石を発見。2021年11月には化石の密集層「ボーンベッド」を発見した。著書に「クビナガリュウ発見!」など。

(連載「じつは恐竜王国!鹿児島県より」)

約1億年前のアンモナイトの化石。クリーニング開始時の状態がコレ
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