【今週のサンモニ】黒川敦彦氏は『サンデーモーニング』の申し子|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。

選挙妨害からなぜか自民党バッシングへ

2024年5月19日の『サンデーモーニング』は、この番組にとってニュースとは一体何なのか?ということを問う意味で味わい深い放送でした。

膳場貴子氏:15日水曜日、政治をめぐる動きについて駒田さんからです。

駒田健吾アナ:水曜日、自民党の裏金問題をめぐって、キーマンの一人とされた人物が再び口を開きました。そんな中浮上したのは、これまでに例を見ない悪質な選挙妨害事件でした。

引き続き1分40秒にわたってつばさの党の選挙妨害に関する編集映像が流れ、CMに移りました。

普通に考えれば、この話題は、現在大きな社会問題になっており、CM明けも深く掘り下げるところですが、『サンデーモーニング』は違いました。

CM明けからは、何もなかったかのように唐突に政治資金不記載問題による自民党バッシングが延々と始まったのです。

駒田健吾アナ:裏金事件の逆風のなか、3つの補選で全敗という民意を突き付けられた自民党。

この間、3分40秒、番組の言う「キーマン」とは、何のことはなく、自民党から党員資格停止処分を受けた下村博文氏でした。

この問題については、今週特に目立った進展はありませんでしたが、『サンデーモーニング』は、他愛もない下村氏の発言をつかって、自民党を徹底的に叩き続けたのです。

選挙妨害問題に消極的なサンモニ

膳場貴子氏:裏金をめぐる波紋が収まりませんね。そして、つばさの党の事件と共に駒田さんからさらに詳しくお伝えください。

駒田健吾アナ:まずは、政治とカネの問題から参りましょう。

駒田アナの説明は、政治資金不記載問題に1分、選挙妨害問題に40秒を充てました。

極めて、不可解な点は、『サンデーモーニング』が、政治資金不記載問題と選挙妨害問題という誰から見ても全く関係のない2つの問題を無理やり同時に取り上げ、このうち大きな進展があったわけでもない政治資金不記載問題を大きく取り上げ、大きな進展があった選挙妨害問題を小さく取り扱ったのです。

もし『サンデーモーニング』の番組スタッフに少しでも公共性を尊重する感覚があるのであれば、大きな社会問題となっている選挙妨害問題については、家宅捜索があった13日の月曜日の話題、あるいは逮捕があった17日の金曜日の話題として単独で取り上げるのが常識と思いますが、彼らはこの問題を何の関係もない15日の水曜日の話題、しかもサブの話題として取り扱ったのです。

このことから言えるのは、『サンデーモーニング』はこの問題を取り扱うことに消極的であるということです。というか、取り上げざるを得ないのでアリバイ的に取り上げたと考えるのがむしろ蓋然的です。

面白いことに、スタジオトークもほとんど選挙妨害問題を取り上げずに、政治資金不記載問題による自民党バッシングに終始しました。

膳場貴子氏:この二つの政治のニュースについて皆さんに伺っていきたいと思います。

藪中三十二氏:本質は裏金問題、政治と金との問題だと思うんですね。(中略)国民は騙されないぞということで厳しく見なきゃいけないと思います(1分30秒)。

佐藤千矢子氏:政治とカネのことを簡単に言っておくと、藪中さんがおっしゃった通りで、自民党のガヴァナンスがほぼ崩壊状態にある(中略)裏金問題は、政治とカネの問題はまったくまとまらないのが今の状態だと思いますね(2分)。

荻上チキ氏:まず自民党のことに関しては、一言で言うと「これからも抜け穴をください」というような法案を出してきた(10秒)。抜け穴をめぐっては、つばさの党の方でも議論になりましたね。(中略)民主主義とどう、折り合いをつけるかといのは、社会の方で問われていると言えますね(1分)。

松原耕二氏:この一週間驚いたのは、自民党議員からこんな声が出ていますが「政治資金改正をめぐる議論が自民党の力を削ごうとしている」と。被害者意識の塊みたいな声にあきれましたね。(中略)この政治資金さえできない党が国民負担増をどの顔で求められるのかという意味で統治能力がないんじゃないかと見ざるを得ないと思いますね(1分30秒)。

膳場貴子氏:では一週間続けます。15日の水曜日です。

まさにヘイヘイヘイという感じです(笑)。

『サンデーモーニング』は、日頃から事あるごとに「表現の自由ガ~」「言論の自由ガ~」とヒステリックに叫んできたのですが、コメンテーターに至っても無理やりこの問題を矮小化しています。

藪中氏は、全く異なる二つの問題に対して「本質は裏金問題」などという意味不明な言い方で話を始め、自民党の説教に終始しました。

佐藤千矢子氏は「藪中さんがおっしゃった通りで」と続けて、藪中氏と同じように自民党を非難し続けました。「藪中氏がおっしゃった通り」のことを繰り返すのであるなら、選挙妨害の話をする方が視聴者のためになったはずです(笑)。松原氏に至っては、異様なまでにこっぴどく自民党を罵り続けました。

黒川氏を繰り返し取り上げて有名に

それではなぜ、彼らは選挙妨害問題を避けたのでしょうか。その理由としては、番組が過去に安倍晋三氏に対する選挙妨害を正当化するような放送を行っていたことが挙げられます。

目加田説子氏:都議選で安倍氏が選挙の投票日の前日に入った応援演説の時に「やめろ」コールが起きて、それに「こんな人たちに負けるわけにいかない」と言った。何か驕りというか、有権者を挑発するような発言が続いてきた。あそこがピークだった。潮目が変わった(2017年7月9日)。

高橋純子氏:安倍元首相の銃撃事件や岸田首相の襲撃事件があって、裁判所の方が警察官の行為は適法だったという判決について都合のよい証拠をつまみ食いしていると判決(北海道道警ヤジ排除訴訟で男性が逆転敗訴)を読むと見える。やっぱりヤジを飛ばすということは表現の自由の問題なんだという重大な認識をもってこの判決を出したとは思えない。残念だ(2023年6月25日)。

といったように番組は選挙妨害を正当化し、擁護してきたのです。

それだけではありません。

実は、今回の選挙妨害で「ヘイヘイヘイ」と暴れまくったつばさの党党首の黒川敦彦氏は、加計問題を追及する正義の市民活動家として『サンデーモーニング』が繰り返し取り上げて有名になった経緯があります。黒川氏は、テレビ的には『サンデーモーニング』の申し子なのです。

2017年衆議院選挙に安倍総理の対抗馬として立候補した際にも取り上げましたが、この時に安倍氏の陣営に対して演説妨害を繰り返していたことが知られています。

『サンデーモーニング』が取り上げた黒川氏の清廉な雄姿は残念ながら猫を被った姿であり、実際には「ヘイヘイヘイ」だったわけです(笑)。『サンデーモーニング』がこの事実をなかったことにしたいのはよくわかります。

自民党に対する選挙妨害は正義

さて、この問題に対して唯一コメントをした荻上チキ氏ですが、そのコメント内容も事実とは乖離しています。

荻上チキ氏:抜け穴をめぐっては、つばさの党の方でも議論になりましたね。選挙戦術に名を借りた抜け穴ではないかと。なので、立法で厳しく対処すべきだという議論があったが、今のところ現行法で選挙妨害ということになるのではないかと疑いがもう出ている。これまでもいろんなヤジとか抗議とかあったわけですが、それらというのは一線が引かれていまして、要は演説を妨げるようなことではなかった。そして聴く側の有権者の判断する側の権利を確保するものであった。こうしたような判断というものが、例えば裁判例上も、具体的な社会通念上も共有はされていたわけですね。

端的に言って、安倍氏の秋葉原演説と札幌演説の妨害を「演説を妨げるようなことをしなかった」とするのはかなりアクロバティックです。

これを仮に「演説を妨げるようなことをしなかった。そして聴く側の有権者の判断する側の権利を確保するものであった」と司法が主張するのであれば、それはあくまでも司法の主観であり、これを「社会通念上も共有している」とするのは大きな疑問です。

事実と乖離したデタラメな主張を無批判に肯定することが真面なジャーナリズムと言えるでしょうか。

このような卑劣な迷惑行為によって周辺の人々が演説を聴くどころでなかったことは明確です。そもそも「やめろ」「帰れ」というのは脅迫的な命令であり、表現のうち非言論の要素であり、言論の要素ではありません。

このような非言論の要素を表現の自由という美辞麗句の下に行使し、政治家の言論の自由と有権者の知る権利を侵害するという卑劣極まりない行為を公共の電波を使って正当化する『サンデーモーニング』は民主主義の明確な敵です。

『サンデーモーニング』にとって重要なのは、あくまでも自民党を非難する事であり、自民党に対する選挙妨害は正義なのです。

どう考えても「うむ」はメタファー

さて、『サンデーモーニング』は選挙妨害の話題をまともに取り上げませんでしたが、それとは対照的に本当にどうでもいい言葉狩りの話題を取り上げました。

膳場貴子氏:18日土曜日、上川外務大臣はこの日、県知事選の応援のために訪れた静岡市内で演説し、次のように述べました。

上川陽子氏(録音):一歩を踏み出していただいたこの方を、私たち女性がうまずして何が女性でしょうか。

膳場貴子氏:産みたくても産めない人への配慮に欠けると自民党内からも批判の声が上がりました。

まず、メディアがよく使う「自民党内からも批判の声が上がりました」は、自民党の一部議員をもっともらしい権威として使う【権威論証 appeal to authority】であり、論理的には何の意味もありません。

また上川大臣は、「私たち女性」が新県知事を「生む」ということであり、「産む」ではありません。「産む」という行為は個人が行う行為であって、「私たち女性」という複数ができるのは「生む」という行為だけです。

佐藤千矢子氏:発言は自民党の知事選の推薦候補を生まずしてという意味で、女性に直接「子どもを産め」と言ったわけではないが、やっぱり女性が産む性であるということと知事を誕生させるということをくっつけてしゃべったばかりに「産まない女性は失格である」と意味として受け取れてしまう。私も産んでないので非常に不愉快だ。傷ついている人はたくさんいると思う。

上川氏は、女性支持者が多く集まった屋内の集会において、誰でも使う「生みの苦しみ」という【メタファー(隠喩) metaphor】で物事を創造することの苦しみをわかりやすく伝えたのであって、これを「産まない女性は失格である」などとアクロバティックに解釈して人格攻撃するのは【言葉狩り kotobagari】に他なりません。

ちなみに佐藤氏が所属する毎日新聞の記事検察で「生みの苦しみ」あるいは「産みの苦しみ」で検索すると、いずれも大量の記事がヒットします。

むしろ共同通信による差別

そもそも、差別感情の研究者の中島義道氏は「差別感情の強い人ほど正常と思われたい欲望を発揮し、自分の周囲に異常な人を嗅ぎつけ、括りだし、告発する」と述べています。

むしろ産めない女性を差別しているのは、この解釈を思いついて告発した共同通信です。マスメディアが言葉を巧妙に切り取って蔑視を統制するような社会は専制的な恐怖社会です。

佐藤千矢子氏:子どもを産むとか産まないというのは、個人が決める権利があることで、他人とか、ましてや国とか、国会議員とかが「産め」とか「少子化のために産め」とか強制する権利は全くない。そんなことは本当に人権無視だ。上川氏は直接言っていないが、意味としてはそれに近いことを言ってしまった。非常に不適切で不愉快で傷ついた人が多い発言だ。

意味としてそれと近いことを言ってしまったのが非常に不適切であるのならば、この発言こそ、上川氏に対する人権蹂躙の不適切な発言です。選挙運動は国会議員の資格で行っているわけではなく、今回の上川氏の発言は個人の発言です。

これは、メディアの人間が公共の電波を使って個人を裁く【私刑 lynch】に他なりません。

以上からわかるように『サンデーモーニング』は自らの論調に不都合な重大な問題(選挙妨害)から目を背け、自らの論調に好都合な些細な問題(自民党攻撃案件)を取り上げるというトンデモな【アジェンダセッティング(話題設定) agenda setting】を行っている番組です。

このようなあからさまな偏向報道こそ、この番組の最大の見どころなのです(笑)

藤原かずえ | Hanadaプラス

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